12.人と話す才能のない人間は、幸せにはなれない。
ソファで銃を固定し、入口の方へと向ける。熊谷も銃を入口に向けて、白い霧を発生させる。
すぐにワープできるように準備をしているのだろう。
俺も、黒い霧を発生させ腕を出現させようとした瞬間だった。
ドン!という鈍い音とともにドアが蹴り飛ばされる。
俺達はできる限り入り内に向かって弾を発射させた。
「おいおい、ずいぶんな挨拶じゃねぇか。熊害ちゃん」
ドアだったところで、女性の声が響き渡る。銃弾の影響で辺りに砂煙が立ち込める。奴が俺達を認識する前に、弾を装填させた。
ドアだったところから誰かが歩いてくる。
「紅...」
「ああ、紅ちゃんだぞ。裏切ったっていうのも本当らしいな」
出てきたのは、黒髪長髪で制服を着た女性だった。
口やら耳にピアスをつけている。清楚系かと思ったが、どうやらぐれちゃった系らしい。
「...サブマシンガンか」
手には、サブマシンガンを二丁持っている。さらに腰回りにさらに二丁、奇抜なスタイルだが、馬鹿にできない。
あいつは、まだサブマシンガンを使っていない。
「あのサブマシンガンの装弾数と威力は」
「30発、近距離でテーブルを貫通させるくらいかしら、この距離だったら大丈夫だけど近づかれれば終わる」
「おっとそうはいかねぇ」
装填が終わり、ソファに向かって構える。その瞬間、紅と呼ばれた少女は俺に向かってサブマシンガンをぶっ放した。
「おいおい熊害ちゃん。いきなりぶっ放すのはいただけねぇなぁ」
「貴方だけは言える立場じゃないと思うけど」
「オレは指名手配犯を追い詰めている正義の味方だからいいんだよ」
落ち着け、二人が会話をしている今のうちに俺は状況の整理だ。
奴はドアをけり破り、この部屋に侵入。そして玄関近くで立ち止まっている。
玄関は一方通行、横に移動したときにトイレがあるだけの配置だ。
問題は、どうして玄関で立ち止まっているかだ。
奴は、ドアを蹴り破れるほどの足をしている。ならばこちらに近づいてきた方が格段に勝率が高いはず。
...待て!このままだとやばい!
「熊谷、会話をやめろ。あいつの話を無視し続けろ」
「...どういうこと?」
「あいつは俺たち二人に銃をぶっ放されたんだ。となれば当然銃声は二つ響き渡ったはずだ。あいつが会話をしているのは、お前の位置と、まだ見つかっていない仲間の位置を探っているんだ」
あいつは俺が撃とうとしたとき、熊谷に撃たれそうになったと勘違いした。熊谷の位置も完全には把握できていないんだ。
あいつ目線、仲間が何人いるかわからず、トイレや風呂場で待機している可能性もある状況、うかつには動けない。
だから入り口での待機なんだ。入口ならば、部屋全体が見えるし、一方通行だからどこから撃たれるかも判断がつく。
「俺達目線も、情報が少ない。ここはうかつに動かずにワープの準備を進めるんだ」
「ええ、だけどそれも難しいかも、能力の性質上、霧は実体化をするために一度私の後ろに集まる必要があるの。その時に位置がばれる」
「あいつは俺達がぶっ放した弾から生き残るような化物だからな...どうなるかわからない」
最悪瞬間移動とか超運動能力とかもあり得るわけだ。
そんな能力使われたら、今の俺達じゃ勝ち目はない。
俺達のアドバンテージは、相手に情報を与えていないことと、俺の能力の顕現が済んでいることだ。
あいつからは見えない位置にネクサスはもう待機させている。
「何さっきから無視してるのぉ?来ないならこっちから行くわよぉ?」
考えろ、考えろ。入口にネクサスを配置し、弾をふさぎながらテレポート...いや瞬間移動系の能力だったら補足されて終わる。
ネクサスで体をふさぎながら移動、いや!能力を捕捉されれば最悪殺される。
「本当に、気持ち悪いわねあんた。」
...あっ?
「神居崎?」
気持ち悪い。だと?あいつもか。あいつも同じか。俺達を気持ち悪いっていうのか。
「テレポートの準備を始めろ」
「え?でも」
「いいから始めろ」
いつもそうだ。あいつらは俺達を気持ち悪いと蔑む。違うだろう。
何が!気持ち悪いだ!集団でいじめて虐げて、集団に許容されたら正義だと?
お前らの方が気持ち悪いじゃないか。理解しようとせず、常識に当てはめて俺達を殺そうとしやがって!!
...落ち着け、冷静に怒り狂え。そうだよ、何を考えていたんだ。俺は逃げることばかり、違うだろ。俺は殺すんだろ。全員殺してやるんだ。
そうだ、これなら殺せる。
「ネクサス、奴を切れ」
ネクサスが入口に向かって進軍する。俺は手を陰にして後ろをついていく。
「やっぱりいたんだな!もう一人!」
手は秋葉に向かって刀を振りかざした。だが秋葉はそれを間一髪のところで左に回避する。と同時に回避した方向にハンドガンをぶっ放した。
「あっぶね!何すんだよお兄さん、もっと楽しもうぜ」
発射したのは三発、それらすべてを最小限の動きで交わされた。
「反射神経の増加...だけじゃないな。運動能力の向上か」
「そう、正解。貴方のそれは何、刀?神の器官が物を持っているなんて初めて見たわ」
俺は、一歩下がろうとするが、それと同時に俺の目と鼻の先まで秋葉は移動する。
「残念でしたぁ、それじゃさよならぁ...!?」
何かを構えようとした手を引っ込め、彼女は後ろに下がる。
玄関を挟んだ廊下の場所には、彼女のサブマシンガンが無造作に落ちていた。
「...何が、いや縁切りの能力か」
「思いだしたんだよ。別に縁を切るのは人だけじゃないってな。部屋とサブマシンガンの縁を切れば、サブマシンガンは一時的に部屋の外に移動する。それじゃばいばい」
「!?」
ハンドガンを5発それぞれ頭、心臓、足に向けて放つ。彼女は人間技じゃない動きでそれらを躱し、サブマシンガンのほうへと避難する。
「...あんた何者?」
「お前に教える必要があるのか?俺達を馬鹿にしたお前に!!」
俺はハンドガンの弾がなくなるまで、奴に向かってぶっ放した。
それらはすべてかわされる。
「適当に撃っても当たるわけないだろぉ!」
「適当ならば、ネクサス、斬れ」
空中に避難した瞬間、ネクサスを奴の懐に潜らせ、ネクサスは刀を振りかざす。空中に避難した彼女は長物を躱せるわけもなく、派手に切られた。
「...何が、いや何を切った!」
「神様との縁、大きすぎて一瞬しか切れないが、俺がお前の斬る時間はある!」
俺は、懐からずっと使っていたナイフを取り出し、彼女に振りおろす。
彼女に先ほどまでの運動神経はなく、ただ腕で顔を隠す。
俺は彼女の心臓を切りつけたと思った。その瞬間だった。
白い霧が俺を包む。
「なっ!?熊谷」
視界が霧の中へと消えていく。振り下ろされたナイフがかすりもせずに落下する。俺はあと一歩のところで、白い霧へと連れ去られた。
「熊谷!なにをして」
後ろを見る。そこにはただ悲しそうに、俺を見る熊谷の姿があった。