31.一番醜い人間とは、自分と向き合わない人間だ
…さて、この盤面どうするか。
俺はまず全体を見渡した。奴らのある場所、体育館入口の前で、俺の方をじっとみている。
お互いで目配りをして、何かを話しているようだ。
十中八九作戦会議だろう。
俺は猟銃で2人目掛けて一発撃った。紅がそれに気づきなれた手つきで銃弾を跳ね返す。
やはり紅という女は反射神経に作用するような能力を持っているらしい。
続いて二発撃つ。今度は姉妹2人にだ。
紅はまたも自分の銃弾を防ぎ、そのまま妹の分も塞いだ。
「…奴の能力の詳細がわからないのが厄介だな」
位置関係の整理をしよう。
まず、赤い魔法少女、そいつは中央で俺をみている。紅はそいつの右隣、そして青い魔法少女は左隣のすぐそばにいる。
祟り神の液体は俺が体育館から出てきてからは流れるのが止まっている。
それでも体育館前には大量に液体がばら撒かれているはずだが、なぜか魔法少女の周りには液体はなかった。
「…魔法少女の能力はなんだ?」
そいつの能力は間違いなく強化する能力だ。それはわかる。だが、熊谷は言っていた。
能力は必ず一つだけだと、ならば、魔法少女の能力にも明確に名前があるはずだ。
「…リロードだ」
俺は猟銃をリロードする。猟銃の装填数は全部で5発である。5発撃ったら弾切れになる。
俺はリロードし5発の弾を装填した。
さて、ここからどうするかだ。奴らが話し合いをし続けているのは、下にいる青い魔法少女のことだろう。
あいつは今気を失っている状態だ。
そして、俺の射程圏内。俺が殺せる状態。
だからこそあいつらはあそこを動かない。いくらどんなものでも防げるくらいの反射神経があろうとも
距離があれば防げない。
だが、俺の方もジリ貧だ。このまま撃ち続けて奴らに考える時間を与えないという策もある。
だが、こちらの銃弾もそう多くはない。
たとえば紅の能力が絶対防御だった場合、いたずらに弾を消費し銃弾を撃たなくなって終わりという場合もある。
勝てたとしても、弾を使い切った状態で函館まで行くのは不可能に近いだろう。
ならば、彼方に銃を手渡して2人で攻撃するか。
それは1番勝機はあるが、負けた時が悲惨だ。
もし、彼方が俺に向けて発砲した場合、俺は防ぐ手段を持たない。
敵が3人に増え、俺の勝ち筋は完全に消滅する。
今裏切ったばかりのやつに銃を預けられるほどの信用はできない。
俺は考えながら、気絶している青い魔法少女に向け1発弾を撃った。
紅は急いで銃弾を防ぎ、こちらを睨みつけてくる。
少し開けてからいきなり撃つ作戦は無理だったか。
ならば、体育館内にいる足李に助けを求め2v3の状況を作ってみるか。
いや、祟り神はあいつの能力だ。あいつが倒されてるだけで祟り神は解除されるかもしれない。
そうすればそもそもの目的が果たせない。ここにいる人間の皆殺しという目的が。
「…弾を一発補充しつつ動きを見ることしかできなさそうだな」
俺は弾を一発装填し青い魔法少女に向けて構える。
これで紅は動けなくなるはずだ。
…まて、猟銃の威力は昔聞いた話では500m以内ならば鹿を一撃で倒せるほどの貫通力を持っているはずだ。
そんな威力の高い銃弾を浴びているのに、奴はどうやって弾を防いでいる。
…いやまて、何かがおかしい。俺は防いだことに注目していて防いだものを思い出せない。
何で防いでいる?何が起きている?
「おい、彼方」
「何?カムイ」
「奴は、あの銃を持った女がどうやって俺の銃弾を防いだか見えたか?」
「見えてない。かなり早いスピードだったから、でも防いだ後、彼女は何も持っていなかった。それは見えた」
「…なるほどな」
俺は銃を散弾銃に持ち替え、紅に向けて発砲する。
散らばった弾は落下エネルギーと共に紅に襲いかかる。だが、彼女は素早い動きで銃弾を全て交わした。ように見えた。
だが、地面には移動した痕跡は残っていなかった。
「素早い動きで避けたなら、地面には焦げ跡や抉れた跡が残るはずだ。だが、それがない。
なるほどな、奴の能力は事象の変換か」
「?なにそれ」
「自分が死ぬことを無かったことにしたって言った方がわかりやすいか。そんな感じで、わたしは避けたから死んでいないって事象に書き換えるんだよ」
それなら納得がいく。俺が旅館で銃を乱射した時、奴が無傷だった理由も、事象を書き換えることによって、自分は生きていたってことにしやがったんだ。
「自分の未来を否定し、死んでいないという事実に書き換える能力か。」
「…え?勝ち目なくない?それ」
「いや、そうでもない。なぜなら、あいつは一度俺に殺されかけているんだ。俺の能力で神との接続を切れば奴は殺せる」
神の能力では人を傷つけられない。一見デメリットであるか、死の否定をする能力にはめっぽう強い。
神の能力で死ぬことがないなら、死の否定は絶対に発動のしようがないからだ。
「…紅は俺が引き受ける。お前は赤い魔法使いをやれ」
「わかった。全身全霊をかけて、食い止める」
こいつは赤い魔法使いと面識があるはずだ。
同情で殺せないかもしれない。だが、赤い魔法使いのことを1番知っているのもこいつ。
引きつけ係にはもってこいの役割だ。
「さて、あっちも動くようだ」
俺は、向かってくる赤い魔法使いに向けて、銃を構えた。




