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世界を終わらせようとする悪党たちの話  作者: 疲労男
2.ニセコシスターズ
18/57

18.それは、変わりゆく物語。

「さーて捕まえたぞ」


俺は逃げたこのガキの足にナイフを刺し動けなくした後。悲鳴を上げないように布で口を塞ぎ取り押さえた。


「んー!んー!」


めちゃくちゃ暴れているが、まあ足を負傷させているから大丈夫だろう。


「別荘にでも連れて行くか」


「んー!んー!」


足を負傷させたとは言え、腕は動かせる状態なんだよな。んー…


「刺すか、腕も」


「んー!んー!」


餓鬼が、硬く縛った口をなんとか解き、俺を振り払った。


「お前はなんなんだ!いきなり縛りやがって!」


「あ?だから魔法少女の情報とおまえの能力を教えろって言ってんだよ」


「誰がお前みたいな人間に教えるか」


「そうか、それならいらない。ちゃんと殺してやる」


「!いやいやまってくれ!すぐ話す。すぐ話すから!」


俺はナイフを振りかざしたが、寸前で奴は降伏宣言をした。俺はナイフを引っ込める。


「お前なんなんだ…」


「あぁ?」


「すみませんなんでもないです…」


_____________________


「結果だけ言う。魔法少女の能力は分からない」


「なめてんのかお前」


俺はアジトの近くまで移動し。餓鬼を木に縛り上げ、情報を聞き出していた。

時間は深夜3時、一応気に縛り上げた後に、熊谷の様子を見に行ったが時間が時間なので寝ていた。あいつ指名手配されてる自覚はあるのだろうか。


「待て待て、ずっと魔法少女と戦っているボクがわからないんだ。魔法少女と祟られたものとの戦闘をずっと見ていたボクでもわからない。これはつまり」


「...認識阻害か」


「いや、ボクの見立てだと。あいつの持っている神様は記憶の神だ。いやなことを忘れさせてくれる神様。それを魔法少女の誰かが持っている」


...日本で記憶の神と聞くと、オモイカネが浮かび上がる。だが、そいつはどちらかといえばアイディアの神様だ。

多分どこかの田舎で信仰されていた神様がそいつに求人を出したんだ。


「それで、お前の能力は」


「ボクの能力は単純だ。獣にたたりをつけることでパワーアップができる!」


「...ほかには」


「少し気性が荒くなる!常に怒った状態になるぞ!」


「なめてんのか」


しかしならば狐が襲ってきたのも納得できる。狐はあまり人間を襲おうとは思わないはずだ。そもそも人間とのかかわりが多い動物。

それが見境もなしに襲ってきたのは、単に怒っていたからなのだろう。


「...なあ、あんたなんでここに来たんだ?」


「なんで話す必要がある」


「ボクはな!強いニセコを守るために戦っているんだ!」


こいつ、話聞かねぇな。


「ニセコは今や、外国人の聖地だ。良質なスキー場のせいで沢山の別荘が立って、今や外国人のための街になっている。物価も沢山上がっちゃって。昔のニセコはすごいいい街だったんだ!人も暖かくて、街もきれいだったのに、外国人が来てから街の人も冷たくなって、ポイ捨てや不法投棄も増えて...だから、ボクは外国人を追い出して、温かい街を取り戻すんだ!」


「...」


こいつは何を言っているのだろうか、確かに街のごみ問題は早急に対応すべきことだろう。だが、ニセコはそもそも政府に見捨てられていた街だ。

このまま緩やかに破滅していたはずだった所を外国人が来たから持ち直したんだ...いや、こいつ。


「人が冷たくなったか」


「そうだ!クラスメイトも、街の人も、ボクに笑顔を向けてくれなくなったんだ!全部あいつらのせいだ!」


「...それはお前が変わらないからだよ」


原因が分かった。こいつがなぜ暴走しているのか。

俺は、こいつが嫌いだ。だから


「俺はな、この街結構いいと思うぜ。人も街も変わろうと努力している。俺の妹は変わろうとしない街に殺されたから」


「...なんで」


「なんでじゃないだろ。お前が無視されるのは、皆が変わろうとしているときに変わらないことを選択したからだ。みんなお前にかまっている時間が無くなったんだよ」


「そんなわけ」


「お前は、お前だけは子供だったんだ。子供だったから、かまうのをやめたんだ。図体だけでかくなってな。知ってるか?体だけが大人になったら、単純に無視され続けるんだよ。このままじゃお前はこの街に否定され続けるぞ」


「...黙れよ」


「たとえ外人を追い出せたとしても、お前は無視をされ続ける。それが現実だ。そいつらはずっとお前を無視し続けるぞ」


「黙れよ!!!!」


...こいつのことは嫌いだが、結局こいつも、面倒という感情の犠牲者だ。人は、一般人は向き合うことから逃げ続ける。面倒な奴に意見を出すことから逃げ続ける。それが面倒だから、意味がないという言い訳をつづる。

結局はこれも、変わらないといけないという同調圧力から思考停止して努力している奴らが招いた悲劇だ。


「お前の願いを叶える方法が一つだけある。それはな、外国人を皆殺しにすることだ」


「...は?」


「なんでみんなが温かかったか。それは、昔はどんな人にも価値があったからだ。お前も将来街で働いてほしいから。ちょっとおかしいお前にも優しくしていたんだ。一般人は結局利益でしか人を見れない」


