33.取り戻したいと願った少年、取り戻せなかった青年
姿勢と整え、ナイフを抜く。
銀色の刃は一瞬だけ俺の顔を映し出した。このナイフで何人も切ったというのに、まだ刃が生きている。
「…火月、私があいつの動きを止める。そのうちにあいつに顔面キックをお見舞いしてやれ」
「それより2人で攻撃したほうがいいんじゃ」
「あいつはな、戦闘センスがピカイチだ。一瞬の判断で、その場の思いつきでこちらを追い詰める。
考えが読めない人間、そんな人間が1番厄介なんだ。だから、そもそも考えられないように判断をさせ続ける必要がある」
「わかった。攻めるしかない。って」
こいつら馬鹿なのか、戦闘中によそ見をするなんて。
「あいつ、どこに」
「上だよ馬鹿が」
俺は紅に向かって攻撃する。俺の予想では紅は事実を捻じ曲げることで死を否定する能力。
あいつが見ている場所では、俺がこいつに攻撃するのは無駄だ。
だが、隣に妹がいる場合ならどうなるだろうか。
「!?お姉ちゃん!」
こいつは餓鬼だ。どうしようもない子供だ。だから相手を信用できない。こいつは妹になれるが戦友にはなれない。
隣で一緒に戦う人間であろうと、信用できずに庇ってしまう。
「だよな、お前ならそうする」
紅を突き飛ばした赤い魔法少女をネクサスで切りつけた。能力は解除される。魔法少女の能力は。
「火月!」
「おおっと!妹だけ見てていいのか?」
俺は彼方の方へと視線を飛ばす。彼方は能力が解除されて、着々と地面の方へと落下していく。
「おねえちゃん!」
「ちっ!」
大きい舌打ちをし、体育館から急いで落下する。そういえば飛行機から落下して任務に行っていたんだっけか。
「さてと、殺すか」
俺は銃を取り出す。能力が消えたただの人間、これで殺せる。
「…なんで、こんなことを」
「復讐だよ。俺のためのな、それだけだ」
「違う…何故彼を巻き込んだの」
「だからあいつが」
「違う!私が言ってるのはそういうことじゃない」
俺はハンドガンの弾を確認する。どうやら最初に撃ってから弾のリロードを忘れていたようだ。
「彼は間違っていたけど、みんなの為に努力していた。頑張っていた。なのに、貴方が全て台無しにした!」
俺はポケットから弾を取り出してリロードする。
「何故こんな提案をしたの。こんな酷い提案を、彼の努力を全て否定するような提案を!」
リロードに手間取ったが、ちゃんとリロードが完了する。俺は銃口を火月に向けた。
「何を言ってる。最初に否定したのはお前だろ」
俺は引き金を
「待ってください」
後ろから声が聞こえて、俺は銃口を彼女に向けたまま振り返る。足李だ。熊谷も一緒に、そこにいた。
「町の住民はほとんどが死にました。カラスたちももう興味をなくして他の場所に移動しています」
「そうか、じゃあこいつを殺せばもう終わりだな」
「最後に挨拶くらいさせてくださいよ。僕の初恋の相手ですよ」
「…まあいいぞ、思いっきり青春しろ。お前は今までさせてもらえなかったんだからな」
俺は銃口を降ろし、体育館から地面を見下ろす。ふむ、どうやらうまくいったようだ。
彼方は黒い沼にハマって無事、地面に派手に衝突したであろう紅は沼にハマって動けなくなっていた。
俺はハンドガンを3発、紅の顔面に叩き込む。だが、紅への攻撃は全て無力化された。
「殺せないし、近づいたらサブマシンガンで蜂の巣にされるか。俺は彼方を助けてくる。お前は好きにしろ…ああ、待て」
俺は銃口を火月に合わせ、発射した。
「あぁあああ!」
彼女の足から大量の血が出てくる。これで彼女は好き勝手に歩くことはできなくなるだろう。
これで俺たちを追うことはできないっと。
「これが俺にできる最大の譲歩だ。あとは好きにしろ」
俺は、そう言って体育館を降りた。
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「… 管差くん」
彼女は足を引きづらさながら、こちらに近づいてくる。こうやって血を這う彼女を見ていると、少し悲しい気持ちになってくる。
「火月さん、どうやら僕にたどり着けないまま敗北したらしいね」
「管差くん…なんでこんなこと」
「…色々考えたんだ。わからないなりに」
僕は街を見下ろす。そこにはたくさんの死体があった下半身だけが残るもの、全部を壊れたもの。吐き出されたもの。
それら全てが悲劇として歴史に残るだろう。
「僕さ、幸せになりたいんだ。明日を生きていたいって思えるようになりたい」
「…こんなのが管差くんの幸せなわけがないよ」
「でも、こうでもしないと僕の運命は変わらない。分かってたんだ。自殺することしか選択肢がなくなっていたって。なんとなく分かってた」
「管差くん…帰ろう?私、今までのことちゃんと謝りたいの。今までごめんなさい。私の弱さが貴方を追い詰めてしまったから」
「もういいんだよ、火月さん」
「…お願い、お願いだから…」
「僕は幸せになりたい。だからそのために、人を踏み躙る。貴方達が僕にしてきたように」
「私の正義も何もかも捨てる…貴方に尽くす。だから」
「…わかったんだ。理不尽に対抗するには理不尽を返すしかないって、敵を排除するしかないって」
「私のこと、またちゃん付けで呼んだよ…嫌だよ。貴方の幸せのためならなんでもするから…貴方のために生きるから…だから、私を嫌わないでよ…」
「…さようなら、火月さん。僕の初恋の人、貴方をずっと好きでした」
涙に濡れた少女を見捨て、少年は歩き出した。どうにもならない未来をどうにもならない理不尽を壊すために。
少年は何も考えられない子供から、残酷な大人への一歩を歩み始めた。
「」




