20.お前を生みにじった世界は、そんなに美しいわけがない。
少女が男を連れてきた場所はカフェであった。
テラス席がある少女が気に入っているカフェである。
男は警戒していた。何せ自分を警戒していたはずの魔法少女が自分から名乗りを上げたからだ。
(どういうことだ?何が起きている)
さて、男は女性から視線を話さずにいると、少女は何かを差し出した。
「めにゅー、何か頼んで」
「...ああ、おう」
男は気が抜けてしまった。
「ホットコーヒーを頼む」
「じゃあ、わたしはーいつものセットお願いー」
少女と男は注文を言うと、店員は店の奥へと消え、少女と二人だけになった。
「で、だ。お前、何が目的だ」
単刀直入に男が聞く。少女はおかれた水を一口飲むと男をにらみつける。
「お前じゃない。わたしはカナタ、大空彼方」
「...質問に答えろ」
「彼方って呼んで」
「...」
男はやりずらさを感じていた。そもそも今までの人生で人と親しくなる機会がなく。そのため交渉すらやったことがない。
男の交流といえば、裏切られ、見下される。それがコミュニケーションだったのだ。
「...彼方、何が目的なんだ」
男は女性の名前を呼ぶことにも慣れていなかった。
「一言でいえばー協力要請と警告かなー」
「警告だと?」
男がそう聞くと、店員が奥からやってきて男が頼んだコーヒーとコーヒーパフェとカフェオレがテーブルに置かれた。
「いっただきまーす!」
「おい、質問に」
「貴方の名前教えて」
「ちっ、こいつ...」
男はそれでも何度も質問をした。だが、彼方はそれを無視しパフェをほおばった。観念した男はコーヒーを一口口に入れ、嚥下せず舌の上で転がす。
「神居崎俊三だ。」
「長いね、呼び方しゅうでいい?」
「ふざけてんのかお前」
舌に痺れが来ないことを確認し、舌の上で放置したコーヒーを飲み込んだ。
「じゃあしゅうくん。貴方、記者じゃないでしょー。記者の瞳に宿るのは探求心や好奇心。しゅうくんに宿っているのは怒りと憎しみと悲しみだもん」
「...それがどうしたっていうんだ」
「でも、みつきはそうは思っていないと思うよー?だからあなたを消しに来る」
男は、美月という言葉を思い出す。それは確かこいつと一緒に募金活動をしていた気の強い女の名前だということを思い出した。
(...魔法少女が俺を殺す?)
少女はまだパフェを楽しんでいる。少しずつちょびちょび食べる彼女のパフェはまだ五割ほど残っていた。
(考えろ、なぜこいつは俺に接触してきた。そしてこいつはなぜ俺に警告した?記者、殺される)
男が考えていると、あることを思い出す。熊谷が発言していたこと。
(そうだ、あいつは俺に紙の力を持っている人間の部隊が2つほどあると言っていた。政府に所属する部隊...)
「質問を変える。魔法少女と怪物が現れてから何日経っている」
男はそう質問した。その瞬間、彼方は手をパフェを食べるのをやめ、スプーンをテーブルに置いた。そして
「半年前から」
そう答えた。
「...なるほどな。おかしいと思った。あれだけたくさんの人に認知され、沢山の人に愛される魔法少女だ。加えてここは観光地として大いに盛り上がっているニセコ町。なのに外では一切化け物の話は聞かない。
誰かが情報統制してるのか。いや、それは一人しかいないな」
「そうだよ、それが美月びいる国の特殊部隊。って言ってもこの町には神のご加護を受けた人はわたし含めて三人しかいない~本来はこんなことせずに捕獲して終わりなんだけどねー」
男はなんとか足りない頭を働かせる。そして一つの結論を出す。
「...ニセコ町だからか」
「そう~ここには沢山の外の人が別荘を買ってるーそれはみんな外国人で、ある程度の資金と立場を持っている人たちー」
「だからその中にいる住民にはあまり手を出せないのか」
「それもあるけどー一番の原因は祟り神」
「・・・なんだと」
「外国の偉い人は~祟り神を軍事利用できないかと考えてるーだからこの土地への干渉をある程度抑えるように国に圧力をかけたりしてるー
他にもいろいろあるけどー沢山の野望が複雑に絡み合って身動きが取れない状態になってるって考えた方がいいかなー」
彼方の話はいわれてみればおかしくない話であった。
神様の器官をもつ人間には化学の常識は通用しないのだ。
ルールを捻じ曲げ、直接現実に干渉する能力。そんなの他の国も欲しいに決まっている。
「でもーしゅうくんは違う。貴方はー外から来たただの記者さん。
この街を知られたから少なくとも記憶消去の対象~一応フォローはしておいたけど。捕まるのは時間の問題かなー」
少女の話は完全な正論であった。男は自分の軽率さを振り返っていた。
『私たちはこの物語の主要人物じゃない』
ふと、熊谷がそういっていたことを男は思い出す。
(...その通りだな。だが、一つ分かったことがある。この町もちゃんと俺の住んでた町ほど汚れている)
男は、コーヒーにミルクをかき混ぜてさらに一口コーヒーを口に含む。
「...それで、なぜ俺にそんなことを教えた。お前の目的を言え」
「彼方」
「...彼方、目的を言え」
「ふふっ」
彼方は少し笑うと、パフェの最後の一口を食べる。
そして、男に体を向きなおす。
「...祟り神を持った人間が、美月と接触した。その時点でわたしの負けが決まっちゃった」
「...は?」
突然言ったことに、男ははてなマークを浮かべる。
男は、この少女の目的も性格も、何も知らない状態で今の状況だけを言われていた。
「わたしは、しゅうくんに降伏する。この力も何もかもを貴方のために使う。だから、」
彼方は少し深呼吸をし、汗を一滴たらしながら。
「美月を殺してほしい」
そう男に伝えた。




