35.傲慢な魔法使い達
「はっはっ」
姉を抱え、私は空を飛ぶ。ぼろぼろになった足がズキズキと痛んで涙が出てくる。負けた。私は今まで祟り神を倒すことしかしてこなかった。
相手の気持ちを考えてこなかった。
好きな人が今どうしているかすら考えていなかった。
姉がどこに行ったかすら考えていなかった。
仲間たちがどんな感情でわたしと戦ってくれていたのかを考えていなかった。
全てを考えることを放棄して、ただ戦っていた。
結果がこれだ。私の好きな人は悪に堕ち、仲間に裏切られ、仲間が一人発狂し、今死にそうな仲間を置いて、死にそうな姉とともに逃げている。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
必死に姉に呼び掛けた。だが、返事はない。大きな爆発音が聞こえるまで、私はショックで涙を流しながら倒れこんでいた。
下に置いてきた仲間のことを考えず、救出に言った姉のことすら考えずに。
なんて怠惰だ、すべてあの男の言う通りだ。私は考えることから逃げ続けたのだ。その方が楽だから、今が楽しかったから苦しい現実を考えることから逃げたのだ。何て調子に乗ったやつだ。何て怠慢だ。
なんて、傲慢だ。
「誰か!誰かいませんか!姉が!死にそうなんです!誰か!誰か!」
必死に助けを呼ぶため周りに叫ぶ。だが、街は死んでいた。祟り神のカラスはどこかに消え、辺りに充満するのは、何かが腐ったようなにおい、昔嗅いだことがある。動物が死んだときの死臭。
それが、街全体に充満していた。きれいだった川は黒い沼に飲み込まれ、畑の作物はすべて枯れ果て、人間は死に下にはハエが大量に発生していた。
なんて地獄だ。
「早く!早」
「火つき...」
小さくか細い姉の声が聞こえ、私はその声を聴くために立ち止まった。
風の音が聞こえないように、今度は間違えないように。
「お姉ちゃん...」
「失敗したんだ。オレたちは...オレはもうだめだ。逃げろ」
「何言ってるのお姉ちゃん!死なないで!お願い...」
...すべて私のせいだ。私が調子に乗っていたから。私が周りを知ろうとしなかったから。私が彼に寄り添わなかったから。私が姉と話をしなかったから。私が、あいつを仕留められなかったから。
すべて、私の
「判断をミスったな...火月」
姉が私の頬から流れる涙を手で拭う。姉はただ、優しい表情をしていた。
「お前は判断を誤り、オレも判断を誤った...だが、今そんな顔をするな...すべては終わったことだ...過ぎてしまったことだ...反省をしろ...後悔をしろ...だが、あきらめるな...」
「お姉ちゃん...」
「オレたちは選択を誤り、この町が舞台の物語はバットエンドを迎えた...だが、まだお前の人生は終わっていない...すべてを後悔して、下を向いてそれでも進むんだ...自分の中の怠惰を打ち破れ...忘れんな...このトラウマは乗り越え、成長するためにある...だ...か...」
「お姉ちゃん...お姉ちゃん!!!だめ!お願い!!お姉ちゃん!!」
目をつぶってしまった。姉が死んでしまう。どうすれば助けられる。どうすれば生きていられる。どうすれば...
「誰か!!!お願い!!!助けてください!!お願いします!!
姉は何も悪いことはしていないんです!!
姉は私のために体を預けてくれたんです!!
お願いします!!誰か!誰かいませんか!!!」
大声をだし、周りに呼び掛ける。だが、帰ってくるものは何もない。無慈悲な羽根の羽の音と、風の音だけが周りを包んでいた。
「お願いします!!お願い...します...すべて、私が悪いんです。私のせいなんです。姉は悪くないんです...お願い...助けて...」
この緊急事態なのに、自分の中の感情は涙を流し、叫ぶ声を感情でふさいだ。届くことのない声、そんな最後のあがきすら、私の中の傲慢はそれをやめさせようとする。
「誰か...助けて...」
少女の嘆く声は、風の音にかき消された。
飛行機が横切る。風の音に。
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旅人は進み、1を超えた。
正義のヒーローに見えるものは、常人と近しい価値観を持つ。それは感情移入をさせるため、そのキャラクターに理解をしてもらうため。
また、分厚かった一冊が完結を迎えた。
伊邪那岐の使者は本棚から一冊を取り出し、題名を読み上げた。
『傲慢な魔法使い達』
昔、世界を渡った詩人たちは、そこで見た神話を歌として歌った。
様々なものたちが作り出した神話たちは時代が経つにつれて捻じ曲げられていく。
だが、事実のみは変わらない。事実のみは変わらずそこに存在していた。
事実のみは人間にすら捻じ曲げられない世界のシステムなのだ。
完結した物語を本棚にしまい、伊邪那岐の使者は次なる物語を探す。ある男から派生した次なる物語を。
やがて、一冊の本を取り出し、ページをめくった。
手に取ったタイトルの名は。
『色欲の強奪者』
男はページをめくり物語を読む。その横、男が使うテーブルに乗った分厚い本は風に靡かれ、人知れずページを一枚めくっていた。




