22.ずっと耐えてきたのだろう?今がその時だ。
「...」
公園のベンチに座る少年がいた。
彼の名は足李 管差【たり くださ】世間では知的障碍者と呼ばれ、この街では祟り神の能力を使い悪事を働いた悪役であった。
祟り神でこの街を襲い、外国人を追い出せば小学生の頃にいた温かい皆が返ってくると本気で思っていた愚か者。
そんな彼は、ぼっーと公園で遊ぶ子供を見ていた。
「...」
子供たちはただただ遊んでいた。普通の人はどう思うのだろうか。
かわいいーだとか、平和だなーだとか思うのだろうか。だか足李は違う。
混ざって遊びたいと考えている。だが、そんなことは皆許さないだろう。
『なんでみんなが温かかったか。それは、昔はどんな人にも価値があったからだ。お前も将来街で働いてほしいから。ちょっとおかしいお前にも優しくしていたんだ。一般人は結局利益でしか人を見れない』
彼は、人に言われたことを考えていた。自分なりに答えを出そうとしていた。
いや、いつも出そうとして失敗をし続けた。この祟り神の騒動すらそうだ。
さて、知的障碍者を見て皆は何を思い浮かべるだろうか。もちろんテレビで見ればかわいそうだとか、強く生きてほしいと思うだろう。
だが、リアルであったなら君たちは無視をし、次の瞬間には忘れるよう努力するだろう。
「...」
障害者の多くは、何もしていない。ただ生きようとしている。
だが、この国では働かなければ犯罪者である。生活保護といわれるものを貰ったとしても、働く意思がなければ打ち切られる。
それが世の常である。その中で彼は、自分に価値があると思いたかったのだ。
「...」
だが、現実は残酷であった。彼には生まれたときから道はない。
それが事実だ。事実は変わらずそこに存在し続ける。
「...」
人は事実を言う人を差別主義者だと高らかに叫び避難する。だが、違うのだ。
事実とはその場に必ず存在し避けられないもの。
差別とは人の頭の中に存在し、排除するべきものだ。
人は、他者を非難するのではなく、自分の中にあるものと向き合わなければならなかったのだ。なのに、他者に責任を丸投げし、嫌うという選択を取ることで自分の中の醜さから逃れようとする。
「...」
そんな人間は、殺さなればならない。皆殺しにし、新たな常識が芽吹いた社会にしなければならないのだ。
少年少女を今こそ立ちあが
「...一ミリもわからない。社会って難しいな」
イヤホンを外して、前を見る。僕と同じ境遇の人がいると思って動画を開いた。でも動画の内容は難しくて僕の頭に入ってこなかった。
「すごいんだな、みんなって」
そう考えている。僕は何者になれるのだろう。何かになれるのだろうか。
僕は愛想がよくなかった。ってお母さんは言ってた。
それでもお母さんはなおそうとしてくれた。でも、僕の頭は治らなくて、お母さんは食器をボクの頭に投げつけた。
『一つ事実を言ってやる。こんな時間まで高校生が出かけているのに捜索もしないなんてふつうおかしいんだよ。誰もお前のことなんて心配も考えもしてないんだよ。死んでてもいいと思われてんだよ。お前』
彼の言葉が頭の中に流れる。辛い言葉、本当に辛い言葉。でも、反響はしない。それは事実だから。
「今日の夜どこに行けばいいんだろ。前連れていかれた場所に行けばいいのかな」
決意を固める。ここまで生きてきて、わかったことがある僕には何もできないってことが。
どれだけ言い訳をしようとも、何をしようとも事実だけは変わらない。
空を見上げる。今日は太陽が出ているいい日だ。たまには昼に散歩でも行ってみようかな。
明日にはきっとここは地獄になるから。
僕は立ち上がる。そうだ、ニセコ橋にでも行ってみよう。あそこの川はきれいだから。きっと今日もきれいなはずだ。
僕は立ち上がる。それと同時に、昔の記憶がよみがえった。
『これ!あげる!』
『いいの?こんなきれいなもの』
『いいよ!管差くんにだからあげるの!』
『!ありがとう!大事にするね!』
