第7話
レベル上げは順調に進んでいる。
家を作てから今日で42日。レベルは88まで上がった。森を踏破出来る最低ラインのレベル85はクリアした。
しかし、俺は未だに森の中で生活している。
理由はいくつも有るけど、1番の理由は先日【植物創造】というトンデモないスキルを取得してしまった。このスキルで、米や麦の種を作る事に成功したのだ。今は5階のプラントで種を増やしている最中だ。
これで食料問題は完全に解決したと言える。つまり、“街へ行く”という理由その物が無くなってしまったのだ。
2つ目の理由は【全属性魔法】のスキルを取得したので、魔法の使い方を勉強中である。
勉強と言っても、思い付いた魔法を適当にブッ放してるだけだ。そこそこ威力があるので森の中で試し打ちをするのは危険だ。
最初にファイアボールを試しに使ったら、森が1ヘクタールほど焼け野原になってしまった。それからは自宅の壁に魔法を打つ練習をしている。家はドラゴンの攻撃にも耐えれるらしいので、練習相手としては最適だ。
『セン様、先日栽培を始めた果樹の収穫が可能になりました』
え?もう収穫出来るのか。早過ぎないか?
5階の穀物用プラントの一部を使って、林檎や桃の他にも保存できそうな栗や胡桃の栽培も始めた。勿論、最初の種は【植物創造】で作った。
「でも植えたのは3日前だろ?もう収穫出来るのか」
『はい。セン様の【農業】スキルとあたしの技術力のコラボレーションです』
なに、そのコラボレーション。注意書きに“混ぜるな危険”って書いて無い?
俺が異世界に来て一番ファンタジーを感じたのは家の中なんだよ。
森にはスライムとか、巨大な昆虫の魔物がいる世界だけど、場所が変われば生態系も変わると思ったら理解も出来る。
24時間いつでも使える大浴場とか、勝手にベッドメイキングされる寝室とかは、技術力で可能だろうと思う。
でも、朝、野菜の種を植えて夕方に収穫出来るプラントは、俺の理解力を超えてるんだよ。世界のバランスとか色んな物が壊れそうで怖いんだよ。
そこに来て今回は果樹だろ?
“桃栗3年柿8年”って聞いた事があるけど、ファンタジーの謎パワーで年単位が数日に短縮出来るとか、意味不明過ぎる。
この家があれば、森に引きこもる所か、月や火星にも住めそうだ。
「それじゃあ、収穫しに行こう」
『その必要はありません。室内にある果樹は全てセン様の所有物です。魔物のドロップと同様にあたしが収納しました』
そこまで出来ちゃうの?凄すぎないか?
野菜プラントの収穫もさせてるから、今更ではあるか。
サポートシステムが優秀過ぎて、俺の出番が無い。
楽が出来てとても便利なんだけど、“俺が存在する価値”がドンドン低下してるような気がする。これで良いのだろうか?
お米の収穫はもう少し時間がかかるようだけど、将来的には栗ご飯が食べれそうだ。
米や麦が大量に作れるようになったら、日本酒やビールの製造が出来るかな?発酵させる酵母は【植物創造】で作れるのだろうか?これは今後の課題にしよう。
「それじゃあ、今日は南側の森へ探索に行って見る」
『そうですか、南側はウルフ系の魔物が多く生息してますから動物性タンパク質に期待しましょう』
「ムーちゃん。一応言っておくけど、この家に引きこもる為に食料を集めてる訳じゃ無いからね。自由に食べれる量の米や麦がストック出来たら街へ向かうよ」
『はい。あと4日程必要です。最初に【植物創造】で作った種が少なかったので増やすための時間が必要です』
確かに、最初に作った種は、米10粒、麦10粒だったからな。
最初【植物創造】を取得したと聞いた時は、神様のようなチートスキルだと思ったけど、このスキルもやっぱり使い勝手が悪かった。
思い通りの植物を作れるが、作れるのは基本的に種の状態だ。おまけに非常にMPを使うようで、米10粒作っただけで家を作った時の何倍も疲労した。
縦横高さ18メートルのコンクリートの家を作るより疲労するスキルなんて、日常的には使えない。
この世界の人は、こんな使い勝手の悪いスキルをバンバン使えるような超人的な人が多いのだろうか?街に行くのが少しだけ楽しみだな。
☆★☆
『セン様、前方にワーウルフの集団が隠れています』
「え?どこ?俺には見えないけど」
『はい。隠れてます。この場所から地上50センチの高さでウインドカッターを打ちましょう』
「ウインドーカッターーー!!」
前方の巨木がウインドカッターに斬られて倒れる。と思った瞬間、パッと消えた。その先に生えている木も、次々にパッと消えていく。
パッパッパッパッパッパッ・・・
「えっ、ちょっと・・・。どうして木が消えるんだ?」
『約420メートル先まで伐採されたので全て収納しました』
消えたのは収納したからか。
じゃ、なくて!420メートルも斬ったのか?
魔法って凄いな。1発で自然破壊が出来ちゃうのか。
「そう言えば、ワーウルフは倒せたのか?」
『問題ありません。108匹全て討伐してます』
「そんなに隠れてたのか。なんというか、一方的に殺戮した気分だな」
『ワーウルフの巻き沿いで斬られた木の方が気の毒です』
それは俺のせいじゃないだろ!
ムーちゃんがこの位置からウインドカッターを放つように指示した結果だろ?
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。