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世界を終わらせようとする悪党たちの話  作者: 疲労男
2.ニセコシスターズ
32/57

32.全てを見てきた少女、ただ見てただけの少女

「…」


もう少なくなった黒い獣たちを見ながら足李はため息をついた。

外から銃声が聞こえる。一時期は加勢に行こうと考えていた。だが、


「ダメよ、あなたと私。どっちがかけても私達は死ぬ。じっとしていなさい」


と、熊谷と呼ばれていたお姉さんに止められてしまった。だから僕はここに座り込んでいる。


「…」


よく考えてみると僕はこの人を知らない。というか勢いでここまできてしまったから、この2人のことを知らない。この2人の考え方も思想も理念も。


だが、困った。僕は女性と話すのが苦手だ。そもそも恐怖すら感じるほど女性が苦手だ。


「…差別ってどうすれば無くなるんですかね」


しまった。焦って突拍子もないことを言ってしまった。何も言ってるんだろう僕は。


「…差別の無くし方なんて簡単よ」


「…あれですか?許しあうことですか?」


「馬鹿ね、許しあっても。次の世代が昔のこと持ち出してまた差別し始めるでしょ」


…それはそうだ。というかこの人、こんな突拍子もない話に付き合ってくれるんだな。


「単純な話よ。選ばれなかった人間に寄り添う社会を作る。それだけで差別はなくなるわ」


「…どういうことですか?」


「私の好きな作品にバグみたいにって謳い文句のtrpg動画を出している人がいるの」


「…trpgってなんで」


「そこは今論点じゃない」



「その動画はとっても人気でね。ファンイラストもたくさん投稿されていたわ。さて、その人は最終回を作るにあたって、イラストを描いてくれる人を募集した。勿論沢山の応募が来る。すると動画に使われないイラストも出てくる」


「でも、それは仕方がないことじゃないですか?たくさん来たならどうしても選ぶ必要がありますよね?」


「そう、仕方のないこと。でもね、世間は選ばれなかった人間を無能を蔑むのよ。能力がなかったから選ばれなかったと考える。今の日本人が持つ。典型的な偏見ね」


「イメージと合わなかっただけで上手い人もたくさんいるのになんでそう考えるんですか?」


「…あなた筋から逸れることを聞いてくるわね。

まあいいわ、そう考えるのは、そうされてきたからよ」


「…?つまりどういうことですか?」


「例えば幼稚園、自分で絵を描いてそれを自信作だと思っていたが、最優秀賞には掠りもしなかった。小学校の頃サッカークラブで練習を頑張ってきたのにレギュラーどころかベンチにすら選ばれなかった。中学の頃に部活動に精を入れたが特段何もできずに終わった。

そういう選ばれなかった人間が差別をするの。

なぜかわかる?その選ばれなかったトラウマを乗り越えられてないから。だから他の人間の失敗を見て笑うことができる」


「…だからそれは仕方のないことじゃ」


「トラウマを乗り越えられないのは、頑張って絶望している人間に、誰も手を差し伸べず、沢山の人が成功した人間に声をかけるからよ。

だから、自分で抱えるしかなくなる。

時間をかけ、努力をし、血眼で前に進んだのに、何も手に入れられてない空虚、努力した時間が無駄だったという事実、その全てが絶望につながり、偏見を生む。

差別主義者は、ただ存在を見られなかったからなるもの。誰も見てくれない。誰も知ってくれない。

これは言い訳のように思うかもしれないけど、小さい頃のこの経験は、人生を歪めるほどの絶望よ」


「…少し、わかるかもしれない。僕も誰にも見られなかった。誰にも相手にされなかった。だから今ここにいます」


「…だから差別をなくす方法は一つ、身近な人がその努力を肯定し、立ち直るまで味方でい続ける。

その人を孤独にさせない。不幸にさせない。何年でも付き合ってあげればいい。それだけで立ち直れる。その人がトラウマを乗り越えれば、失敗した人をわかってあげられる強い人になれるから。


