1.みんな、人生が辛いのは当たり前といった。
世界では、人生が辛いことは当たり前なのだという。
人生とはつらいことの連続であり、幸せというのは一瞬の出来事らしい。
だから甘えを言ってはいけないし、愚痴も言ってはいけない。
それが当たり前らしい。
だから、俺の妹が自殺したのも、辛い出来事の一つだったのだろう。
目の前でこうやって火葬されていくのも、辛いことの一つでしかないのだろう。
こういう時、泣いてもいけないんだろう。甘えてはいけないのだろう。と
燃える炎を見ながら、俺は一人でそう考えていた。
妹と俺は、ごく普通の家庭で育った。母がヒステリックに叫び、父が不倫をする。
俺はこの場所を、最悪な場所だと思っていた。だが、この環境も世間から見れば当たり前の環境で、
甘えてはいけない環境だったらしい。
だから、俺は泣かなかった。ただ一人の妹を守るために必死に戦った。
中学生を卒業した頃、俺は家をすぐ出た。妹もつれていこうとしたが、母が警察に通報し、俺は接近禁止命令を食らってしまった。
だから、俺は必死に働いた。必死に、妹だけには嫌な思いはさせたくなかった。
妹には、高校に行ってほしかった。あいつには幸せになってほしかった。
だが、世間では能力がないものは幸せになってはいけないらしい。
妹は、昔俺と一緒に遊んだ公園で、首を吊って亡くなっていた。
妹は体を洗っていなかったから、その臭さと、言動が不可解で、クラスから無視をされていたらしい。
ずっと何を話しかけられても、無視、完全にいないものとして扱われた。
だが、世間ではムカつく奴や意味の分からない奴は、どんな扱いをしてもいいらしい。
無視をしても、存在をなかったことにしても、みんなで笑ってもいいらしい。
妹の自殺も、教師はへらへらとして、自分たちには「非がない、関与していない」と事件をもみ消した。
当のいじめっ子たちも、いじめではなくむかつくから相手にしてなかっただけ、らしい。
許せなかった。
存在を否定する奴らも、へらへらと笑う先生たちも、ムカついたり、クズなら何をしてもいいと言っている奴らも、絶対に許せなかった。
だから、俺は彼らを一人一人殺していった。
あいつらを無視した生徒も、彼らの主犯格も、それを見て見ぬふりをしているやつらも、全員殺していった。
今、俺は妹が燃やされている炎を見ている。彼らがここに運ばれてくるのも時間の問題だろう。
俺は、妹を笑った生徒8名、見て見ぬふりをした同じクラスの生徒23名、へらへらと笑った先生を3名、きっちりと殺してやった。
「...神居崎 俊三だな」
後ろから声が聞こえる。刑事の声だろう。
「お前に逮捕状が出ている。罪状は殺人、生徒12名、先生3名、行方不明になっている生徒の居場所も吐いてもらうぞ」
「...妹の骨を埋葬させてほしい」
「だめだ、今すぐ来てもらう。」
「刑事さん、妹はな幸せになりたかっただけなんだよ。あいつ、一人の時はずっと泣いていて、でも俺が来たらぱっと泣き止んで笑顔を見せてくれるんだ。そんなやつなんだよ」
「...」
「それがさ、理解できないってだけで存在を否定されるんだぜ、なかったことにされるんだぜ、うざいってだけできもいってだけで、なんでこんな扱いをうけなくちゃいけないんだよ。なあ」
「...お前は間違っている。そんなことをしてはだめだったんだ」
「あいつが書いてくれた手紙にさ、空を見ていたら幸せな気持ちになれるって書いてあるんだよ。なあ、あいつは自分なりの幸せを見つけていたよ。でもさ、そんな幸せ、死んでからでもいくらでも見れるだろ?なあ、妹は幸せになるために死んだんだよ。
なあ!これが普通なのかよ!これが一般の人間の奴らの気持ちなのか!!あいつら自分なりの幸せを見つけろって言い続けて!!何が自分なりの幸せだ!!!空なんて!!死んでからでもいくらでも見れるんだよ!!!生きている幸せを求めることは!!!そんなにダメなことなのかよ!!!」
「殺してはだめだったんだよ」
「あいつらムカつくからって!!!何してもいいと思ってやがる!!!これが事実なんだよ!!!!お前らがやるべきは!!!俺達ムカつく奴を除外することじゃなくて!!!その自分の醜い心と向き合うことだろうが!!!」
「...気持ちは分かる、だがな」
「はは、気持ちは分かるだって?俺はこれからこの世界を壊す。日本を、日本人を完全に抹殺する。邪魔はさせない。日本人なんて言う、クズで傲慢で、どうしようもない民族を皆殺しにする」
「...」
「邪魔するなら、殺す」
「A班、C班、取り押さえろ」
なんて、担架を切ってみたのはいいが、今出てきた警察官数十人に取り押さえられたら、一人を負傷させるくらいしかできることはない。
だが、それでも俺はあがいて、あがいて、警察官に立ち向かう。
俺は、日本を日本人を殺しつくす。妹のようなやつを生まないために、絶対に日本人を許してはいけない。必ず殺しつくす。
そう、決死の覚悟で、取り囲んできた警察官数十人に切りかかろうとした、その時だった。
「な、なんだ!?」
警察官の一人が、そう叫んだ。
遠くから、煙のようなものが近づいてきた。その煙は白く、まるで霧のように白く、濃く、ただ確実に僕らのほうへと向かってきていた。
その霧に警察官の一人が触れたとき、警察官はまるで最初からいなかったかのように、一瞬で消えた。
その霧は、猛スピードでほかの警察官を飲み込み、消していった。
「お久しぶりね。神居崎くん」
すべての警察官を飲み込んだ時、霧の奥底から声が聞こえた。聞き覚えのあり、そして嫌悪感を感じる声だった。
「ずっとあなたに会いたかったわ」
「...殺す」
それは、中学生時代に俺を虐めていた女、熊谷彩だった。