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7話・私の仕事の助手をしないか?



「それにしてもクラリーはどこへ行ったんだか。でも、サーラちゃん。今後どうする? 職場はああなってしまったし、仕事は無くなってしまっただろう? この家に帰ってきたらどうだい?」

「そうですね。今すぐにどうするとは決められないけど、この家を空き家にしているのも心配だったし、それも良いかもしれない」


 今まで休日にこの家に帰ってきては、掃除や庭掃除をしてはいたけど、このままにはしておけないとは思っていた。無人の家が荒らされることなく、10年前の姿を維持できているのはシイラ小母さん初め、近所の人達のおかげだ。

 子供の頃は拙い私を見かねてか、庭の雑草を抜いていると小父さん達が誰かしら手伝ってくれたし、洗い物をしていると小母さん達が集まってきて手伝ってくれた。思い出の多い我が家を手放す事が出来ずにいたのは、家族のように見守ってくれた近所の人達との交流を切りたくなかったからだ。


「サーラちゃん。じゃあ、あたしはこれから家に帰って一眠りしてくるよ。ノアールさん。旦那の分もこのスープ頂いてもいいかね?」

「どうぞ。どうぞ」

「小母さん。今日は遅くまでごめんなさい」

「気にしなくていいよ。サーラちゃんは身内みたいなもんだ。何かあったら連絡しておいで」


 小母さんはあくびを漏らしながら、ほくほく顔で小鍋にスープをもらい、喜んで帰って行った。私はノアールに感謝した。


「ノアールさん。色々とありがとうございました。あなたのおかげで私は馬鹿なことをしないですみました。私はどうかしていました。それに家まで運んで頂いた上に食事まで作って頂いて……。重かったですよね?」

「きみが分かってくれたならいい。きみは軽すぎるな。少し太った方がいいと思う」



 いくら気を失っていた間の事とはいえ、ノアールのような身分あるお方に運んでもらったことは申し訳なく思った。身分あるお方は傅かれるのが当然で、移動の際は馬車で移動しているのが常なのだ。屋敷からこの家まで距離はあるし、その中自分を抱いて歩くのは相当、大変だったと思う。自分は重かっただろうに……と、思っているとノアールは事も無げに言った。そしてあることを提案してきた。



「それよりきみは今後、どうする? お屋敷の方は落ち着くまで色々と時間がかかりそうだ。シイラさんとの話を聞いていて思ったことだけど、良かったら私の仕事の助手をしないか?」

「助手?」

「ああ。私の仕事の補佐をしてもらうことになる」


 お屋敷の方もあんなことになり、当主であるボーモン子爵が行方不明で見通しが立たない。お屋敷で働いている時に貯金はしてきた。次の就職先を見つけるまでの間、貯金を切り崩していけば何とかなるだろうとは思ったが、ノアールからの提案は魅力的に感じられた。


「いいのですか? そうして頂けるとありがたいですけど……。わたしのようなものでいいのでしょうか?」


 ノアールはお貴族さまだ。私のような者に声をかけても得することはなさそうだ。彼は会ったばかりの私を気遣うくらい優しい人だから、祖母や父を亡くし、唯一の肉親である母親に疎まれ、恋人には裏切られ、頼みとなる仕事先まで失った。そんな私に同情したのかもしれない。


「もともと誰かを雇うつもりではいた。きみに会ってきみを知ったら、きみが最適な気がしてね。強要はしないよ。きみが嫌なようなら無理強いはしたくない」

「仕事の内容は?」

「そうだな、探偵業みたいなものだ。ここにも依頼を受けてやってきた」

「ノアールさんが探偵? お貴族さまが探偵をしているなんて……」


 意外な職種で驚いた。ノアールみたいな人ならば貿易会社の一つや、二つ持っていておかしくないように思えるのだけど。

私の反応が思わしくないように思えたのか、ノアールが聞いてきた。


「どうかな? 嫌なら断ってくれても構わない」

「いえ。嫌じゃないです。探偵の仕事なんてしたことがないので不安です」

「仕事は徐々に覚えて行けばいいから。初めのうちは指導者もつけるし、きみ一人で仕事はさせないよ。給与はひと月25ルゲンではどうかな?」

「25ルゲン?!」

「少ないかな? ではもっと出そう」


 25ルゲンももらえるとは思わなくて驚いた。私はお屋敷で、月15ルゲンで働いていた。他の使用人達はどうか分からない。使用人達から給与に対する不満は耳にしたことがないから、皆は自分よりも多く貰っていたのだとは思う。


「そんなに頂けるとは思わなくて驚きました」

「お屋敷の使用人ならば、初任給が大体そのようなものだと思っていたが……? あとは働きに応じて特別手当もつけるし、給与の昇給もある。どうかな?」


 恐らくノアールの住む屋敷での話だろう。彼のような優しい主人のもとで仕える使用人達が羨ましく思えた。仕事も初めての職種だけど、やりがいがありそうだ。私は彼の下で働きたいと思った。


「よろしくお願い致します。さっそく明日からでも構いません」

「そうかい? じゃあ、きみも色々あって疲れているだろうから今晩はゆっくり体を休めて、明日、日が暮れてから浜辺に来てくれ。そこで待っている」

 

 食い気味に言ったせいか、ノアールは驚いたようだったけど、すぐに採用が決まった。探偵業なんて初めてでどうしたらいいか分からないけど、ノアールについて行けば何も問題ないだろうと、この時の私は割と物事を楽観的に考えていた。なぜ、日暮れに呼び出されたか不審にも思わずに。

 


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