14.弱者のやさしさなど、常人の食い物にされる餌に過ぎない。
「...空がきれいだ」
上履きを乾かしながら、僕は空を見上げる。きれいな空だ。
この空の下には、醜い人間がたくさんいる。この世界は普通に縛られている。
いや、人か。人が縛られているんだ。社会だの資本主義だのに、
何故この地球の土地は一つ残らず国のものなのだろうか。なぜ人のものになってしまったのだろうか。この日本も少し前まで自然のものだったのに。
「まーた難しい顔してるね。お兄ちゃん」
妹が僕の上から見下ろしてくる。僕は妹のほっぺを思いっきりつかんでやった。
「いや、もうここにいたくないなぁって」
「私も!どこか遠くに行きたいよ」
疲れて空を見る。いつの間にか、乾かしている上履きが二つになっている。
「僕たちって誰かの幸せの犠牲にしかなれないのかなぁ」
「んー?どういうこと?お兄ちゃん」
「だって、どれだけ僕たちが頑張ったところで。誰も僕たちなんて見てくれないし、それを笑いものにしてほかの奴らが幸せになっていくだけじゃん。
そんな人のためになんで僕たちが生きなくちゃいけないのさ」
「んー!よくわかんない!」
木の隙間から太陽が差し込む。川が、きらびやかに光っている。
こんな世界は美しいのに、なんで社会だけがこんなに醜いのだろうか。
「でも、私はお兄ちゃんがいるだけで幸せだよ!こうやって魚を取ってきてくれるし!一緒にご飯を食べてくれる!そんなお兄ちゃんが大好きだから!」
「...ありがとう」
妹の言葉に、僕は泣きそうになった。けど我慢する。男は簡単に泣いちゃいけないから。
俺は、妹がいて幸せだったんだ。
「気持ち悪い」
それを
「さっさと消えろよ」
あいつらが全部
「貴方って本当に要らない子よね」
許さない。
絶対に全員殺してやる。
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太陽の光が目に差し込んでくる。今日も最悪で最低な夢を見た気がする。
「おはよう、神居崎」
ソファの横から、熊谷が俺に声をかける。俺は全力で嫌な顔をしてから、ソファから起き上がった。
「寝てるときは泣きそうな顔だったのに、今は全力で嫌な顔をするのね」
「うるせぇ、さっさと今日の予定を教えろ」
俺は、銃を背負おうとするがその瞬間に熊谷に止められ、熊のぬいぐるみのストラップを渡される。
「なんだこれ」
「位置情報が見れるやつ」
「なんでこんなもん持ってないといけない」
「予定変更よ、ニセコ町を調べておきたい。でも私は指名手配されてて動けない。だからあなたに行ってもらうの」
また理由も答えずにこいつは
「あの紅とかいう化物にあったらどうすんだ。一瞬でハチの巣だぞ」
「大丈夫、あいつのことだからもうあなたのことは追わない。それよりもニセコシスターズって言われている人たちを調べてほしい」
「...はぁ、わかったよ。それでどうやって調べる。聞き込みか?」
「とりあえずそれで、この街には3日間滞在する予定だから、その期間で情報を集めて頂戴。3日経ったらワープして蘭越町にいくわ」
「...なぜ、ニセコシスターズを調べようとする。それも予定を変更してまで」
俺は、銃に手をかける。それを見た熊谷は俺のほうへと正面へ向きなおし、俺の目を見る。
「単純よ、今街を離れるのは危険だから。あいつがいた組織には私も所属していたの、だから知ってる。あいつらがどれだけ残忍かを。
幸いニセコ町は観光地で人が多い、潜伏するのにはうってつけってわけ」
「このGPSはなんだ」
「貴方に何かあったとき、もしくは私に何かあったとき。私はワープ能力でそこに行ける。二人で合流して情報交換をしましょ」
「携帯電話でいいんじゃないのか」
「携帯電話なんて個人情報の塊でしょ。さっさと傍受されて終わり、さすがに使うわけにいかない」
「...」
まあ、筋は通っているか。だが、こいつは真実を言うが、隠し事は多い。
「...ニセコシスターズを調べろって言った理由についてまだ話していない。教えろ」
「...あなたにまだ教えていない。神の器官を出した時の霧の色が知りたいから」
「なんだそれは」
「霧の色は人の人生、定められた運命を表している。白に近づくほど栄光を、黒に近づくほど悲劇の運命をたどる。神の器官はそれに抗うための力でもある」
「...それがどうした」
「黒に近づくほど私たちの仲間になる確率が高くなる。ただそれだけ」
...なるほど、この二人で移動するにもさすがに限界がある。熊谷はそれを考えて紅を逃がしたのか。いつか仲間になるかもしれない。と
「わかった。街にはどう出ればいい」
「川を渡ってまっすぐ行ったら街があるわ。そこでまず情報収集をお願い、あと食材も買ってきてくれると嬉しいわ。お金は荷物の中に入れといたから」
「...わかった」
正直、あの一件からこいつのことが信じられない。
だが、信じる信じない以前に。今の状況がどうしようもないのは事実だ。
ならば、信じる必要などない。こいつも言っていたではないか。利用すればいいと。
「いってきます」
俺は、そう言って隠れ家を後にした。