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第1話

 俺は于チ干(うちぼし )(せん)。年齢は61才らしい。

 “らしい”と言うのは、俺の記憶は43才までしか無いからだ。

 ある日、大地震が起こり眠っていた俺の頭にパソコンが直撃した。その時の衝撃で俺は昏睡状態になったらしい。

 どうしてパソコンの下で眠っていたのか、と訊かれてものっぴきならない事情が有ったのだ。具体的には新品のパソコンに色々とインストールしている最中、寝落ちしたのだ。

 ようするに、不幸な事故だった。

 自宅の部屋で寝落ちして、目が覚めたら病院で更に18年も経ってる。最初は冗談だと思うくらい信じられなかった。

 しかし、現実だと実感すまでにそれ程時間はかからなかった。体が動かせなかったのだ。声すらマトモに出せなかった。

 医者から、「長期の昏睡から復活した事は奇跡が起こったと言うしか説明が出来ない」という、説明に成って無い説明を受けた。

 だが俺としてはどうせ奇跡が起こるなら異世界転生の方で、お願いしたかった。


 18年も寝た切りだった俺の体は、筋肉が落ち関節は殆ど稼働しなくなっていた。

 半年間宇宙に居た宇宙飛行士が地球に帰って来たら、自力で歩けない程に筋力が衰えているらしい。俺の場合はベットの上に17年だ。歩くどころか、指先一つ動かせなかった。

 翌日から俺のリハビリが始まった。動かない体を無理矢理動かす訓練だ。柔軟体操で他人に押されたり引っ張られると滅茶苦茶痛いのは知っていたが、それを全身の関節に行うのだ。ハッキリ言って、拷問だ。

 どうせ奇跡が起こるなら、リハビリしなくても動かせる体をセットで用意して欲しかったよ。


 地獄のようなリハビリを続けた結果、俺は1分間自立して立てるようになった。杖を使えば1度に30メートルを歩けるようになった。

 肉体年齢が61才、精神年齢は43才の俺としては頑張った方だと思う。

 1人でトイレに行けるようになった頃、退院だと言われた。

 やっと歩けるようになった体は、非常に疲れやすい。

 トイレに行くだけでも疲れてしまい、休憩が必要になる。とても自立した生活が出来るとは思えないが仕方が無い。


 俺の記憶では数カ月ぶりの自宅。実際は18年ぶりの帰宅となった。

 両親は俺が昏睡している間に亡くなっている。俺は独身で子供もいない。頼れる人は誰も居ないが、親が残してくれたお金と年金があれば今後も暮らしていけると思う。

 不自由なこの体では、どうせ長生きは出来ないだろう。ある意味安心だ。


 自宅には見覚えの無い家具が増えていた。俺が居ない間も両親が生活していた証拠だ。自宅の些細な変化を見つける度に、何とも言えない気持ちが押し寄せて来る。

 そんな感情とは裏腹に、俺の体力はすぐに限界をむかえた。

 今の俺の体力は、3分間動いたら30分の休憩が必要なのだ。非常に燃費が悪い。おまけに昼寝も必要な体だ。立つ、歩く、という当たり前の事が今の俺には重労働だ。

 子供の頃見ていた特撮のウルトラな人の気持ちが少しだけ理解出来る。ウルトラな人は怪物と戦いながら、制限時間とも戦っていたのだろう。俺の場合は尿意と戦いながら、漏らす前にトイレにたどり着くという戦いなので似ている。


 俺の部屋には、俺を昏睡へと誘ったパソコンも有ったが八つ当たりをする体力も残って無い。俺はベットに横になり、そのまま昼寝をした。


 ☆★☆


 目を覚ますとなんだか体が軽い。いつもはベットから起き上がる為に気合を入れないといけないのに、スッと上半身が持ち上がった。

 トイレへ向かうと、スタスタと歩けてしまった。


「どういう事?リハビリの成果が今、出て来たのかな?」


 洗面所で鏡を見ると、そこには高校生くらいの俺が居た。


「え?」


 意味がわからない。なんで若返っている?

 俺だけが若返ったのか?

 それとも、俺だけじゃ無く時間が巻き戻ったのか?

 俺の頭は目まぐるしく色んな可能性を推察するが、最初に確認する事は1つだ。


 仏壇には両親の遺影が有った。どうやら時間は巻き戻って無いようだ。俺だけが若返った可能性が高い。理屈は全く理解出来ないが、奇跡が起こったようだ。

 神様もどうせ奇跡を起こすなら、あの地獄のリハビリ生活の前に起こして欲しかったよ。


 しかし、これだけ見た目が変わってしまうと身分証とかはどうすれば良いんだろう?

 うーん・・・。

 その辺りは明日考えよう。明日の俺なら、何か良い方法が思いつくかも知れない。ようするに、問題の先送りだ。

 そんな事よりも、自由に歩けるようになったんだ。まずはコンビニで食料を買って来よう。


 玄関のドアを開けると、アスファルト舗装の道が無かった。


「ここ・・・どこ?」


 工事の為にアスファルトを取り除いた訳では無く、道路その物が無い。近所の家も無い。有るのは広さ50メートル程の草原とその先の森だけ。

 空を見上げると、青空を優雅に飛ぶドラゴンのような形をした何かが飛んでいる。


「へ?」


 ここは・・・異世界?

 いやいや、異世界に来るなら普通は何かキッカケが有るだろう?

 トラックに撥ねられるとか。

 足元に魔法陣が光るとか。

 神様から説明を受けるとか。

 思い当たる事は何にも無い。無い無いだらけだけど、家はある。

 どうしよう。俺の理解力を超えているぞ。


「あぁ。これは夢だな。うん、夢に違い無い。もう一回寝よう」


 寝て起きたら、元通りになってるだろうな。

 ・・・なってて欲しいな。

 ・・・なってて下さい。お願いします!


 ☆★☆

この物語はフィクションです。  

実在の人物・団体・地名とは一切関係が無い訳が無い。


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