17.自分なりの幸せなど、普通の幸せを持った奴が片手間に手に入れるものだ。
「…さて、行動開始だ」
俺がインタビューをしていた住宅街を見下ろしながら、そうつぶやく。
時間は20時、まだ人が歩いている時間帯であり、近くの居酒屋から声が聞こえる。
俺のやるべきことを振り返ってみよう。
俺がやるべきは3つ
1.ニセコシスターズの能力をつき止めること。
2.化け物、祟りがついた獣がどこから現れるかをつき止める。
3.祟り神の能力を持った人間との接触。
これが俺がこの夜でやるべきことである。
率直に言おう。不可能である。
「だが、そうとも言ってられない」
やれるだけのことはやっておこう...って言っても今日見つけられるかも定かじゃないが。
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「...見つからん」
街を探索し始めて、1時間ほどが経過したが。正直何も異変がない。
はっきり言って、平和そのものだ。
「ここまで平和そのものだと逆に不気味に見えてくるぞ...」
...そうだ、不気味だ。この街。
そうだよ、なんで気が付かなかった。この街、ずっと異質なんだ。
魔法少女に助けてもらったのに、その正体には気にも留めず、
化物が出ているのに、何も気にしない様子で営業する居酒屋。
これを異質と言わずになんというんだ。
「魔法少女の能力に関係するのだろうか。熊谷は神の能力では人に害を及ぼせないと言っていた。だが、これじゃマインドコントロールだ」
神の能力では人に危害は与えられない。だが、どんな医療技術でも使い方を間違えれば拷問道具に変わる。
考えろ。害がなく、かつ洗脳に使える能力...
「...駄目だ!わからん!」
とりあえず、まだ行ってない場所に...
ウォーン!!!!!と突然遠吠えがこだまする。明らかに大きすぎるその遠吠えは、まるで空襲のサイレンのように響き渡る。
「なんだ!?」
俺は、背中に背負った銃を構えようとするが
「そうだ、今日は調査目的だからって置いてきたんだ!」
背中には銃がなく、代わりに腰のベルトにつけてあったサバイバルナイフを取り出した。
「ネクサス、来い」
その掛け声とともに霧が充満し始める。黒い霧、だが今回の黒い霧はより一層濃く黒く濁っていた。
月の光が、何かによって隠される。
「...狼、いや狐」
それは美しいほどに、黒く濁った狐であった。体は黒く、目が赤く。道路を埋め尽くすほど巨大。
吐き気を催すほどのにおいが放つ毛皮だった所には黒い寄生虫のようなものがうごめいていた。
「これのどこがただのパワーアップだよ!」
俺は、全力で距離を取る。狐は俺を追いかけてきた。
さて、冷静に考えよう。武器はナイフ一本、この武器では巨大な獣に敵うことはないだろう。
ならばどうするか、簡単だ。前に銃を持ったやばい女にしたことを同じことをすればいい。
「ネクサス、切れ」
ネクサスは、巨大な体に突進し、敵を斬りつけた。
その瞬間、狐の体は次第に崩れていき。黒いうごめいていた部分は泥のように溶けていく。
少し時間がたつと、黒い泥は完全に溶けきって液体になり、真ん中には狐が横たわっていた。息はしているようだ。
俺は黒い液体にナイフを突っ込み、中に何か入っていないか探った。
「...これは、ペットボトルにお菓子の袋...」
コンビニで買えるような簡単なものが黒い液体の中には入っていた。
この黒い泥はもしかしてごみで出ているのか?
「わからない...」
声がして振り返る。そこには高校生くらいの少年が俺のことをじっと見ていた。爪を噛んでおり、髪はねぐせでぐちゃぐちゃ、目は隈だらけの不健康そうな少年だ。
「おい、お前の仕業か」
「...ああ、そうだよ。お前外から来たんだろ。だから」
「あ?俺を殺そうとした理由なんて聞いてねぇよ。お前の能力についてと、魔法少女について教えろ」
「は?」
「ネクサス、斬れ」
俺は、ネクサスで少年と神の縁を切ろうとした。が、直前で交わされ。逃走される。
「待て!」
俺はナイフを持ち、半泣きで逃げる少年の後を追いかけた。
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「...なに、これ」
活発そうな少女は唖然として黒い沼の前に立っていた。
気持ち悪いほどに激臭がするその沼は、普通の住宅街の道路の真ん中に存在していた。
「...見て、あそこ狐がいる」
冷静な少女が指をさして方向には、狐が横たわっていた。
「ねぇー息してそうだよ?」
マイペースな子がそういうと、冷静な少女は黒い沼の中を歩く。
幸い黒い沼はそこまでの深さはない。靴底が1cmほど沈むくらいだ。
冷静な少女が狐の近くに行くと、狐は目を覚ました。
「!?」
少女が困惑している間に、狐はそこから逃亡する。
「美月ちゃん!そんなとこいないで早く戻ってきて!」
「!ごめん火月、すぐ戻るわ」
冷静な少女は仲間の位置へ移動する。3人はひどく困惑していた。
三人は魔法少女である。今日も化け物を退治するため、化け物が出た場所に向かっていた。
だが、そこについたら見たことのない黒い沼が存在しており、化け物であっただろう狐は息をしていた。
「...これって、私たち以外の能力者が退治したってこと?」
「そうでしょうね。私たちとは違って祟り神を元に戻せる能力」
「あの記者さんかな~」
「記者っていうのも怪しいわ。こんな芸当できる人間が、一般社会に溶け込めるわけない」
3人はただ茫然と黒い沼を見ていた。
月明かりが照らす、今日の月はきれいに輝いている気がした。