第3話
「ムーちゃん、まずは現状の把握からしようと思う。この家が有る場所はわかるか?」
『勿論です。現在この家が有る場所は、森です』
ハァ。だよねぇ。森の中にポツンと家が有るんだよ。
そんな事は訊かなくても知ってた。
ムーちゃんに訊いた俺がバカだったのか?
それとも、訊き方が悪かったのか?
うーん。もっと具体的な質問をしてみよう。
「あぁ。そうだな。俺は街に行きたいんだ。この辺の地形は知っているか?」
『もっとも近い街までは直線距離で約80キロメートルです』
80キロ!! マジかぁ!
足元の悪い森を歩くなら、1日の20~30キロメートルが限界だろう。それに森の中を直線で歩く事なんて出来ない。とても1日や2日で移動できる距離じゃないぞ。
これはマイッタなぁ。ムーちゃんのナビが有っても簡単に往復出来る距離じゃない。食料を街で手に入れる案は棚上げになりそうだ。
ん?
ムーちゃんは街までナビが出来るのか?いや、その前にどうして街までの距離を知っているんだ?
「ムーちゃんは何処でこの近隣の情報を手に入れたんだ?」
『この世界へ転移した時にアップデートしました』
そう言えば、最初に“アップデート”とか言ってたな。
でもこの場所はインターネットも繋がらないし、テレビの電波も無いんだぞ。アップデートするにも、どうやって情報を得たんだ?入手手段も気に成るけど、誰から提供された情報だ?
待て待て、それ以前の問題がある。
「この世界って言ったよな?ここは異世界なのか?」
『地球から見たら、異世界に該当します』
これは予想外だ。まさか異世界転移を肯定されるとは思って無かった。
神様に会うとか、ゴブリンに襲われるとか、魔法を使うとか、もっとファンタジー的な経験をして異世界転移を知るのがテンプレだろ。
「もしかして、森の中には凶暴なモンスターとかもいるのか?例えば熊よりも強いヤツは、いるのか?」
『はい。います』
詰んだ。
そんな強いヤツが住んでる森で狩猟なんて出来る訳が無い。絶対に俺は喰われる側の生物だ。
森で食料を得る事も出来ない。街に行く事も出来ない。八方塞がりだ。
「ムーちゃん。食料を手に入れる方法は有るか?このままじゃ、近いうちに餓死しそうだ」
『大丈夫です。セン様が死ぬとあたしも困るので全力でサポートします』
お!サポートシステムが俺をサポートしてくれるようだ。これならモンスターを避けながら街まで辿り着けるかもしれない。
俺はムーちゃんの指示に従って動きやすい服装と、走りやすい靴を履いて家の外へ出た。
『最初は準備運動です。家の周りを100周走りましょう』
え?準備運動が100周? バカじゃ無いの? サポートシステムが壊れちゃったのかな?
肉体は若返ってるけど実年齢61才だぞ。老人を労われよ!
「ムーちゃん。100周はチョット・・・」
『そうですね。あたしも少ないと思いました。300周にしましょう』
ゲッ!
増えたよ。増えちゃったよ。これって文句を言ったらノルマがドンドン増えて行くパターンか?
サポートというよりも鬼軍曹じゃねーか!
☆★☆
『はい、止まって下さい。今ので300周が終わりました』
俺はムーちゃんに指示される通りに1時間くらい走った。たぶん、家の周りは1周50メートルくらいだから、15キロメートルを1時間で走った事になる。決して早いスピードでは無かったが、全く疲れていない。
肉体は若返ってるけど、流石にこれはオカシイ。高校生の頃、体育で10キロメートル走らされたら、次の授業は完全に寝ていた思い出がある。
この体は若返っただけじゃ無いのか?
俺が自分の体の異変について考えていると、ムーちゃんから質問された。
『セン様は得意なスポーツや好きなスポーツは有りますか?』
「スポーツ全般苦手だったが、あえて言うなら得意なのは麻雀。好きなのはジグソーパズルだ」
『・・・予想以上です。戦闘への応用が出来ればと思って質問したのですが、スポーツかどうかも怪しい回答が来るとは想定外でした』
俺は平和主義だからな。誰かと競うとかは苦手なんだよ。
戦闘への応用と言われても、俺は殴り合いの喧嘩なんてした事が無いんだ。
漫画とかでは良くあるが、“殴り合えば相手の事が理解出来る!”という精神論的なストーリーは納得出来ない。殴り合う事で相互理解が出来るって事は、相手も自分と同じ精神構造してるんだから、殴り合う必要なんて最初っから無いんだよ。チョット考えれば気付く、類は友を呼ぶとか同族嫌悪って事だ。
『仕方が有りません。何を使っても初心者同然なので、木の棒で素振りから始めましょう』
「ところでムーちゃん。この森のモンスターの強さって、どのくらいなの?日本に生息してる野生の熊は、10段階でどのくらいの位置なのかわかる?」
『だいたい3くらいです。勿論弱い方から数えて3番目という意味です』
チョット待ってよ。いくら素振りしたって、熊に勝てるイメージが持てないよ。その熊が下から3番目って事?
異世界、ヤバ過ぎるだろ!
「どう頑張っても熊に勝てない俺が、素振りの訓練をする意味があるのか?」
『地球の常識で判断するのは危険です。ここはレベルという概念が存在する異世界です。全く問題ありません』
えぇーー!!
レベルが有るなんて聞いてないよ!
そういう重要なことは最初に、教えてよー。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。