45話・ペガサス歌劇団
「さあ。一雨来るらしいから、さっさと取り込むぞ」
「あ、はい」
クロスに急かされて、慌てて洗濯物の存在を思い出した。メーラは行ってしまったが、クロスはその場に残り、洗濯物を取り込むのを手伝ってくれた。最後の洗濯物を手にした時、ポツポツと頬に雫が当たった。
「どうして……、どうしてクロスさん達は、僕に良くしてくれるのですか?」
面倒見の良いクロスに、心の中で思っていたことを問いかけていた。
「この歌劇団は脛に傷を持つ者が集まっている。俺たちには子供がいた。でも、自分達の都合で手放した。その子供への贖罪のような意味もある」
クロスたちに子供がいた? 初耳で驚いてしまった。仲が良い二人なので、籍は入れなくとも事実婚状態にあるのはおかしくないと思ってはいた。だが、その子供を手放したと言うのはどういうことだろう? 若い頃の話だろうか? 歌劇団を立ち上げたばかりで子供を養う状態になかった?
「贖罪?」
「ああ。俺たちは深い業を背負っている」
「でも……、それには事情があったからでしょう?」
あまり深く立ち入ってはいけないような気がするが、子供を手放したと聞いて何かが引っ掛かった。この歌劇団は裏稼業も行っている。実はこの歌劇団のスポンサーは、この国で一番高貴なお方。そのお方のお気に入りの歌劇団として注目を浴びる一方で、その高貴なお方から命じられて手を汚すこともある。誰かに教えられたわけではないが、彼らと生活をしていく上で何となく察していた。
──だから子供を手放した? 子供に害が及ばないように?
「女王陛下のお気に入りの歌劇団とはいえ、ここは小さな劇団だからな。芝居だけで劇団を回していくのには心もとない」
裏稼業で得た収益で、ここでの生活を賄っているというクロスの発言には間違いがない。ノヴァが裏稼業に気が付いたのも、帳簿も任されるようになってきていたからだ。メーラたちが仕事を請け負った翌日には、多額の報奨金らしきものが入ってきていた。
「物事には裏と表がある。我々黒のペガサスは、金のクリュサオルの為に存在している。そのうち、おまえにもそれが分かるようになってくるさ」
「金のクリュサオル? クリュサオルって女王陛下直属の捜査官の?」
ノヴァも話には聞いたことがあった。クリュサオルという女王陛下の直属の捜査官の話を。そのクリュサオルと、このペガサス歌劇団は関係していると聞き驚いた。しかも、裏の仕事を請け負う時は、黒のペガサスと名乗っているらしい。
「金のクリュサオルと、黒のペガサスは二つで一つ」
「つまり表向きこの国の法で裁くのはクリュサオルで、それでは済まなかった者は黒のペガサスによって……」
粛清? 処罰される? 口に出さずに目線で問えば、頷きが返ってきた。クロスは肩を叩いてその場から去った。ノヴァは思った。ひょっとして自分も対象者だったのではないかと。
もしも、そうならば自分は、何か大事なものを失ってしまった気がして仕方なかった。
「なあ、あいつは気が付いたと思うか?」
「さあね。でも、あなたは見捨てられないのでしょう?」
クロスは木陰から出て来たメーラを見て、苦笑を浮かべた。メーラは仕方ない人ね。と、微笑む。
「あなたってお節介よね。彼に色々と思うところはあるでしょうに」
「何故だろうな。あいつを見ていると放っておけない気になる」
「昔のあなたに似ているのかもね」
「そうか? 全然似ていないと思うぞ」
クロスは渋面を作った。メーラは笑った。




