49.世界は残酷だと、元凶はつぶやいた。
ヒーローの力を手に入れた彼女は想像以上だった。
魚の化け物が、一匹だけならば何も問題なく倒していた。
私はそれを茫然と見ていた。
私たちが脱線した地点は、長万部の端っこ八雲町と長万部の間だ。
どっちの町からも遠いこの場所ですら、化け物たちは大量にいた。
道を歩けば8匹程度が群れを成して、辺りを歩いている。
私たちは隠れながら、どうしても通れない場所をモモちゃんが処理する。
そうやって、前を歩いて行った。だが、どこに向かえばいい?
この化物たちは街にも出現しているだろう。それは長万部だけなのか?八雲にもきているのでは?
そもそもどうしてだ、どうしてこんなことになっている。どこに逃げればいい。どこにいけば、桃ちゃんを安全な場所に避難でき
「...光希ちゃん」
桃ちゃんが、私の手を両手で握った。そこで気が付いた。手が震えている。
いや、足もだ。私は恐怖していたのか。
...怖い、怖いよ。そりゃそうだよ。どこにいけばいいの。どうなっているの?わからないよ。
「...大丈夫、私はずっと一緒にいる」
「...ありがとう、桃ちゃん」
そうだ、桃ちゃんも怖いんだ。意味の分からない状態になって。変な力を手に入れて対抗できたとしても、そんな状況だったとしても、怖くないはずがない。そんな状況で、手を握って勇気づけてくれたんだ。私も報いなけば
「...多分、この魚たちは海から来てる。なら、今長万部に行くのは得策じゃない」
「...うん」
「それに、私たちの乗っていた電車は長万部に入った瞬間に襲われた。でも、今から八雲町に戻っても、多分また同じ魚の化け物に襲われると思う。なら、山を登ろう」
「光希ちゃん、でも、長万部から山に行くルートは」
「うん、この近くだと国道230号線しかない。でもあそこから登れば、ピリカ湖に行ける。山の上にあって、発電機もある。そして、農場もあるから、人がいるし、長万部から脱出もできる。これしかない」
「...わかった。光希ちゃんを信じる」
...でも、問題はそこしかルートがないことだ。今の私たちは完全な私服だし、お土産のお饅頭しか持ってない。山道を通るには危険すぎる。
だからこそ、このルートしかない。だけど、このルートに行くには必ず、海の近くにある橋を渡らなければならない。
...そこで待ち伏せされていた場合、桃ちゃんに戦ってもらうしかなくなる。それはだめだ。この力がどういう原理なのかすら分かっていないじゃないか。それに、桃ちゃんにはできるだけ戦ってほしくない。
「...230号線にいくには、必ず橋を通らないといけない。それも海から近い」
「この近くに橋ってあったんだ」
「うん、でも多分そこにはあの化物が大量にいると思う。道中の数に加えて、海から増援が来るかも」
「...考えてみたんだけど、この近くって高速道路あったよね?そこに行ってみよ」
「高速道路?」
「うん、高速道路は事故を起こした人用の非常用通路があるはずだから、底を探して高速道路に行ってみるの。高速道路だったら入りずらいし、人もあなりいないんじゃないかな」
「...モモちゃん!ナイスアイディア!」
「イエーイ!」
私たちはハイタッチをしてから、スマホで現在地を調べる。電波はかなり悪いが、何とか現在地を把握することができた。
「上に登ればもうありそうだね」
「うん、向かってみよう。案外何とかなるかもしれない」
今私たちは、畑が放置されて、草原になっていた場所を通っていた。そこから、家がぽつぽつある場所から、少しの丘を登れば、高速道路に上がれそうだ。
私たちは、急いでそこに向かった。多分色々なことが起きて、マヒしてたんだと思う。きっと心のどこかで大丈夫って思ってたんだ。
「なに、これ」
目の前のこれが現れるまでは、そこは町はずれにある田舎だった。
畑があり、小さな家がぽつぽつあるような、よくある形の田舎。
何も変わらない。村の光景だ。
ハエが大量にいることを除けば
私たちは奥に進む。高速道路を目指して、一歩一歩
奥に進んでいくにつれて、ハエが多くなっていく。
村は驚くほどに静かだ。いや、村は静かなものなのかもしれない。でも、それでも人の気配がなさすぎる。
歩みを進めて高速道路の前にたどり着いたとき、私たちは目の前のものを見て動けなくなった。
「あ...あぁ」
それは、死体の山だった。熊、鹿、牛、豚、そして人。すべての生物の肉のかけらが山積みになっている。
飛び回るハエが死体に泊まり、卵を産み付ける。死体に産み付けられた卵が孵りウジたちが死体を飲み込んでいく。
「うっうえ...」
私は胃のものを吐き出す。その瞬間、ハエが嘔吐物に泊まり、また卵を産み付けた。
「光希ちゃん」
桃が私の背中をさすってくれる。それでも私は吐くのをやめられなかった。
胃の中のすべてを吐き出した時、ようやく立ち上がれるようになる。
「ごめん桃ちゃん...もう大丈夫」
「...うん」
私たちは、何も言えなかった。くらくらとする頭をなんとか動かし、この場を後にする。駆け足でこの場にいたくなかった。この現実を見たくなかった。
高速道路に上り、周りを見渡す。車が転倒し、街の外に向かう通路をふさいでいた。さっきの死体の中には、この車の持ち主もいたのだろう。
「...」
「...光希ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫...じゃないかも。でも進まなきゃ、逃げなきゃ」
「...うん、あのね。光希ちゃん。きっとこの先に、私たちを襲ったやつとは違う何かがいる」
「何か...って?」
「死体を山積みにしたり、車でバリケードを作ったり、明らかに知性がある。あの魚たちじゃこうはならないと思う。きっとこの先に魚たちのボスか、それ以上の何かがいる」
「...でも進まなきゃ、どうにもならなくても、まずは進まなきゃ、私たちは生きなきゃ」
「...うん、光希ちゃん、私が守るから」
桃ちゃんはそう私に言ってくれた。きっと心配してくれてるんだろう。
でも、その言葉が苦しかった。桃ちゃんはさっき変な力を手に入れただけの普通の女の子だ。怖いはずなんだ。
私が、足を引っ張ってどうする。
「よし」
私は、歩みを進めた。早く安全な場所に帰るために、桃ちゃんが傷つかないように、普通に戻すために。




