2.この物語に、ハッピーエンドはないだろう。
「なっ...なんでお前が」
熊谷彩、昔俺のことを目の敵にし、中学の時のいじめの主犯格。
俺はこいつのことは心底嫌いだが、嫌いの他に感謝も少しだけ含まれている。
こいつは、俺に対して自分が思っていることを声に出して皆の前で責め立ててくれたことだ。
こいつのやったことはクソだが、その点に関しては感謝している俺が社会に出るとき、こいつが教えてくれなかったら俺はもっとひどい目にあっていただろう。
だが、二度と会いたくないと思っていた人物で、本人も俺に対してそう思っているだろうことは間違いない。
だが、こいつは今俺に会いたかったといいやがった。
それにこいつが出している霧はなんだ?何が起こっている?
「知ってる?貴方今、テレビで話題になっているのよ?一クラス全員を殺した連続殺人犯として」
「知っている。それを話題にしたやつも全員殺す」
「ずいぶんな啖呵を切るのね。さっき捕まりそうになっていたじゃない」
「...お前が意味の分からない力で警察官たちを根絶やしにしてくれなかったら俺は捕まっていただろうな。その力は何だ」
「助けてくれたならありがとうじゃない?あなた本当にそういうとこ駄目ね」
「化物に感謝する奴がいるか?今にも俺は消されるかもしれないっていうのに」
「...あなた、何かと理由つけて私にお礼を言いたくないだけでしょ、まっいいけど、いいこと教えてあげる。この霧は対象を転移させる能力、霧で包んだ人間を、半径5km以内の指定した場所にテレポートさせることができる。
意味わかる?すぐに戻ってくるわよ」
「知ったことか、全員殺すだけだ」
「そうやって啖呵切るのはいいけどね、貴方に死なれるわけには行けないの、だから少しついてきてもらうわ」
熊谷はそういうと、霧で俺の体を包む。霧が濃くなりあたりが完全に真っ暗になっていき、熊谷彩だけが俺の視界の中に残る。
しばらくすると霧が晴れていく、だが
「...なるほどな」
視界に映ったのは葬儀場の中ではなく、下水道のようなところであった。
いや下水道だろう。とんでもなく臭い。
「それで、どうやったんだ」
「あら、私に質問をするのね。貴方は私に悪態しかつかないと思っていたわ」
「...怒りが収まって冷静になってきたんだ。それでどうなっているんだ」
熊谷はまた体の中から霧を出し、足元を霧で埋め尽くした。
「神様は、常人に失望し、入れ替えるための指令を出したわ」
俺はこの突拍子ない話に、首をかしげる。熊谷はくすっと笑った後、話をつづけた。
「簡単なことよ、今の常識人、一般人と言われる日本人は神様の中では落第なの、プライドが高く、仕事に熱心でもなく、神を信仰するのでもなく、ただ怠惰に生きて、人を虐げるのに遠慮がなく、日本人に合った高潔さが失われて、醜さだけが残った一般人たちに神は失望した。だからね、神様は私たち弱者に、とある求人を出したわ」
「...話が飛び飛びすぎて訳が分からない」
「単純に言えば、神様から『今の一般人を全員殺せ』って指令が入ったのよ、私はあなたにその求人を渡しに来た」
「なんで神様がそんなことをするんだ」
「だから言ったでしょ、単純に醜すぎるからよ。で、私はあなたに神様の求人票を渡しに来たってわけ、報酬は『新しい価値観の形成』」
「くだらない、俺は知っているぞ、この世界で一番醜いのは自分は弱者ですって顔をしながら自分を正当化する奴らだ。そいつらは確かに弱者で一般人ではないが、一般人よりそういうやつらのほうが数億倍醜い」
「知ってるわよ、そんなこと、だからそいつらには求人が来てないんでしょう?貴方は妹のために人を殺したからこの求人が来たのよ」
...くだらない話だ、俺は確かに妹が自殺して、それで奴らを殺すことに決めた。だが、それは俺の感情の問題であって、決して妹のためなどではない。
俺が許せなかったから、俺が自分の意志でやったことだ。
妹が問題などではない、俺がしたくてしたことなんだ。
「...くだらない、神様だのなんだの、勝手にやれ、俺は弱者も一般人も強者も関係なく、日本人は皆殺しにする。俺の邪魔をするな」
「...求人は受け取った瞬間、私のような能力が芽生えるようになる。そして、その能力で人を殺し続ける任務を請け負うようになる」
「能力など関係ない、俺は俺の手で日本人を殺す」
「あなたに与えられる予定の能力は『ネクサス』縁にまつわる能力です」
「縁だと?俺に一番関係ない要素だろ」
「この能力を使えば、警察や軍と戦える程度にはなれると言ったら考えを変えてくれますか?」
その話を聞いて、俺は立ち止まる。知っている俺の
「あなたの問題は、一般人であること。一昔前、第二次世界大戦が起きた程度の時代ならば、貴方は世界を壊せていたでしょう。ですが、この現代、どこにいても人の目があり、戦い方すら効率化された世界では、貴方の野望は必ず失敗する。ですが、この世から逸脱した力を手にし、私と手を組めば、貴方は必ず悲願を、『日本人の絶滅』を達成することができる」
「なぜおまえは、そうやって俺に頼む。お前が虐げた人間にそんな図々しい願いを」
「...私はあなたを利用したい。だからあなたは私を利用すればいい。私たちは人殺し、もうとっくに人の心などないのだから。
貴方が日本人を絶滅させるというなら、その時その瞬間まで共闘をすればいい。そして、最後に殺し合おう」
...こいつは答えを濁した。なぜ利用したいのか、なぜ俺の前に現れたのかを言わなかった。だが、こいつの話には一理ある。
俺は、軍にも警察にも勝てない。日本人の絶滅など夢物語だろう。
だが、こいつのいう能力を手に入れたら、俺はそいつらに反旗を翻すことができる。
「...わかった。だが、俺はお前の信用しない。必ず殺す」
「それでいいのよ、ちゃんと殺しあいましょうね」
熊谷彩は俺にバックから取り出した紙を差し出す。俺はそれを受け取った。
その瞬間、受け取ったはずの紙が塵になって消えていった。
「これで契約完了、貴方は神様の味方で人類の敵、一緒に頑張りましょうね、人殺し」
「何が何だかわからないが、日本人を絶滅させられるなら手を貸してやる」
「まあ、私が勝とうが、貴方が勝とうが、ハッピーエンドはないんだから気楽にいきましょ」
これが、俺達のクソみたいな物語の始まり、これから始まる物語は、
愚かでイカれていて、取り返しがつかない。
バッドエンドな物語だ。




