46.俺たちは、主人公になれない。
憎しみが頭の中で渦巻いていた.
悲しみが渦巻いていた。
「何故、わからないのだろうか。全ての憎しみは悲しみの果てにあるものだと、どうして常人は理解できないのだろうか。
理解できないと切り捨てられ、使えないと投げ出され、居場所がなくなった人間に与えられる選択肢は二つだけ、人を殺すか自分が死ぬか。
何故だ。何故選択肢を奪う。お前が嫌っている人間にも心はあるのに、なぜ嫌いという理由だけで人を踏み躙れる。
俺は日本人を許さない。そんな考えを持った日本人を全員抹殺してやる。」
「…」
ずっと彼の話を聞いていた。
彼は復讐に囚われていた。目の中には憎しみしかなく、この話題を話すときは拳を血が出るくらいまで握りしめている。
でも、その中に優しさがある気がした。だから聞いてみたんだ。
「ねえ、熊谷ー」
「私年上なんだけど、何?」
「昔のしゅうくんってどんな感じだったのー?」
「しゅうくんって…神居崎のこと?まあ、そうね…昔の彼は」
少し考えた後、熊谷は一瞬だけ悲しそうな顔をして、
「誰よりも、頑張れる人だったわ」
そう言葉を紡いだ。
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「…本気か?」
銃口をデータキャラみたいな奴に向けた。
何故こんなことをしているのかいまいち分からない。でも、やりたい。
あの子を、死なせたくない。
そう思ってしまったのだ。思ってしまったなら仕方ない。
「その構え方…銃を持ったことがないだろ」
「…そんなわけ」
「いや、ないな。だが、それとは裏腹に足の筋肉がついている。スポーツか何かをやっていたな。だが足の筋肉のつき方が不自然だ。ハムストリングの筋肉量が少なすぎる。そして、大腿四頭筋がつきすぎている。走りはしないが落下はしている?そんな筋肉だ」
「…気持ち悪い」
「そうだ、気持ち悪い。だが、これが役目なのでね」
気持ち悪い男はポケットからもう一丁銃と何かの部品を取り出した。鉄の玉がついた部品を銃口につけて、こちらに向ける。
「一応警察だからな、警告はしてやるその銃を下ろし、膝をつき両手を頭の後ろに回せ」
「それは無理、だって、それじゃこの子は死んじゃうから」
ドロドロの少女の方を向いた。どこか怯えているようなその子は、小さくうずくまっているように見えた。
何故この子を助けたいのか分からない。でも、この子は守らないといけない気がする。
「…そうか、来い」
辺りを白い霧が包み込む。後ろに現れたそれは大きい目玉だ。足李くんの祟り神のようなものか?
「…お前、力を持っているな」
「!?」
見抜かれた?何故、いやそれが能力か。そういえばドロドロの少女のことを脳しかないと言っていた。
体の状態の特定、それがこいつの能力か。
いや、過信するのはまだ早い。とりあえず今は
「覚悟!」
私は銃弾を1発放った。あたりに爆発音が響き渡る。あまりの衝撃に腕が上に勝手に立ち上がり、体制を崩して転んだ。
銃弾は彼の頬を掠った。頬から血が滴り落ちる。
こんな反動があるの、銃って。
「お前銃を撃ったどころか人を殺したことがないな。銃を撃った瞬間に恐れがあった」
男は銃口をこちら向け、発射した。私は咄嗟にガードをしようとするが、間に合わない。
銃口から爆発が起きる。その瞬間、肩に激痛が走った。
「ぐっ…ああっ…」
あまりの痛みに銃を落としてしまう。私は左腕を見た。血は出ていない。だが、腕が折れたような痛みがする。
「クリップ式のアタッチメントでな、銃弾を受け止めて代わりに鉄球が発射される。殺傷能力は低いが制圧用になら大助かりってわけだ。今度は実弾を当てるぞ」
私はなんとかして、銃を拾おうと屈む。だが、銃を撃たれてしまい、遠くに飛んでいってしまった。
「諦めろ、お前はピンチを切り抜ける正義の味方じゃない。ただのチンピラのガキだ。神はお前に味方しない」
「…ははっ、そんなことわかってんだよ」
辺りに黒い霧が立ち込める。
「どれだけ頑張っても、どれだけやろうとも、神は味方になんてなってからやしなかった。冬の寒さに凍えて死にそうになっても、夏の暑さで動けなくなっても、腐った食べ物を食べてしまって嘔吐に5日間苦しんだ時だって誰も助けになんてこなかった。
それでも、私に自由をくれるって彼は言ったんだ。私の神様は言ってくれたんだ。だからここで死ぬわけにはいかない」
「…お前を殺したりなんてしない。せいぜい刑務所で罪を償え、そうすればお前だって」
「あ゛ああ」
気がつけば、ドロドロの少女がこちらに近づいてきていた。突然の出来事に男は距離を取る。
少女は怪我をした方に触れる。体にドロドロが付着した。
「…心配してくれてる?」
そんな気がした。やっぱり心があるんだ。この子は優しい子だ。
「…あれ?」
少女に気を取られていると、腕の痛みがなくなっていることに気がついた。
少女が触れるのをやめて離れると、腕は完全に動くようになっている。
「…ありがとう、優しい子だね」
「あ゛ああ゛あ」
「ああ、ちょっと待ってね」
私はポケットの中から黄色い雨ガッパを取り出した。予備に持ってきたものだけど、これで。
「これ、あなた裸だから、やっぱり恥ずかしいと思うから、今はこれしかないけど」
そう言って、雨ガッパを着せてあげた。
頭から着せてあげたので流れ落ちることもなく、ただ彼女の体を包み込む。
「あ゛あい゛あおう」
…そうか、この子、一人なんだ。一人だったから私はこの子を助けようとして。
「…めんどくさいことをしてくれたわね」
声が聞こえる。私は咄嗟に振り返ると、真後ろに熊谷が立っていた。
熊谷の周りには白い霧が立ち込めている。
「とりあえず退散するわよ」
「!?待て!」
男が銃弾を撃つ。その銃弾は少女の体に当たり、貫通した。
「…ちゃんと、説明しなさいよ」
私達は完全に白い霧に包まれた。




