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9話・私が人魚の血を引いている?



「どうだ、アコダ。私の言った通りだっただろう?」

「信じがたいが、どうやらその通りだったようだ」



 ノアールが拾い上げたものを興奮気味にアコダさんに見せ、アコダは渋い顔をしながらも頷いていた。二人にしか分からない話をされて、その場に突っ立っているしかなかった私に、ノアールが荒唐無稽なことを言い出した。


「きみは人魚の血を引いている」

「はあ?」


 ノアールは夢物語を信じる人なのだろうか? 私が人魚? 何を根拠に?


「この真珠はね、いま、きみが流した涙が変化したものだ。人魚は月夜の晩に泣くと、その涙が真珠になる」

「うそ。何かのトリックなのでしょう? 人魚なんて童話の産物で、実際にいるわけがないじゃないですか? 私の涙が真珠に変化したってあり得ない。私を騙そうとしていますね?」

「人魚は存在する。きみを騙しても私には何の得もないよ」

「サーラさんは、何も教えられずに育てられてきたのだろう? だから人間だと思い込んでいる。あんたの流した涙が砂に触れた瞬間、真珠の粒になるのをこの目で見た」


 ノアールは首を振る。アコダも自分の目を人差し指で指しながら言った。ノアールの表情や、アコダの口調から、嘘は感じ取れなかった。


「きみが人魚ではないかと思ったのは、初めて会った日の晩だった。きみは悲しんで涙を流していた。その涙が真珠に変化するのを目撃した。きみは涙の異変に気が付いてはいなかったみたいだけど……」


 そう言いながらノアールは懐からハンカチに包まれた物を開いて見せた。そこには二粒の真珠があった。その真珠は発光していた。


「月華真珠?」


 どうしてそれを彼が? 月華真珠は非常に珍しい真珠で、冬の寒い日に空から降ってくる雪のように真っ白でありながら、月夜の晩のように淡い青色の光に包まれた光沢のある真珠だ。その真珠はボーモン子爵家で管理されている。領民たちは本物を目にする機会はないけれど、私はそれで作ったブローチやネックレスで、身を飾り立てていたマリアナが自慢していたので知っていた。



「これはきみが私と初めて会った時に、流した涙が真珠となったものだ。きみを一度、家まで運んでから浜辺に来て拾っておいた。そしてこっちがたった今、きみが流した涙の変化した物」



 ハンカチの上に乗った二粒に、彼は今拾い上げた二粒を添えた。直径8ミリほどの大きさの真珠は、どれも遜色のない輝きを発していた。ここまできてようやく彼の意図が分かった気がした。彼が私を泣かせようとしたのは、私が流した涙が真珠になるかどうか知りたかったと言うことなのだろう。その結果は、私自身も信じられないけど。

だって私は今まで一度も海で泳いだこともないし、人魚のような尾びれもない。何か特異な力を持つでもない。それなのに人魚の血を引くと言われても──。



「このことから私はある仮説を立てた。ボーモン子爵家で取り扱っている月華真珠は、人魚の涙なのではないかと」

「……! でも、私はごくごく普通の人間……」

「きみの母親はボーモン子爵の娘さんの乳母を務めていたよね?」

「ええ」


ノアールは、未だに自分の身に起きた不可解な出来事を信じられない私の言葉を遮った。彼にはフィエロに振られた一件を話した時に、母のことを話してある。シイラ小母さんとの会話から、母のクラリーがどのような人物が知っているはずだ。


「母は人魚ではないですよ」

「私もそう思う」

「それなら何故? もしかして私の父親が──?」


母のクラリーが人魚のはずはないとノアールも認めた。そうなると可能性があるのは父の方だ。父はこの国の者ではなかった。元は旅人だったと聞く。その父がなぜか母と結婚することになり、祖母を始め、近所の人達は相当驚いたと言っていた。


「きみの父親はここの領地の人?」

「いいえ。ここの国の人ではなくて、遠い国から来たようなことを言っていました。もともと旅人だったそうです。そして母と婚礼もせずに入籍したから、ここの人達は驚いたようです」


「ふうん。仕事はなにを?」


「ここには港があるので、そこで朝から晩まで荷運びをしていましたよ。力持ちで何でも軽々と運んでくれるから、皆さん父を頼りにしていて、そんな力持ちの父親が私にとって自慢の父でした」


「特徴は? きみに似ている?」


「父は黒髪に紫色の瞳を持っていました。亡くなった祖母やここのご近所さん達には、父にそっくりだと言われています」


ノアールとアコダは、顔を見合わせた。アコダが確認するように聞いてきた。



「その、きみの父親の名前は?」

「ジグルドです。家名はあるのか分からないけど、そう名乗っていました」

「ジグルド?! やはりそうだったのか。道理できみに会った時、初めて会った気がしなかったわけだ。きみはジグルドによく似ている」

「……?」


 父の名を告げると、アコダは一瞬、目を見張った後に破顔した。


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