だから、諦めないでほしい。見捨てないであげてほしい。そう願っていた。でも無理なのよね。


だから、こんなことになってる」


窓の外を見る。カラスたちが死体を漁っている。この数十分でさらに人が死んだようだ。


「これが偏見の果て、どうしようもない人類の大虐殺。ナチスのヒトラー、カンボジアのポルポト、偏見や差別がもたらした大虐殺の歴史から、何も学ばずまた大虐殺が起きた」


「…あなたはもしかして、この作戦には反対だったんですか?」


「…」


少し黙った後、お姉さんは寂しげな顔で微笑みながら


「…いや、全ては私の計画のためよ。仕方ないでなんて済ませない。自分を正当化なんてしないわ。

私は私のために人を殺す。そう誓ったの」


そういう熊谷さんの目は、どうしようもなく寂しげで、覚悟が決まった目をしていた。


__________________________


「カムイ!」


赤い魔法少女がこちらに突っ込んできた。俺は銃を撃つ。だが、後ろからついてきた紅に銃弾を弾かれてしまう。


「…ハイドアンドジーク!」


俺と赤い魔法少女の間に、黒い穴の口が出現する。赤い魔法少女は急いで勢いを殺し、後ろに下がる。


「足李くんを返してもらう!」


「あいつは自分の意思でここにいるんだ。いい加減気づけよ」


「うるさい!自分の意思でこんなことするはずがない!」


魔法少女の後ろから、サブマシンガンの雨が飛んでくる。俺は後ろに行き、それを回避した。


その瞬間、屋上に紅と赤い魔法少女が降り立つ。


「…これで近づけました」


「気をつけろ火月、あいつの神の器官は銃弾を弾く。あいつを仕留めたいなら近づかないとダメだ」


俺は後ろに下がる。距離は50m程度、さて、ピンチだ。どうするか。


「…何故貴方はこんなことをするんですか、こんなひどいことを」


「単純だ。復讐だよ。それだけだ」


「ここにいる人は何もしていない!」


「それが問題なんだよ。間違った人に注意せず、ただ無視をする。必死に立ち直ろうとしている人間に手を差し伸べない。俺は日本人のそういう所が嫌いなんだ。反吐が出る。


自分のことしか考えられない日本人を全員殺し、俺は復讐を遂行する。この腐った民族は皆殺しにする」


「貴方だって相手のことなんて一ミリも考えないじゃないですか!この町にいる人にも苦悩があります。苦しみがあります!だから手を差し伸べられるし誰かを救い合うことができるんです!貴方にこの町の何がわかるんですか!」


「じゃあ、なんで足李みたいな孤独な人間がいるんだ」


魔法少女は口をつぐむ。そうだ、お前も何もしなかった人間の1人だ。


「あいつがいるだけでここにいる町の人間は俺の復讐対象なんだよ。俺の妹も、何もしない奴らに殺されたからな。俺はな、いじめの主犯格の奴らは醜いし殺そうと思っている。そいつらはクズだしどうしようもない。だがな、そいつらはいじめっ子と同じくらい歪まされた人間だ。醜いがそれは作られた醜さだ。

1番醜いのはお前らみたいな自分を正当化して傍観するタイプの人間なんだよ。

お前らは自分が悪いことをしているという自覚が一ミリも存在していない。

ごみみたいな傍観を決め込み、裏であいつには関わらないほうがいいと噂を広め、数年経ったらそいつのことなんて忘れるんだ。

自分たちが1番醜いと自覚をしない。どす黒くてゴキブリみたいに大量にいる邪悪、それがお前らだ。俺はお前らみたいに自分を正当化なんてしない。


お前みたいに何かを殺す時に、そいつの分まで生きようなんてゴミみたいなことを考えることもない!


俺は俺のために全日本人を抹殺する!てめぇらの考えることをしない偏見や差別に満ちた頭を砕いてぶち殺してやる!俺はお前らの怠惰を罰してやる!」


「…みんな、そんなに強くなんてないんです!弱い中自分の運命に立ち向かってるんですよ!」


「自分の醜さと向き合えない人間が運命を語るな!苦しみも屈辱も自分の人生なんだよ!テメェらが踏み躙っていいもんじゃねぇんだよ!

人の人生踏み躙っといて、言い訳してんじゃねぇ!


…これは俺の物語だ。誰にもかえさせない。誰にも笑わせない」


俺は、猟銃をしまい、ナイフを手に持った。

姿勢を低くし、2人の攻撃に備える。


「…俺は殺人鬼だ。俺は俺を正当化しないし、俺が踏み躙った人間を振り返ったりもしない。

永遠に踏み躙り続ける。だから、お前も自分の正当化なんてやめろ。」


俺は息を大きく吸い込んだ。


「俺を殺してみろ!秋葉火月!」

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