24.私はあなたを、不幸になんてしない。
「火月、火月!」
誰かの声が聞こえた。いつも励ましてくれるあの子の声。
「祟り神が出たよ~今日のはおっきいねぇ」
「火月が来てくれないと対処できない!どこにいるの?火つ」
通信機の電源を落とす。こんな日でも水面は奇麗だ。びしょゆれになってしまった衣服は、風に当てられて体を冷やしていく。
このまま川の中に行けば楽になれるのだろうか。
自分のやってしまったことを洗い流せるのだろうか。
いや、そんなことはない。そんなことで帳消しにできるほど私の罪は軽くない。
「...いかないと」
ベルトに巻き付けたナイフホルダーからナイフを取り出し、耳を傷つける。
そうすると、白い霧が私の周りを包んでいった。
「...」
『火月。知ってるか?お前のその能力はな。その人が持っている運命に左右され、見た目を変えるんだ。白い霧の奴は栄光をつかむ運命をたどり、神の器官もその運命に呼応して美しく顕現する。それから黒に近づくにつれて悲劇的な運命に近づき、見た目も醜くなっていくんだ。』
『...悲劇的な運命を辿る人は神様に求められてないってこと?』
『いや、そうじゃねぇんだよ。神の能力ってのはな、良くも悪くも人の運命を変えちまうのさ。運命は決まっていて変えられない。だが、神の手では変えられる。だからこそ神の器官をもった人間は運命を変えるために力を手に入れたともいえるわけだな』
『...あの一つ質問なのですが、黒に近づくにつれて悲劇的な運命を辿ると言っていますが、具体的にどんな運命を辿るんですか?』
『そうだなぁ、ひとえにそれっていうのはない。だが、完全に黒い霧を持った人間の運命は決まっている』
『...それは?』
『誰にも相手にされず、存在を認められず。努力しても失敗し続けて、そして自殺する。それが彼らの運命。だからこそ神はそいつらに神の器官を分け与えるのかもな』
「...お姉ちゃん」
お姉ちゃんが教えてくれた神の器官の真実、彼の能力。祟り神の能力が出ているとき、周りには完全に黒い霧が立ち込めていた。
祟り神がなければ今頃彼は、自殺して。
「ははっ、ははは!」
自分の愚かさに笑えてくる。彼は悪に自分から手を染めたわけじゃない。そうしなければ社会に参加できなかったから仕方なく染めたんだ。
神の器官さえなければ彼はどれだけ努力しても何も結果を残せずに自殺。
何が魔法少女だ。何が、私は彼から神の器官を奪い取ってまた自殺する運命に引き戻そうというのか。
「なんで!なんで!私が一番守りたかったものが!取り戻したかったものに!そのために戦ってきたのに!それが全部。無駄で、夢から遠ざけてたなんて...そんな馬鹿な話があるの?ねぇ!神様!なんで私にこんなもの渡したの!こんなもの...」
ナイフを、川に投げ捨てた。きっと警察が見つけたら大騒ぎになってしまうだろう。でも祟り神が倒されたら、彼が自殺する運命がまた一歩近づいてしまう。また、彼を傷つけてしまう。
「昔に戻りたいな」
あの頃、外から人があまり来なかったとき。見知らぬ人がいなかったとき。
彼が私を助けてくれて、いじめから守り続けてくれた日々。
彼が泣いてる私を励まして、泣き止むまで一緒にいてくれた日々。
彼が奇麗な湖に行こうと言って、何時間も自転車を走らせてくれたこともあったな。そこは沼だったけど、そこに映る月が奇麗で、ただ眺めていて。
ああ、全部。私が取り戻したかったものだったのに。
私の大切な思い出だったのに。
「おい、聞いたかい?祟り神がまた出たらしい」
橋の上から、誰かの声が聞こえた。確か花屋のおばあちゃんだ。
「しかも今日、立花さんとこの娘さんがまだ帰ってきてないのだと」
「そりゃ大変じゃ、でもまた魔法少女が助けてくれるわい。わしたちは信じて待っていよう」
「!?」
わたしは急いで、通信機の電源をオンにする。
「火月!子供が一人逃げ遅れてる!今守ってるけどこのままじゃ私たちもろとも死んじゃう!火月!応答して!火月!」
「...はっ」
ナイフケースからナイフを取り出そうとする。でも、そこにはナイフはない。先ほど捨ててしまった。
「...このままじゃ、でも」
あの子はしんじゃう。でも、このまま祟り神を倒してたら、彼は...
...また、私は彼より他人を優先するの?
「はっはっ」
呼吸が乱れる。息がうまくできない。私はどうしたら
「火月!このままじゃあの子が死んじゃう!助けて!火月!」
「・・・私は、馬鹿だ!」
爪を首に強く食い込ませる。痛い、泣きそうになるほどにいたい。でも、それなら私の首から血を出すことができる。
「お願い。私と戦って、シェアブライド!」
地面に血のたまりが形成される。それと同時に辺りには白い霧が立ち込める。
血と白い霧が交わり、形を成していく。それは、ブーケを持つ指輪をした左手であった。
彫刻のような左手は、ブーケをただ上空に投げた。花弁が町中に散り、その一部が私を包む。
次の瞬間、私の服は赤いドレスに変形した。
「ごめん!連絡取れなかった、祟り神は!」
「遅い!祟り神は今ニコニコ公園の前にいる。少女はとりあえず近くの人の家にかくまってもらってるけど、今回の奴はどんどん大きくなっていて建物を壊すのも時間の問題!」
「わかった!そっちに向かう。それまで何とか耐えてほしい!」
わたしはドレスの裾を持ち上げる。その瞬間、空に浮かんでいく。
「あそこか!」
わたしはそのまま、祟り神のいるほうに向かった。
...そうだ、私は何を考えていたんだ。私が今までやってきたことを否定しちゃいけない。人を守るために私は魔法少女になったんだ。
それに。
『神の能力ってのはな、良くも悪くも人の運命を変えちまうのさ。』
この力が人の運命を変えるものなら、彼の運命を私の能力で変えることだってできるはずなんだ。
彼が自殺する運命なんて、私が変えてやる。そのために
「勝負だよ、管差くん。私はあなたを不幸になんてしない!」




