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37話・国王直属捜査官とはとんでもない部署のようです



「いつかは独り立ちしなくてはと思っていましたし、いつまでも小父さんや小母さん達の、お世話になりっぱなしではいられませんでしたから」


 馴染んだ場所からの旅立ちは少し寂しいものもあったが、私は首を振った。いつかはここを出る日が来る。それが早いか、遅いかの問題だ。


「私、楽しみです。生まれてからここ以外の場所を知る機会がなかったから」

「王都はこことは違って人が多いから、初めはそれに驚くかもな」


 窓の外を見ると、曇り空だった。まるで私のすっきりしない気持ちを表しているかのように。私は頭を振った。このような気持ちでいては、目の前のノアールに失礼だ。

 王都までの道のりは長い。これから私は王都に住まいを構えると言うノアールのもとでお世話になる。私はノアールが国王直属捜査官クリュサオルとは知らなかった。彼の誘いで彼の仕事の助手をすることになったが、果たしてあれで仕事になったのかは微妙なところだ。


 ノアールは陛下から命じられてボーモン子爵家を探っていたらしく、後始末を終えた後、一緒に来るか聞いてきた。アコダもこのまま姪の私を無人の家に置いておきたくないと心配するし、ノアールの「良かったら私達と一緒に来ないか?」のお誘いに乗った形だ。


 ガラガラと音を立てて馬車は進む。馬車の揺れに身を任せながら、私は気になってはいたものの、事の収集にあたり忙しそうにしていた彼を前にして、今まで聞けなかったことを聞くことにした。



「ボーモン子爵家の件ですが、拉致した者達について、詳しい素性は報告に挙げているのですか?」

「陛下には伝えてあるよ。彼らが人魚だってことは公に出来ないから、人魚を捕らえたとするよりは、拉致した者達をそこで労働させていたことになっている」

「陛下は人魚を信じて下さるのですか?」



 自分で聞いていて何だが、私は10年前に出会っていたシエン達のことがなければ、ずっと人魚とは伝説上の生き物であると思い込んでいた。他の人達も実際に目にすることがなければ、信じられないと思う。



「信じているよ。人外の生物のこともね。だから国王直属捜査官クリュサオルが出来たようなものだ」

「クリュサオルって、国王直属の文官なのでしょう? 以前、使用人達の噂話で聞いたのは、ある領地で不作が続き、領民達は食べる物にも困った状態にあったのをクリュサオルが来て、聞き取り調査をしたことで領主の横領が発覚したって。それで速やかに領主交代となって、その後はその領地も潤い、領民はクリュサオルに感謝しているって聞きました」



「ああ。それはラミアの信者だった領主のことか。あそこは随分と前から行方知れずの子供たちが大勢いて、なかなか帰って来ないと上申書があげられていてね、陛下から真相を調べてくるように命が下った。行ってみたら領地は荒れ果てていて、ラミアに洗脳された領主が彼女の言いなりになっていて、領民に多額の税をかけて貢ぐ上に、子供を食す彼女の為に領民の子を攫い捧げていた。真相を明らかにすれば領民は恐れて出て行くことになるし、ラミア退治をした後は、その領地は不作続きで横領まみれだったと言うことにして、領主の一族でも優秀な者に後を継がせたよ」



「ラミアって?」

「上半身が女性で下半身が蛇の魔物のことだよ」

「……!」


 ノアールからとんでもない話が飛び出してきてゾッとした。国王直属捜査官ってもしや危険な部署なのでは? だから竜人であるアコダが秘書兼、護衛として彼に付き添っているのかも。そこに新たに彼らの仲間として加わった形の自分。この先、やっていけるのかと不安になってくる。


「国王直属捜査官とは、公に出来ない秘密の捜査を行っている。ま、それに時々、人外の者の関与があったりするけどね」


ノアールは話題を変えるように、私の膝の上の編み籠に目を止めた。


「それは?」

「ああ。これはシイラ小母さんが持たせてくれたんです。お腹がすいたらみんなで食べなさいって。中身はエッグタルトですよ」

「へぇ。美味しそうだ。卵料理やお菓子には目がないんだ」


 嬉しそうに微笑むノアールさんは、少年のようだった。彼と目が合い、何となく気恥ずかしく思われて窓の外へ目をやると、嘆きの塔が遠くに見えた。あの日のことを思うと胸が痛む。膝をついて深く嘆く彼が忘れられないのだ。あの時、アコダに促され先に返されていた私は、その後、彼らの間でどんな話がされていたか分からないでいた。



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