42.神話の時代の神々たち、架空の世界の神々たち
「カニ飯おいしいー!!」
彼方のおいしそうな声を上げる。カウンターにいた店主が満足そうな顔でうなずいていた。俺達はそんな声など気にせずにカニ飯を食いまくる。
俺達は長万部に到着してからカニ飯が食べたいと駄々をこねる彼方をしずめるためカニ飯が食べられる場所を探していた。
時刻が11時を回ったとき、ドライブインと書かれている定食屋を見つけそこに入って飯を食べていた。
本来ならこいつの言うことなど無視するが、正直俺も食べたかったし朝ご飯を食べ損ねたので腹が減っていた。
「それにしてもお店あってよかったですね。熊谷さんもこればよかったのに」
「あいつは指名手配犯だからな。来るわけにはいかないだろ」
カニ飯を食っている最中、パトカーが通り過ぎる音が聞こえた。
サイレンを鳴らして誰かを探しているようだ。熊谷は見つかっていないだろうか。
「お客さん、旅行客かい?そうだとしたらやばい時に来たねぇ。はい、餃子おまちどおー」
店主が差し出した餃子に、彼方はキラキラした目を向けた。こいつ、カニ飯だけって言ったのに餃子まで頼みやがった。金出してるの熊谷だぞ。
「あの、やばい時期って?」
「ここらへんに化け物が出たんだよ。黒い化物が」
それを言われて、俺達3人は少し動きが止まる。黒い化物、それは多分こいつの祟り神だ。どうやら長万部まで話が来てしまったらしい。
そういえば、カラスたちはどこかに飛び立っていたな。そいつらがこっちに来たのか。
「...黒い化物って、どんな奴なんだ」
俺はそう質問した。店主は俺達の様子を見てはてなマークを浮かべていた。
「それがよぉ、黒いどろどろのぐちょぐちょ、それが道路を歩いてたんだよ。人位のサイズでな。銃弾を撃っても再生しちまうらしい。何をしてくるかわからねぇからお前たちも気をつけろよ」
そう言って、店主はキッチンに入っていった。雑談が好きな店主なのだろうか。
「...どろどろのぐちょぐちょって、僕の祟り神みたいですね」
「だが、そいつは人型なんだろ?祟り神は対象を強化した後、巨大化もさせちまうもんだ。仕組み的には合わないだろ」
「別の化け物ってこと?」
「話を聞く限りな。それに店主は再生って言っていた。それはつまり本体を傷つけてもすぐに元に戻っちまうってことだろ。祟り神は本体が死んだ瞬間に、祟り神自身も効力を失う。ルールが違う」
「店主さんが実際に見たわけじゃないから、詳しいことは分からないけどねー」
「それでも、調べてみる価値はありそうだ。長万部にいる間は、そいつを調べるようにするぞ」
「了解ー」「了解です!」
さて、熊谷は言っていた。神の器官は人間に影響を与える能力だと、もしも噂になっているドロドロが再生能力を持っていたならこちらにも影響を与えられるはずだ。
うまくいけば、俺達にかけているヒーラー役が手に入る。
...だが、あまり期待しないほうがいいな。こうやって期待しているときは大体物事がうまくいかない。慎重に進めた方がいいな。
「はい、ザンギおまちぃ!」
...テーブルに置かれたザンギを見て、彼方はまた目をキラキラさせた。
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「おかえり、どうだった?」
車の中で本を読みながら、熊谷は待っていた。手に持っている本はまた別の本になっている。
俺達は車に乗り込む。
「で、隠れ家はどこだ?」
「ここから海の反対側に進んだ森の中、秋田川の近くにあるわ。まあここからは近いわね」
「えー!せっかく海に来たのに!」
「海ならまた見に行けばいいだろ。車出すぞ。」
俺はエンジンをつけて、車を発進する。それと一緒に熊谷に店主から聞いたことを熊谷に報告した。
熊谷はその言葉を聞いて、何か考え込んでいる。思い当たる節があるようだ。
「...断定はできないわね。でも推測はできるわ」
「次はどんな神様なんだ?」
「一番可能性があるのが、蛇神、そいつが神の器官をよこしたなら多分同じような効能が出る。再生の神様だからね」
「再生か。医療の神じゃないのか?」
「いえ、それなら他者を治療する力を与えるはず。ドロドロに溶けていたなら、多分からだが再生している状態ってことだと思う。
獣に撃たれても再生するなんて、医療とは言わないでしょ」
「そりゃぁ確かに」
「あと、考えたくない選択肢が一つある。可能性は限りなく低いけど」
「なんだ?」
「...伊邪那岐、生命を司る神であり、神が定めたルールの外側にいる神の一人、」
「イザナギ?イザナミと名前が似てるな」
「二人は夫婦ですもの。彼らは神話の時代の神様。神話の時代。神にルールは存在しなかった。神はそれぞれ好き勝手に世界を変えたわ。
そしてその神様たちは自分たちのように好き勝手されないために後に生まれる神にルールを施した。つまり、神話の時代の神様には神のルールは通用しない」
「じゃあ、もしもそいつが伊邪那岐の力を持っていたら」
「...そいつは神の器官で人を傷つけることができる。気を付けなさい神居崎。この街は今、混沌の中にあるわ」
熊谷は、こちらに真剣な顔を向けた。少し目をそらし彼女の手元に目線を向ける。熊谷が読んでいる小説に書かれていたタイトル、「クトゥルフの呼び声」
が、俺に緊張感を与える。
...俺は先を急ぐことにした。




