8.自立しようとしたとき、叩き潰してくるのが一般人という生き物だ。
川に落ちている石を拾う。
川にはいろんな種類の意志がある。オレンジ色、灰色、白、いろんな石がそのすべての石が、みな平等に流される。
拾われた石は、ずっと人の手で大事にされるか、飽きたと言って捨てられる。
この自然の中では皆が平等だ。だが、人が入った瞬間平等じゃなくなる。
僕も不平等を押し付ける一人なのだ。
「お兄ちゃん、何を気難しい顔をしてるの?」
木の木陰に座った妹が俺にそう問いかけた。ゴミ捨て場から持ってきた破れた団扇を仰ぎながら。僕は少し不機嫌になりながらも、作業を再開する。
「せっかくアメマスが釣れたんだから、焼いて食べようって言ったの古石だろー!作業手伝ってくれよー!」
大きな声で妹にそうお願いする。妹は聞こえていないようで、暑そうに団扇を仰いでいた。
わがままな妹だ。だが、釣竿を見つけてきたのは古石なのだし、少しくらいは大目に見よう。
魚を食べるのが楽しみだ。
__________________________
「...」
どうにもならない気持ちと、頭痛と寒さの中で俺は目を覚ました。
嫌になりながらも起き上がり、窓の外から朝日を見る。
どうやら今は日の昇り始め位らしい。
「あら、起きたようね。どうしたのその顔」
「人を殺した次の日だからな。罪悪感で死にそうだ」
「もう30人くらい殺したくせに何言ってるんだか、ふざけてないで準備しなさい。少し歩くわよ」
俺は壁にかけておいたライフルを背中にかける。熊谷はもう準備できているようで、背中に銃を背負っていた。
熊谷がポケットから何かを取り出し、俺に差し出す。
「はいこれ、栄養ゼリー」
「...」
「何よ、文句あるの?」
「いや、いただく」
俺は熊谷からゼリーを受け取り、一気に飲み干してポケットの中にしまう。
「...それで、これからどこに行くんだ。長万部まで行くんだろ?」
「そうね、一応テレポートは回復した。でもこの一回は大切に使いたいので、今日はワープなしで移動することにするわ」
「...まて、長万部まで何キロあると思ってるんだ。」
「ざっと、66kmくらいね」
「お前のワープで移動できるのは半径5km、そして俺達は警察に指名手配を受けている状態だ。いつ捕まってもおかしくない状況で徒歩で移動するのか?」
「言っておくけどここも安全じゃないわよ。事件現場から5kmしか離れていないから。それにワープできるところもどこでもワープできるわけじゃない。
私の能力は半径5kmをどこでもワープはできるけど、本当にどこでもなの、座表計算や高さを少しでも間違えたら土の中で圧死したり、空から落ちて転落死するわ。だから、本当に慎重に使わないといけないの」
「話の中で矛盾を起こすのをやめてくれ。わかったよいくよ。それでまずはどこに行くんだ」
「今日の目標は、まずはこの近くにある道道58号に出て、そこをたどって小湯沼ってところに行くわ。そこから私の能力でワープして、ニセコ町の中に潜入する。それが目標ね」
「徒歩で行くのか?車は」
「奪ってもいいんだけど、この近くってあまり車通らないのよ。だから車を奪うならニセコ町で奪うことになるわ」
「つーことは今日は完全に徒歩か...ここ森の中だろ?道に迷わなければいいが」
「その点は抜かりなし、中間地点があるからね、そこに出れればもう迷うこともない。そこまでは完全な山道だけど我慢してね。ほらっさっさと行くわよ」
手を引かれ、俺は外に連れ出された。不安だ。
_____________________
朝日が出る森の中で、何時間歩いているだろうか。
のどがからっからになり、おなかがすいた。視界がゆらゆらと揺れている。
「...おい、あとどれくらいで着くんだ。中間地点らしきものすらないぞ」
「あともうちょっとよ、もう少しで見えてくるはず...ほら見えてきた!早くこっち来なさい」
呼び止められ俺はよれよれになりながら視線を上にあげる。
そこにあったのは、大きな湖だった。
美しい森の中を湖が反射している。青空を映す湖は、まるで芸術作品のようだ。
「ここが中間地点、名前は鏡沼」
「こんなところがあったのか」
「ここは車で行けないからね、登山道の途中にある。小さな沼、でも綺麗でしょ?」
「ああ、きれいだ。本当に」
「少し休憩するわよ。体力はずっと持つものじゃないからね」
俺は地面に座り込み、じっと沼を見つめる。透き通っている。
昔も、こんな風に水辺でゆったりとしていたのを思い出す。
「きれいよね、この沼。人があまり訪れないからこそ、この美しさを保っている。ここに人が訪れないからこそ。ごみを捨てられたりして、汚れることがない。昔はどこもここの沼のように、どこも透き通っていたのにね」
...昔のことを思い出した。妹と川で遊んでいた日々を、あそこの川はきれいだった。同じ中学校の奴らは、俺がいるからと寄り付かなくなった川。
あの川は今でも綺麗なままなのだろうか。
「俺は、日本人を皆殺しにする。ごみを捨てたからでも、世界をこんな風にしたからでもない。日本に妹が殺されたからだ。それ以外に理由はない」
「今はそれでもいいのかもね。でもね、人の怒りはそんなに続かないものよ。少しずつ悲しみが打ち勝っていく。そりゃそうよね。怒りは悲しみのなれの果てでしかないのだから。燃え上がる炎が消えたら、そこに残るのは塵になった感情だけ」
「...」
「その時、貴方が自分を正当化する人間に成り下がらないことを祈るわ」
彼女にそう問いかけられる。俺は、ただこの沼を見ていた。




