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第一章④

 アルドール国は、王族があまりにも強すぎる、として有名だった。この国に来る前、アルドール国の王族は不死なのではないか、と言う話を聞いたことがあった。戦場で現王カイゼルスを槍で貫いたものがいたらしい。だが王は死なず、血も出なかったとのことだった。


 遠目でそれを見たと話す兵士は、恐怖で幻覚を見たのだろう、と言うことにされていた。


 だがヴェルシアナにはそれが引っかかった。不老不死の自分でさえ、怪我をした瞬間は血が出るのだ。それさえないということが不思議だった。それに不労ではない。現在は体調を崩しているという噂もある。


 ヴェルシアナのちょっとした好奇心をくすぐる王族の謎がこの国にはあった。


「マルグリット王妃のおなりでございます」


 エルフェリオと同じく階段を降りたきたのは、彼と同じ金髪碧眼の王妃だった。その姿を見て、そっとルミエットに耳打ちをする。


「あの方が王妃様ですの?」


「えぇ。びっくりしますよね」


 エルフェリオの隣に立ち手をあげる女性は美しい王妃だった。息子と母親が並んでいるとは思えないほど若く見える。


 だがその王妃の顔には表情がなかった。


「丸グリッド様は、実はアルドール国が滅ぼした国のお姫様だったそうです。今の王様の妃として迎え入れられた時、十六歳とかだったそうで、それからすぐご懐妊されたとか…」


 ルミエットが小声で教えてくれた。敵国に連れてこられ、自分の父親よりも年上の男に嫁ぐことになった彼女は、おそらく心を殺してしまったのかもしれない。口元だけでなく目にも全く感情がなかった。


「でも変わらずの美しさから、アルドールのビスクドール、なんて呼ばれてるんですよ」


 確かに彼女は人形のような美しさだった。だがその動かない表情を揶揄する言葉のように思えて、手放しでその美しさを賞賛している言葉とは思えなかった。


「ごきげんよう」


 挨拶を終えたエルフェリオとマルグリッドが最初に声をかけた相手はヴェルシアナだった。令嬢たちが美しい所作で頭を下げつつ道を開ける。正面から向かい合う形となり、ヴェルシアナの神秘的な赤の混じる銀髪と紅の瞳にエルフェリオは少し驚いたように目を開いたが、マルグリッドは何の表情も見せなかった。


 マルグリッドが令嬢たちを見てそっと頷く。理解したように彼女たちは一礼をして離れていった。遠巻きに男性も女性も三人を見ていた。その場だけまるで絵画を切り取ったように見えた。


「ご招待いただき、心より感謝申し上げます。ヴェルシアナ・ノルティアと申します。お目にかかれて光栄に存じます」


 流れるような辞儀をするヴェルシアナに、エルフェリオは屈託のない笑みを返した。


「私はエルフェリオ・アルドール。エルと呼んでくれて構わない。お会いできたことを喜ばしく思う」


 そっとヴェルシアナの手に挨拶をするエルフェリオは、裏表のない青年らしく人々に愛されているのも頷けた。ただし、これほど真っ直ぐなのは、王として国を治めるにはいささか心配だと、ヴェルシアナは心の内で思った。


「あなたのご評判はかねがね伺っておりますわ。この国ができるよりも前からご存命とか…。ここは以前どのようだったのかしら?」


「わたくしは渡り鳥のようなせいかトォ送っておりましたゆえ、この地の歴史については理解が浅いことをお許しください。ここより西に大変美しい湖があったことは記憶にございます」


「私が此度の大蛇討伐をした地ですね。確かに大変美しい湖でした」


 エルフェリオが笑って答えるのを聞き、ヴェルシアナは記憶を辿ってハッとした。


 以前死のうと思ってさまざまな毒を試していた時、一噛みしてもらった大蛇がいた。その蛇は特に周りに被害を出してもいなければ、むしろ周辺の秩序を守っているようにも思えたが、その蛇が討伐されたようだ。


 その蛇の毒もすぐに耐性がつき、噛み跡もすぐに治ってしまった。しばらくその湖の近くで大蛇の毒の研究をしたあの地を少し懐かしく思うが、その話は自分の胸の内にだけしまっておくことにした。


「けれど、あなたは我々が一生かけても得られないほどの医術の心得をお持ちとか…」


「恐縮の至でございます。年月を無碍に重ねたばかりの浅学にございますわ」


 ヴェルシアナの言葉に、マルグリッドは扇を広げて口元を隠した。


「さりとてお頼みしたいことがございますの」


 声をひそめるところから、周りに知られたくない頼みなのがうかがえた。ヴェルシアナは意図を汲み取りそっと小さく頷いた。マルグリットもヴェルシアナが理解したことがわかると扇をたたんだ。



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