...昔の記憶だ。いい記憶、人にやさしくしてもらった記憶。
僕は公園をでて、外を歩いた。お花屋さんや魚屋さん、いろんなお店がある。沢山の人にやさしくしてもらった記憶がよみがえってくる。
それと同時に、優しくしてくれた人がだんだん冷たくなっていく記憶も。
「...」
僕は難しいことは分からないけど、きっと。思い出っていうのは、消費されていくものなのだと思う。
沢山のいい思い出は、未来にある嫌な思い出のカンフル剤になった。
きっと僕が悪いのだろう。それは事実だ。でも、それで僕が傷ついた事実も変わらない。仕方ないことなんて言う気もない。
これは、僕の物語だ。これから僕の物語が始まる。
人殺しの物語、ねぇ、僕。
ずっと耐えてきたのだろう?今がその時だ。
この街の人間を、殺すんだ。
考えてるうちに、ニセコ橋にたどり着いた。僕はポケットの中にあった財布を取り出す。
そこには火月ちゃんからもらった。宝石のキーホルダーがついていた。
黒ずんで、汚くなった僕の思い出だ。
「...さようなら」
僕はキーホルダーを川に投げ捨てた。小さい宝石のキーホルダーは瞬く間に小さくなり、消えていく。
「...足李くん?」
横から声がした。聞き覚えがある声、唯一嫌な思い出がない。少女の声。
僕はただ川を見続ける。
「足李くんだよね?昨日の夜会った」
「...うん」
川に投げ尾まれた宝石のキーホルダーがまだ目の前にあるように頭の中に映像でとどまっている。
「だよね!よかった。あの、昨日はごめんなさい。不審者なんて...」
「いいよ、むかしのことだ」
「昔って...昨日のことでしょ?」
「だから、むかしなんだ」
太陽が隠れていく。自分の影が揺らめいた気がした。
「あの...引きこもったって聞いてたから。でも!出てきてくれてよかった!今度一緒に遊びに行こう?前みたいに、ソフトクリーム食べに行ったりとか!」
「火月さん」
雲が太陽を完全に隠し、自分の影も見えなくなったと同時に、彼女のほうを見た。彼女は申し訳なさそうな顔をしていて、困った顔で笑顔を無理やり作っていた。
「・・・どうしたの?」
「ずっと聞きたいことがあったんだ」
「...うん」
彼女は、視線を右下に落とした。ただ心配そうな顔して、不安そうな顔を無理やり抑えているような顔で。
「どうして、僕と友達になろうとしたの?」
「・・・え?」
あっけにとられたような顔をする。僕は、体を彼女に向けた。
「...あなたが人一倍優しかったからだよ。空回りだったけど人のことを第一に考えられて、不器用だったけど人に寄り添える人だったから。友達になりたいって思ったんだよ?」
「...君も僕のこと優しい人間っていうんだね」
映画のシーンを思い出していた。昔見た映画、川でタバコを吸って、何かを離していて。あれ?この先ってどうなるんだっけか。
「あのさ、何か辛いこと...ううん、ずっと辛かったんだよね?ごめん、気が付かなくて。私、自分のことばっかに夢中で。一番大切にしないといけないこと忘れてて。だから」
「いいよ、もう」
「...え?」
「もういいんだ。いいんだよ。辛いことも悲しいこともいっぱいあった。でも頑張ってきて、それでもどうにもならなかったんだ」
「...まだ大丈夫だよ!まだまだ、私も手伝う!だから」
「そうやって近づいて、それで最終的に僕に呆れて離れていくんだろ」
『なんでそんなこともできないの!』
「もう疲れんだ」
『お前は出来損ないだ』
「現実と向き合い続けた。その先に幸せがあるって信じてたから!」
『誰があいつなんか相手にするんだよ』
「それでも、何もなかったんだ」
『君は、本当に何もできないですね』
「だから、もういいんだよ」
「もういいなんてことない!」
火月の大きな声を久しぶりに街に響いた。子供の頃はこうやってどうしてもいやなことは怒ってたんだったな。
