27.壊れた心は、人を傷つけることができるナイフになる。
「めちゃくちゃいい景色だな」
黒い沼に包まれた街を見て、男はそう呟いた。
少年はただ町を見ていた。カラスたちは黒い沼で動けなくなった人々を食い散らかしている。
「…お前人殺したことないだろ。大丈夫か?」
ずっと光景を見つめる少年に対して、男は一言心配をした。だが、少年はただ町を見ていた。
「いや、こんなに認めて欲しいと思ってた町なのに、壊してもなんの感情も湧かなかったなぁと思いまして」
少年は、ただ殺されていく人を見ていた。陰で悪く町を言っていた主婦たち、いじめを黙認していた教師、そしていじめていた生徒。その全てが等しく食われていく。
「結局僕の努力っていうのは、ただの惰性だったんだなぁ。と、惰性で続ける努力ほど無駄なものはない」
「そうか?俺はそうは思わない。努力は惰性であろうと続けるべきだ。努力は実らないし普通と呼ばれる奴らは結果しか見ない。でも結果としてお前は能力をつかって今の状況を作り出したんだ。それは努力の結果であってお前は誇るべきことなんだよ」
カラスたちは動けない人を食い荒らす。
「蔑まれ、憎まれ、道がなくなったのならば。お前は人は殺していい。みんな世界は弱肉強食っていうだろ。今の状況は奴らの望んだ弱肉強食の世界だ。奴らのルールで死ぬなら本望だろ」
やがてカラスたちが殺した人数が数えられないほどになった時、遠くから大量の花びらが舞い上がった。
「来たな、お前も食われないように注意しろよ」
男は仮面をつけ、ネクサスを発現させる。
少年もまた仮面をつけた。
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「どうなってるの…これ」
能力を発動させ、空を飛ぶ。今見ているものはまさに地獄だ。
巨大なカラスが大量に空を飛んでいる。街は黒い沼に沈められ、人の身動きは取れなくなっていた。
「…これを、彼がやったの?」
にわかには信じられない。ずっと祟り神は一匹だけが街で暴れていた。それをこんなに用意するなんて、私は油断していたんだ。
『勝負だ、魔法少女』
「…管差くん」
ずっと彼が押さえていたのなら、彼がただ認められたいと頑張っていたからあの被害で抑えられていた。でも、それすらしなくなってただ破壊することだけを考えてしまったなら。
この町に見捨てられた彼が、この町を見限って破壊し始めたんだ。
「…全部、私の責任だ」
彼のことをわかっていなかった。彼はもうすでに限界を超えてしまっていたんだ。
「火月!」
美月ちゃんが空を飛び私の隣にたった。
涙の跡がある。きっとこの光景を見て泣いてしまっていたんだ。
「これは…この光景は」
「全部、祟り神の力を持った人のせいだろうね」
「なんでそんな落ち着いていられるのよ!みんな、みんな死んでいくのよ!?」
「見たところ、死者数は135人、重症者が745人くらいだねー、しかも黒い沼は市街地だけじゃなくて街全体を飲み込もうと動いている。正直、もう全員救うことは無理だよ」
彼方ちゃんが状況確認をしてくれたようだ。私はカラスたちを確認する。見えている範囲でその数は35匹程度、今まで1匹倒すことがやっとだった私たちではこの数を倒すことは難しいだろう。
「…能力者を見つけて解除させるしかない」
「でも、当てはあるの?奴が黒い沼の下に隠れていたなら勝ち目はないわ」
「いやー、場所はだいたいわかるよー」
彼方はそういって一点を指差す。そこは町の体育館だった場所だ。そこを見ると、まるで温泉のように黒い水が吹き出していた。
「…なにあれ、気持ち悪い」
「祟り神が解除と祟られるを繰り返されてるんだよ。そのせいであの状態になっちゃってるんだと思うー」
「そんな!今まで祟り神がいきなり解除されても黒い祟りは消えていたはずよ。なのになんでこんなことに」
そうだ、今までの祟り神はどれだけ能力を解除しようとも何をしようとも、宿主が離れたタイミングで消滅していた。なのにいきなり…
「…そうか」
おとついの交差点にいた狐を思い出す。狐も黒い沼の真ん中で気絶していた。
私は体から切り離されてああなったと思っていたが、それならなぜ真ん中で気絶していたんだ?
「この町に、祟り神以外の力を持っている人間がいる!」
そいつが管差くんをたぶらかしたんだ。全て辻褄が合う。この3日間で彼の気持ちが大きく動いていたこと。今まで私たちの前に姿を表さなかった管差くんが、勝負を挑んできたこと。すべて納得がいく。
「それ以外って…もしかして」
「あれー?何か知ってるのー?」
「知り合いに聞いたのよ。隣町で30人以上が殺される大虐殺が起きたって。そいつが神の器官持ちで、この町にやってきてるなら」
「…祟り神の暴走にも納得がいく」
私は2人に合図を送り、体育館の方へ向かう。
その間に美月が武器を大量に作り、体育館の方へと発射した。
大量の武器が体育館に突き刺さると思っていた。が
「…なにこれ」
だが、体育館は何事もなかったかのようにそこに存在していた。
「…おいおいあぶねぇだろ」
男の声がして、私はその方へと向く。
そこには、背中に腕を2本生やした。刀を持った人間が立っていた。




