23.今度は、僕たちが彼らを踏み潰そう。
ニセコ橋の前で、男はカラスを眺めていた。木の上を確認し、巣を見つけたらメモを取る。
「...さて、ここら辺りが潮時か」
男は、メモを取りながら何かをつぶやいた。空は夕焼け色に染まり、今日が終わろうとしているのがわかる。
「奇麗だ」
景色を見て、そうつぶやく。男は、空が好きなのだ。繊細で、きれいで、それでいて変わっていくから好きなのだ。
「さてと、そろそろ戻るか」
奇麗な空を見ながら、彼は家に戻る。とその時だ。
橋のほうから誰かが歩いてきていた。いや、男は知っていた。
「おう、奇遇だな」
急激に空が曇っていく。これから雨が降るのだろう。黒い雲が辺りを包んでいく。男は、少年の顔を見ていた。夜に見たあの曇り掛かり、恐怖していた目ではない。覚悟を決め、ただ真剣な顔をする少年の顔を。
「...まさか、ここまで利くとはな」
「何が言いたいんですか」
「いや、感心してたんだよ。正論を聞いて成長できる人間は貴重だ。今のお前には価値がある。ついてこい」
男は、少年をアジトに案内する。歩いて歩みを進める。幸い、雨は橋の向こうにしか降っていなかった。
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「さて、始めるぞ」
「いや、私何も聞いてないのだけど」
神居崎はアジトから引っ張ってきた揺れるタイプの椅子に腰かけ、頭を天井に向けながらそう宣言する。
それを熊谷は静止した。椅子も話もである。
「これから何するのよ」
「安心しろお前に大した役割はない。明日ワープしてここを離れるんだから、その準備だけしとけ」
「それで、どうやってこの街の住民を根絶やしにするんですか?」
「お前言うようになったな。なにかあったか」
「失恋しました」
「そうか、じゃあ現在の状況を説明していくぞ」
神居崎は足李の発言を無視して、足李を親指で指さす。
「こいつとコンビを組んでこの街を破壊することになった。こいつの能力は祟り神、詳細はお前に話した通りだ」
「...まって、追いつけないのだけど」
「実行日は明日、なるべく人を殺せればクリアだ。全滅させなくていい。復興作業が必要な程度に破壊する」
「話を聞いてほしいんだけど」
熊谷は、話を制止する。神居崎はため息をついて、一から説明することにした。
「...」
男には話をまとめる能力がなかった。
「お前、祟り神の能力の発動条件を教えろ」
「ええ!?ええっと...神様に見てもらうんです」
「じゃあとりあえず神様を出せ。話はそれからだ」
神居崎が足李にそう言うと、足李は手の平を合わせる。その瞬間、黒い霧が辺りを包んでいく。
「...黒い霧」
熊谷はそうつぶやいた。黒い霧は少しずつ形になっていく。
(そういえば、黒い霧を持っている人間は仲間になるかもしれないって言ってたなこいつ)
神居崎がそう考えていると、神の器官が少しずつ形成され、現れた。
その形は、目であった。無数の目、部屋を覆いつくすほどの目は、壁、床、天井に張り付いている。
「これが、僕の神様です」
「...部屋にある無数の目、嫌な記憶を思い出すわ」
「お前は黙ってろ。それで、こいつで見つめればいいんだな」
「ああ!えっと、神様がたくさんいると思うんですけど、沢山の目で一斉に一匹を見るんです。そうやって見られた動物はロックオンされて、僕の好きなタイミングで祟り神にできるようになります」
「...ああ、ここまで都合のいい能力だとは思わなかった。最高だ」
神居崎は少し微笑みながらそう言った。それを見て熊谷はため息をつく。
「それで、結局何をするの?」
「...単純だ。沢山の祟り神で街を襲撃するんだよ」
神居崎は地図を広げた。この街が載っている地図。そこにはいたるところに赤い丸のマークが書かれていた。
「...これは?」
「カラスの巣の位置だ。色々と考えてな」
「カラスの巣?これで何をするの」
「この巣にいるカラスたちを一気に祟り神にするんだよ」
神居崎はそれぞれのマークを一つの線でつなげていく。すると、街を大きく囲う縁になった。
「これから外に出てカラスの巣を回る。それでお前の能力でカラスに祟りをつけろ。それで明日の午後3時、ちょうど学生の下校中に祟り神を一斉に放つ」
「でも、それで人を襲うっていうのはないんじゃないの?結局祟り神って感情を少し高ぶらせるだけの強化能力だったはず。」
「だからカラスなんだ。町中に巣を作っているカラスたちが巨大化して気がたったら、巣に近づいてきた人間は攻撃するだろ?巨大化したカラスにつつかれたら人は耐えられない」
「それでうまくいくの?」
「いや、人をある程度殺せたらいいんだ。ついでに建物も壊せたらいいなくらいだ」
「...あの、一つ質問いいですか?」
足李が神居崎のほうを見て、手を挙げる。神居崎は嫌な顔をして「勝手に入れ」といった。
「ここ、ちょうど僕たちがあった場所ですよね?」
足李が指さした場所は、夕方に神居崎と鉢合わせした橋の前の木だった。
「結局全部確認に行くなら、その場で話してすぐ始めた方がよかったのでは?」
「いや、いったん確認しておきたい事象があってな。おい熊谷、スマホ寄越せ」
「警察に見つかるから持ってないって言ってるでしょ」
「それだと俺につけてる発信機をどうやって確認するんだよ。持ってんだろ?寄越せ」
熊谷は不服そうにスマホを投げ渡す。
「パスワードは2312よ」
「おう」
スマホでYOUTUBEを開き、昼間に行ったカフェのチャンネルを開いた。ライブの位置にカーソルを合わせると、本当にライブカメラが映っていた。
「ここって。街のライブカメラですよね?これがどうしたんですか?」
「ここに祟り神を放てるか?」
「え?いや、一応近くに実験用に祟りをかけた狐がいますけど」
「なら、頼む」
「結局何がわかるの?それで」
神居崎は真顔でライブカメラを見つめる。
「協力者は一人だけじゃないってことだ」
ライブカメラの映像に、巨大な黒い狐が現れる。
その瞬間、どこかで青い光が輝いた。戦いが始まる。