「足李くんは!必死に努力して、誰かのためになろうとして、そんな心が温かい人が。幸せを諦めるなんてあっちゃいけないんだよ!君と受け入れてくれる人だって沢山いる!君の力を必要としてくれる人だって!私だって!」
「なら、なんで昔みたいに管差って呼んでくれないんだよ」
僕は歩き出す。少女のほうへ。
「ありがとう。僕のことそう言ってくれて、でももう決めたことだから」
山のほうへ
「僕は、もう弱者じゃない。君たちを踏み潰すって」
彼のほうへ
「だから、次からは僕たちは敵だ」
僕が行くべき道へ
「何言ってるの?」
少女とすれ違う。その瞬間、火月は僕の手をつかんだ。
「...お願い、聞いて。私は」
「...君じゃ、僕の味方になんてなれないよ」
僕は、手を振り払った。ジンジンと痛む手の感触を忘れないように、片手でその部分を振れる。
「僕は、足李管差。祟り神を操り、この街を崩壊させるもの。勝負だ、魔法少女、お前達が踏み潰してきた生命を背負い、僕にかかってこい...なんて、今は変身できないか」
「...え?管差君。何言って」
「最後に名前を呼んでくれた。ようやく僕を救済対象じゃなくて、対等な関係として見てくれたね。じゃ、またね。火月」
最後に笑顔を向けて、僕は山のほうへと向かった。辺りを見渡すと少し薄暗くなっていた。もう夕方なのだろう。
今日、僕は悪役から悪になる。僕が自分を肯定するために、人をつぶす。
それはとても辛いことだろうけど、もう
「覚悟はできた」
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橋の上、明るい少女は膝をついていた。
「管差君が、祟り神?」
少女は、あこがれていた人間がいた。その少年はただ優しくて、誰にだって笑顔を向けられて、その人のようになりたいと思っていた。
だから、少女は皆を照らす太陽になろうとした。
皆に笑顔を向け、人助けをして、困っている人を助け続けた。
それは魔法少女になる前から変わらない。
「...」
明るく振舞っていた少女は膝をつく。ポツポツ雨が降ってくる。
今日の予報は晴れのはずなのに、雨はどんどんひどくなっていく。
「あぁ。あああ」
少女は、魔法少女の力を手に入れたとき。それを人のために使うことにした。
その力を使い、仕事を手伝い。沢山の人を笑顔にした。
沢山の人を救うのに夢中で、一番救わなければいけない人を忘れてしまった。
「ああああぁぁ...」
目から涙が、あふれてくる。自分の過ちに、とてつもなくでかい自分の罪を自覚する。
「なんで...なんで!」
魔法少女のあかしを彼女は投げ捨てる。それは川に落ちていくが、ある程度離れたらまた手元に帰ってきた。少女はそれを何回も何回も投げ続ける。
「私は!私は!」
水が跳ね、制服が汚れていく。白いシャツは泥だらけになり、笑顔が奇麗だった顔は、ただ後悔の涙に染まっていた。
「なんで...正しいと思い込んじゃうんだろう」
心の底から出た後悔。とっくに彼女からは笑顔は消え、小さいころの光のない目に戻る。
『やめて!やめてよ』
『うるせぇよ!こんなもの持って気持ち悪いんだよ!』
昔の記憶が思い出される。魔法少女をしているとき、どれだけ辛いことがあっても自分を支えてくれた記憶。
『まてぇ!いじめは許さないぞ!』
『うわぁ!逃げろ!』
彼が助けてくれた記憶。彼女の憧れの記憶
『大丈夫?』
『あ、ありがとう...』
それが今は、
『何、ヒーローが人を助けるのは当たり前のことだ!』
『わあぁぁ!』
どうしようもない後悔の記憶になってしまった。
「ああああぁぁ、ああああぁぁ!!」
嗚咽を吐きながら、彼女はただ泣き続ける。
自分の支えが、幸せな記憶が、自分の愚かさゆえの後悔の記憶に変わっていく。それでも彼女たちの物語を私たちは深く知ることはできない。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
なぜなら、私たちは彼女たちの物語の読者ではないのだから。




