16.恵まれたもの達は誰かを救わず、ビルの上で街を見下ろす。
「ニセコシスターズ…」
慎重な子が何かを考え始める。考えてる間もポケットから手を離さずに、こちらを見ている。
「そう、ニセコシスターズ!みな口を揃えていうんですよ。化け物に襲われたけど魔法少女に助けてもらったって。それをみんながニセコシスターズと呼んでいるってね」
俺はそんなこと返してみる。と後ろにいた活発な子がなんか誇らしそうにし始めた。
わかりやすい。
「でも、ニセコシスターズのことを聞いてみると3人組、魔法少女、怪物から助けてくれる…の情報しかなくてね。今私はニセコシスターズは幻覚を見せる奴らなんじゃないかって疑ってるわけ」
「そ、そんなことありません!」
俺は少し煽ってみたら、案の定活発な子が乗ってきた。
「ニセコシスターズはみんなを助ける正義の味方です!」
「お!?もしかして見たことある?」
「アッ!ええっと…」
「私たちの通う学校に出たんですよ。化け物、それを助けてくれたんです」
警戒心の強い少女が話を遮り入ってくる。
活発な子はうんうんと全力で頷いた。
「学校かぁ…どこの学校?」
「教えるわけ」
「はい!北海道ニセコ高校です!」
…ちょろすぎないかこの子、心配になるレベルだ。
「…学校に行っても無駄ですよ。化け物は町中に出現するんです」
「ちょっと美月ちゃん!募金してくれた人に失礼だよ!」
「あなたは警戒しなさすぎ!」
警戒している少女…いや美月と呼ばれた少女はこちらを向き直す。
「化け物はそこら中にいます。記者のお兄さんも気をつけた方がいいですよ」
「警告ありがとう。気をつけるよ」
猫の缶バッチをもらい、この場を後にする。
さて、かなりの情報が手に入った。
彼女達が通っている学校はニセコ高校と呼ばれている場所、そして化け物はそこら中に出現する。
一旦帰って情報をまとめることにしよう。
「あっ…その前に買い物行かないと」
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「もおー!美月ちゃん、失礼だよ!」
活発な少女はそう美月に説教をする。美月はそれを聞きため息をした。
「気づかなかったの。あなた」
「え、何が?」
「あいつ、神の気配がした。神の部位を持ってる」
美月がそういうと、活発な女の子はびっくりし、その場で仰天した。
「あのね〜あの人、多分祟り神となんの関係もないよ〜」
マイペースな子が鳥にパンをあげながらそう言った。
「…はぁ?じゃあなんで祟り神の情報を集めてるのよ」
「多分身を守るためだよ〜、あの人の目〜すごかったから〜」
「目がすごい?どういうこと?」
活発な子がそう聞いた。その瞬間、周りの鳥達が一斉に飛び立つ。
「あの人、人殺しの目してた。多分、自らの手で殺してる」
マイペースな子がそういうと、少女3人は固唾を飲んだ。その中でも活発な子がひどく動揺する。
その人がいるであろう組織に心当たりがあったからだ。
「…お姉ちゃんが来てるかもしてない」
活発な子が震えならそう言った。
駅の周りには人がいなくなっていた。
電車はまだ来ない。
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「それは多分、祟りの力だと思うわよ」
熊谷と俺はカップヌードルを食べながらそんなことを話す。
あの後、最寄りのスーパーによって3日分の食料を買ってきた。調理の必要がなく、かつ簡単に食べられるものである。
「祟りの力?」
「そう、祟り神。昔、疫病に感染した猪や熊を見て祟り神のせいと考えたのが始まりね。
動物に取り憑き、暴走させることができると考えられているわ」
「待て待て、直接危害を加えることはできないんじゃなかったのか」
「直接は無理よ、そもそも祟り神ができることなんて、力をほんの少し強くしたりすることだけ。
その動物が人間大好きだったら体がデカくなって終わりなのよ。犬をケルベロスに変えたところで愛玩動物だった事実は変わらないの。結局人を襲おうと考えるかはその獣次第」
…つまるところ、この街の能力者は少なくとも4人ということらしい。
「それにしても、かなり不気味ね」
「ああ、祟り神なんてどうやったら」
「そこじゃないわよ、私が言ってるのはニセコシスターズの方」
カップヌードルを食べ終わり、熊谷は手を合わせる。対する俺は半分くらい残っていた。
「記憶に残らないっていうのが不気味なのよ、たくさんの人を助けているのに記憶に残るのは魔法少女が怪物をやっつけたってことだけ。
つまるところ、人の記憶に干渉できるってこと」
…確かにおかしい。人の記憶に干渉しているということは人の記憶に危害を加えているということだ。
神のルールに違反している。
「…なあ結局人間に危害を加えることができる神ってなんなんだ?基準がわからん」
「…この世界で人間に直接危害を加えられる神様はこの世に1人しかいない。死の神イザナミノミコトだけ」
…イザナミノミコト、俺でも聞いたことのある神様だ。詳細は知らんが。
「悪いけど、夜に獣についての調査をしてくれるかしら、本当にその3人の中にイザナミノミコトが求人を出した人間がいるなら、大変なことになる。その前に必ず仕留めておきたい」
「…ああ、わかった」
俺はカップヌードルを食べ終わり、手を合わせる。
死の神、あの中に死の神に魅入られた人間がいる。
考えてても仕方がない。俺はソファに寝転がり、夜まで休息を取ることにした。