48.悪役がいないと団結できない集団など、滅びてしまえ。
「逃がして良かったんですか?」
「いいよー、心の整理をつける必要もあるし、逃げるのもまた自由な選択、そういえば熊谷はー?」
「監視してくれてますよ。あの雨ガッパの女の子の事。尾行もできるし、あの人何者なんですかね」
「さあねー、でも、普通の日常を送ってないことは確かだと思う」
「…それにしても昨日から今日までどこにいたんですか?青空さん」
「彼方でいいって言ってるのに、足李くんって人のこと名字で呼ぶ癖があるよねー。まあいいや、今日まで色々と調べて回ってた。主にこの街を救った英雄たちのことを、そしたら面白い情報が流れてきてね。」
「面白い情報?」
「…足李くん、醜い人間の条件ってなんだと思う?」
「んー?差別的な人のことですか?」
「それもあるけどー、もうちょっと大雑把でいいよ」
「えー…人の気持ちを考えられない人?」
「いや、違う。誰だって友達の気持ちは考えるでしょ?もしくは狙っている女の子とかー」
「下品な話ですか…」
「違うよー、簡単に言えば、怠惰であることだよ」
「怠惰…?」
「他人、目の前の人を人と認識せず、適当にやり過ごそうとする怠惰、何かをするのにも億劫であり、変わろうとしない怠惰、苦しみを持つ人間を理解せず、甘えだと決めつける怠惰、人は勤勉にやって成長し、怠惰によって滅びてきた
この町にいる英雄さん達も街の住民達も、他人のことを考えない怠惰を極めている
この町はカムイが滅ぼす対象だ」
「じゃあ、また大虐殺をするんですか?」
「いや、今回は多分、あの黄色い子が主役。私達は脇役に達することになりそうだよ」
「なんにせよ神居崎さんが動くことになりそうですね。一応準備だけしときます」
「ええ、忘れ物がないようにねー。私はこの奪った拳銃を撃つ練習でもしておこうかな」
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森を彷徨っていた。
ここがどこか、わからなかった。それでも足だったところをなんとか動かして走る。
私は彼らから逃げていた。彼らが言っていたことを何一つ理解できなかった。
大虐殺?人殺し?それを嬉々として伝えてくる少女が恐ろしくて逃げた。
少女は追ってこなかった。慣れない足をなんとか動かして、小屋の外に避難した。
『ああ、ちょっと待って』
少女は私が逃げる時に少し引き留めた。そんな言葉を気にせず、私は逃げた。だが、
『この町にいれば貴方は死ぬよ。彼らは英雄のことを使えない奴に変換することができる人達だから、気をつけてね。悪役がいなければ団結できない人たちは団結するために貴方を殺そうとしてくるから』
…その言葉が頭から離れなかった。
私達は失った故郷、長万部を取り戻すために戦っていた。
長万部には、まるでゾンビ映画かと思うほどの大量の化け物がいた。
「…誰か助けて」
「大丈夫だよ、桃ちゃん。私が守るから」
私達二人は、長万部の外、函館まで旅行していた。
函館から帰ってくる途中、もう少しで長万部に到着するという時に電車に何かがぶつかり、電車が横転した。
電車が横転し、すぐに何かが電車の中に入ってきた。魚に手足が生えたような見た目をしているそいつらは、まるでゾンビ映画のように電車の中になだれ込んできた。
そして、乗客一人一人を貪り尽くしていった。
手足がもぎ取られて体だけ食べるものもあれば、二つに折って仲間に渡すものもいた。
私達はなんとか崩れてきた荷物に隠れやり過ごしたが、見たところ彼らには知性があるようで、見つかるのも時間の問題だとそう思っていた。
その時だった。ある紙が光り出した。
荷物の中にあったそれは桃の手に渡り、そして吸収される。
桃は急に荷物の中から抜け出し、何か決意を持ったような顔をして化け物達の方を見た。
そして、震える声でこう言ったんだ。
「装甲」
その言葉と共に、桃ちゃんの周りに黒い霧が立ち込めていき、飲み込んだ。
そして、黒い霧は少しずつ時間をかけて消えていった。そしてそこにいたのは桃ちゃんではなく、暗く光り輝く装甲をつけたまるでヒーローのような格好をした長身の人間だった。
「…何が何だかわからないけど、私がみんなを守る!」
長身の人から聞こえてきた声は、確かに桃ちゃんの声だった。意味がわからずただ呆然と見ていたのを思い出す。
桃ちゃんは怪物達を一人一人倒していく。だが、数が多すぎた。桃ちゃんは対処していくが、間に合わなかった。
「…桃ちゃん!」
私は大声で叫んだ。この状況の意味がわからなかったけど、桃ちゃんを失いたくなかったから。
怪物達の視線がこちらを向く。
桃ちゃんは、私の方へと駆け寄り、全速力で電車から逃げた。ヒーローの姿になった桃ちゃんは速くて化け物達は追ってこれなかった。
「…桃ちゃん、なの」
そうやって聞いたのを覚えている。今思い返しても馬鹿げた問いだ。
だけど、臆することなく、怯えることもなく彼女はいつもの声色で
「うん、あのね。私、神様にこの町を守ってって頼まれちゃった」
そう私に言ったんだ。