「何言って」


「なら、もう一度悲劇に落とせばいい。外国人がいなくなり、そいつらも大半が負傷したなら、手が空いてるお前には価値が生まれる」


「...みんなを踏みつけろっていうのか」


「逆に聞くが、お前は踏みつけられてきたのに、なんで踏みつけちゃいけないって思っているんだ。一つ事実を言ってやる。こんな時間まで高校生が出かけているのに捜索もしないなんてふつうおかしいんだよ。誰もお前のことなんて心配も考えもしてないんだよ。死んででもいいと思われてんだよ。お前」


「...そんなことあるわけないだろ!ボクのこと!いい人だって!みんな言ってくれんだ!」


「今は、言われてんのかよ」


こいつは多分、集団から邪魔だって思われていたんだろう。

無能で、馬鹿で、どうしようもないと、だから無視されている。

知っているさ、俺もそうだった。だけど、こいつは自分の中の優しさからそいつらを憎めなかったんだ。でも馬鹿だからまた事態を悪化させてしまった。


「...作戦が一つある。お前の能力を使った作戦だ。お前は何も考えずにただ俺の命令に従ってくれれば、お前の望んだ未来を与えてやると約束する」


「!本当か」


「文句言わずに、命令無視もせず。余計なこともしないと約束するならだ。

俺が壊せと言ったら壊し、これが殺せと言ったら殺せ」


「...町の人は殺せな」


「明日の夜まで、時間をやる。それまでに決めろ。今日は返してやる。他人に俺のことを言うのも好きにしろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


俺はそれだけを言って、縄をほどいてやり、その場を離れ隠れ家に移動しようとする。だが、言い忘れていたことがあったことを思い出し、足を止めた。


「・・・一つアドバイスをしてやる。人は生まれながらに、会話が苦手な普通じゃないものは幸せになれないように作られている。それでも俺達はあがいてみるわけだ」


これは、俺が行きついた結論だ。希望を追いかけ続けて、それに裏切られ続けた俺の結論。


「あがいてあがいて、だが俺達は少しずつどん底に落ちていく。おちて。落ちて、底にたどり着いてしまったとき。ただ一丁の銃が置いてある」


ただ、辛い弱者の最後の選択肢。


「どん底に引き釣り落とされた弱者の選択肢は、二つしかない。その銃を自分に向けるか。他人に向けるか。それしかないんだ。

今、お前にもその選択肢がある。俺とともに人を殺すか。自分が自殺するか。お前の選択肢はそれ以外にないんだ」


どん底に落ちた人間を、一般人は助けない。絶対に、彼らはどん底に落ちた俺達をただあざけ笑い。こうはなるまいと教訓にして帰っていく。

そんなこと許してたまるか。俺の妹が、幸せになれないまま自殺し、彼らの幸せの犠牲にされたなんて、絶対に許してはならない。


「...決めるのはお前だ。それがお前という弱者に残された最後の選択肢だ。」


俺はそれだけを言って、その場から立ち去った。今日は疲れた。昨日の昼少し寝たとはいえ早く休息を取りたいものだ。


_____________________


ボクは、ボクは何をしているんだろう。

縄をほどかれて、全力で走り逃げて、息が続かない。


『知的障害ですって』


頭の声が、まだ消えない。あの人、見破っていたんだ。ボクのこと。


『根性が足りないだけだろ』


「・・・ううぅううう」


頭をたたく、たたく、たたく。それでも消えない。


『あ?まだいたのお前。きも』


「ああああぁぁ...」


『あいつ、まだついてくるよ』


『やめとけって』


「あああ...ぁぁ」


ずっと夜に行動してきた。気を強く持って、普通の人をまねして。それでも


『そんな奴ほおっておいて、行こ』


『...うん』


それでも、普通になれなくて、幸せになりたくて。誰かの役に立ちたくて。

口調も真似して、気遣おうとして、それで。


「...あぁ。」


知ってる。ぜんぶからまわり。ボクは普通にはなれない。


「あぁ」


遠くに誰かが見えた。魔法少女だ。いや、あれは。


「...火月ちゃん?」


昔、遊んでいた子だ。ボクが学校に行かなくなってから疎遠になっちゃったけど。


「火月ちゃー!...ん?」


大声で、彼女の名前を呼んだ。瞬間だった。

ボクの足が、半分切れ、て。


「あぁ。ああああ!!!」


痛い!痛い!痛い!痛い!


「火月!下がって!」


「ねぇーあなたなにものー?不審者さんー?」


なんで、血が、血がたくさん出てる。


「今すぐここから消えれば許してあげる。さっさと消えなさい」


あっあぁ


『気持ち悪いんだよ!』『早く消えろ!』『なんでそんなこともできないんだ』『ほんとお前気持ち悪いよな』『あいつの提案したことなんて適当でいいんですよ』『気持ち悪い』『あいつにはかかわらないほうがいいぜ』『早く消えて!』『お母さん大変ねぇ。あんな子が生まれて』『消えろよ。お前』『あいつの話聞くのほんときつい』


『なんでいなくならないんだよ。あいつ』


「ボク、いらない?」


涙がずっと出てる。ボクは彼女たちのいる逆方向を走った。走って走って、逃げた。

悲しみがあふれてくる。辛い。でも、ずっと目を背けてた辛さなんだ。

これが、現実なんだ。どうしようもない救いもない。現実なんだ。


『どん底に引き釣り落とされた弱者の選択肢は、二つしかない。その銃を自分に向けるか。他人に向けるか。それしかないんだ。』


ボクは、


『気持ち悪い』


ボクは、


『ほんとなんでいるのこいつ』


許せない


『『『『邪魔なんだよ。おまえ』』』


幸せなんて、どうでもいい。


この頭の声を、お前らを殺すことで消してやる。

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