29.追憶の魔法少女
「…あぁ、ああああぁあああああああああ!!なんで、なんで!私はここまでやったのに、なんで救われないんだあああ!」
たくさんの男達に取り押さえられながら発狂する母親わたしはただじっと見つめていた。
「大人しくしろ!」
複数人の男達に取り押さえられているのに、母はそれでも足掻き続けた。
男性1人を吹き飛ばしたり、蹴り上げていく母を見て、人間とは理性を失った時ここまで力が出せるのだなと感心した。
「青空瞳!お前を詐欺罪と殺人の罪で現行犯逮捕する!」
発狂しながら警察を殴り飛ばす母、それを見て私のいた場所は異常な場所だったことを理解した。
「彼方!彼方!殺しなさい!こいつらを!」
「お前!自分の子供に向かって何を言っているんだ!」
その言葉を聞いた時、私はこの人が母親失格の人物であったことをようやく理解した。
その日から母は見ていない。ニュースでは母はカルト教団が起こした殺人事件の主犯格として大々的に取り上げられた。
その日から、私は殺人鬼の娘として扱われた。
どこに行っても邪魔者扱いをされた。
どこに行っても偏見の目を向けられた。
どこに行っても憎しみの目を向けられた。
私は生まれてから12年でようやく理解したのだ。
この世界にいる人々は、皆平等に醜いのだと。
それから私は旅をした。沖縄、東京、名古屋、日本の全てのところへ行った。
どこにいこうがカルト教団のニュースはずっと流れていた。だから私の名を出した時、どこにいこうとも嫌な顔をされた。
旅をするために電車に不法に侵入し乗ったこともあった。船に無断で入ったこともあった。
ずっと、そうやって生きてきた。
ずっとそう生きてきて、北海道を旅していた時のことだ。
「…あなたぁ?1人ですね」
私は悲劇に捕まった。そこからは旅ができなくなった。首輪に繋がれ、変な薬物を入れられ、ただひたすらに苦痛を味わった。
わたしの現実はたくさんの非常識でできていると知った。たくさんの苦しみを与えられ、たくさんの恨みを向けられる。人生の犠牲者、それがわたしだ。
年月がすぎ、苦しみが当たり前になり、心を殺して過ごしていた時だ。
「…あなたが1050番ね」
声がした。檻の外からまるで冷徹で慈愛の心など一つもないような。悪魔の声。
「これからわたしと高校に通うことになる…準備しておきなさい」
それが私と美月との出会いだった。
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「…やられた」
美月が片手を押さえている。あの様子じゃ骨は折れてるどころか粉砕されているだろう。
「美月ちゃん!しっかり、今手当てをするから!」
火月が応急手当てを開始する。その間にも散弾は撃ち込まれ続けた。
美月は痛みに耐えながら、なんとか剣を再構成し盾に使用する。どれだけ考えようがこの状況は詰みだ。火月の能力はせいぜい、空を飛べるようになるのと、身体能力の向上のみ。銃弾に敵うような能力ではない。
美月は銃弾を防ぐことはできるが、意識を失えば生成した剣達はコントロールを失い水へと帰る。
意識を保つのがやっとの美月では、このまま相手が放置で終わりだ。
だが、この状況でもひっくり返すのが火月という人間だ。彼女は一般人でありながら、神の力を発現させ、その力を使い、皆を救い、たくさんの人に慕われ、数々のピンチを潜り抜けてきた。
「彼方ちゃん!美月ちゃんを遠くまで連れて行ってほしい。できるだけ遠くまで、そして治療を受けさせてあげて」
「!?火月、何を言ってるの!私も戦う!」
「駄目、このままじゃここにいるみんなが犠牲になる。ここは私が食い止める。だから美月ちゃんをお願い」
…ああ、そうだ。彼女はそうなんだ。気高く、自己犠牲を顧みず、人を助け続ける。だから私は
「…火月ちゃん、わたしは貴方を好きだよ」
「…え!?い、いきなり何を!?」
「そうやってさ、照れてるところも可愛いんだー、火月ちゃんのこと尊敬してるし、信頼してる。でもね火月ちゃん」
わたしは、髪を結んだ。ずっと垂れっぱなしだったわたしの髪、わたしの怠惰の印を
「わたしは貴方の話に共感したことは一度もない」
そうだ、わたしは貴方の姿に嫌悪を抱いていた。
なぜそんな奴らを救うのか
なぜ彼女を救ってしまうのか
なぜ街のために頑張るのか
なぜわたしを救ってくれないのか
それら全てをずっと感じていた。
この全ての感情はわたしの中から生み出されていたもの。だからわたしはそれを見ないようにして蓋をして封じ込めていた。
それが一番トラブルにならないから、時には相手のせいにもした。それが一番心が楽だから。
だけど、その感情は全てわたしの中から出てきた感情だ。わたしの醜さだ。
だからわたしは、この醜さを受け入れて悪へと至る。
「…カムイさん、貴方質問があります」
わたしは空を飛ぶ高く高く、美月の剣が届かない場所まで。
「彼方ちゃん!危ない!」
わたしのほうへと火月は手を伸ばした。心配してくれてありがとう火月、でも違うんだよ。
わたしはわたしの人生を取り戻す。
「貴方が殺人をする目的はなんですか」
カムイと名乗った男にそう語りかけた。知っているこの人は私とカフェで話したあの男だ。
あの男は恐怖をその身に纏っていた。
憎しみ、嫌悪、憎悪、怒り、憤怒、そして悲しみ。
わたしは知りたい。あの男がどういうにんげんなのかを。
「…単純だ。俺の復讐のためだ。それ以外に理由はないしいらない。俺は俺の為に人を殺し続ける」
…ああ、そうだ。この男は人のせいにしない。大罪を犯しながらも人のせいにせず、敬意を払い、相手と同じ方法で踏みつける。
だからこそ、この男は、カムイは自由なのだ。
自由に敬意を払っているのだ。
「…美月の縁を切ってください」
わたしはカムイにそう言った。火月は何を言っているのかわからない顔をしている。
美月は光を失いそうになっている目をこちらに向けてきた。
「誰の?」
男がそう聞く、わたしは深呼吸をし、火月の方を向きながら。
「彼女との」
そう言った。その瞬間だった。彼の刀が美月を切った。美月の魔法少女の衣装は解除される。
美月は地面へと落下して行った。
火月ちゃんは美月に向かって手を伸ばす。
「…無駄だ、この瞬間お前と彼女の縁は切れている。どれだけ手を伸ばそうが掴もうとしようが、彼女に触れることはできない」
わたしは落下する。魔法少女の力で、美月より早く。そして、落下する美月の真下に到着した時。
わたしはわたしの能力を顕現させた。
「…喰らい尽くせ、ハイドアンドシーク」




