15.ニセコシスターズ
「はぁ…ここがニセコ町か」
俺は川を渡りニセコ町の市街地に来ていた。
と言ってもまだまだ端っこ、いうならば住宅街と言われているところだ。
「坂が多いな」
ニセコ町はスキー事業が盛んであり、坂の質や物価の安さから外国人がかなり来て盛んな都市になったらしい。
正直こんな状況だがワクワクしていた。俺は旅行をしたことがなかったのだ。
「地図は…あるわけないか、適当に歩いて適当に聞き込みするか」
さて、俺は少し歩き始めた。正直ここに3日滞在するのはきついと思っていたが、歩いてみたら案外楽しい。
まず、駅周辺に行くために近くの人々に聞き込みをした。駅はこのまままっすぐ進み、曲がり角で右に曲がれば着くらしい。
さて、そのことを視野に入れつつ、住宅街にいる人達にも取材と称して様々な人にニセコシスターズはどんな人かを聞いてみた。
最初はあまり取り合ってくれなかったが、試行錯誤をし、なんとか結構な人に話を聞いてもらうことに成功した。
いわく、ニセコシスターズは
「あのぉ?魔法少女っていうのかな、その衣装をして街に来た怪人をやっつけてくれるんだよ」
「おれのこと、助けてくれたんだ!最初は死神ミテェな不気味なフード被ってる変なやつだったんだけどよ!それをばっ!って脱ぎ捨ててめちゃくちゃかっこいいんだっ!」
「常に魔法少女の格好してる変な子だよ。でもあたしの店守ってくれたからねぇ。私は感謝してる」
どうやら、ニセコシスターズは善人で頭がおかしいらしい。
「将来の夢魔法少女のパターンかぁ?いや、神の器官に関係してるものかもしれんからな…」
俺は正直頭を悩ませた。聞く限り彼女らは頭がおかしいのと変わった格好をしているという話しか聞かないのだ。
つまり住民と関わることをあまりせず、正体を隠しているということだ。
「…なに、わかりきったこと考えているんだ。俺まで頭おかしくなったのか」
問題はその先だ。正体を隠しているということは紅の仲間の可能性もあるということだ。
それどころか熊谷が言っていた国の奴らかもしれない…いや、待て。
「ニセコシスターズは熊谷が知らない人達だった…逆に個人で活動している人の可能性もあるのか」
学生にありがちなことだ。自分が特別であり、下手な自信を持ち行動する。
俺もやったことがある。だがその先にあるのは果てしない後悔だけだ。
「…過去のことを思い出すのはやめろ。今は集中だ」
とりあえず、駅までつかないと。
道を右に曲がる。歩きながら、俺はまだ考える。
ニセコシスターズの正体は今考えても仕方のないことだ。詰まるところ、今考えることは怪物である。
「怪物…熊や猪のことじゃないよな」
怪物から身を守るためにニセコシスターズが戦っていると住民達は言った。
俺がいた街には、怪物の情報など出ていない。
それどころか、外のニュースにもみたことがない。
「この街だけで起きている状況…」
神の器官か?いやそれはないだろう。熊谷の話だが、神の器官では一部の例外を除き人に危害を加えることはできない。
一部の例外が暴れているのかとも考える。いやそれなら対象はこの町だけではなく世界に向けているはずだ。
「ニセコシスターズの自作自演…いやそれもない」
チヤホヤされたい特別になりたい。そう思うならば自分の顔や名前を大々的に出しているはずだ。
だが、街の人々の話ではニセコシスターズは正体を隠している。
「とりあえず聞き込み続行だな」
ニセコ駅に辿り着き、一旦俺は足を止め辺りを見渡す。
「募金いかがですかー!」
まず一番初めに、募金箱を持った高校生が目に留まった。募金箱には保護猫募金と書かれており、女子3人で集金をしているようだ。
「金あったかな…」
俺は荷物の中を漁る。荷物の中には熊谷が入れてくれたであろう1万円札が3枚入っていた。
「…あいつ金銭感覚おかしいよ」
…俺はとりあえず、駅近くのカレー屋で飯を食うことにした。
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スープカレーを食べ店主に話を聞き外に出ると、さっきの募金の子達はベンチに座り休憩をしていた。
見ると辺りにポツポツいた人がいなくなっている。さっきまで電車でもきていたのだろうか。
「あまり寄付集まらなかったわね」
「大丈夫だよ!後1時間半後には電車来るからその時頑張ろ!」
「ゆっくりゆっくり〜がんばろ〜」
彼女達が励まし合う声が聞こえてくる。
少し離れた場所でである。つまり声がでかい。
俺は、少女達の方へと近づく。
「すまんが、ちょっといいかな」
少女達の目の前に立つ。こうやって近づいてみて反応を見るとそいつらの性格がわかる。
元気で活発な子は、目をキラキラさせている。
多分俺が募金をしようとしてる人だと思ったのだろう。多分純粋というやつだ。
またさっきまで落ち込んでいた子は、少し警戒をしている。そりゃそうだこの子が正しい。いきなり知らない人に話しかけられたのだから。
語尾に〜をつけた子は鳥と遊んでいる。マイペースなのだろう。
「猫の募金の看板を見つけてね。募金箱はどこだい?」
「募金箱ならここに!」
そう言って活発な子は膝の上に乗せていた募金箱を俺に差し出す。俺はその中に五千円札を入れた。
「はぁー!ありがとうございます!」
活発な子が勢いよく立ち上がり俺にお辞儀をする。
それをみて警戒していた子も立ち上がりお辞儀をした。マイペースな子は相変わらず鳥と遊んでいた。
「あ、あの!寄付してくれた方に保護猫の缶バッチを配っていまして!よかった、ら!?」
活発な子が歩き出そうとした瞬間、地面につまづき転びそうになる。俺はそれを片手で受け止めた。
「あっありがとうございます!」
「まあ…まず落ち着こうね」
少女は勢いよく俺にお辞儀し、缶バッチをとりに行く。俺は警戒していた子に目線をやる。
…こいつ、ずっと警戒を緩めていないのだ。
それに片手をずっとポケットに入れている。
「…懐かしいな」
「…はい?」
「俺もよくやってたよ。誰かに声をかけられた時、ポケットに入れた防犯ブザーを触りながらそいつと話すんだ。すぐに逃げられるようにね」
「…」
警戒していた子がさらに俺を見てくる。
人間、警戒している人物から目を離せないものだ。
「はっはっはっ!そんな警戒しなくてもいいよ」
「いきなり現れて五千円を募金箱に入れる人を警戒しない方がおかしいじゃないですか」
「その通り、俺には君たちにやってもらいたいことがある。俺はフリーの記者でね。ニセコ町で最近起きている事を調べているんだ」
「…怪物ですか?」
「まあそれもあるけど、一番聞きたいことはそれじゃない」
「持ってきましたよー!」
活発な子が、置いてあったテーブルから缶バッチが入っているであろう段ボール箱を持ってくる。
「好きなのを一つ…いや!三つお選びください!」
「あーありがとう、どれにしよっかなー」
俺は缶バッチを選びながら、この子達の手を見た。
活発な子、慎重な子、マイペースな子、それら全てに切り傷や咬み傷、そして豆があった。
「それで、聞きたいことってなんですか」
慎重中が俺に質問をしてくる。
「ほら、巷を騒がせる魔法少女」
間違いない。
「ニセコシスターズのことを聞きたいんだよ」
こいつらがニセコシスターズだ。




