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33話・あなたに会いたくて



 三人にはそれぞれ人間になり替わった事情があった。シエンの兄は防ぎきれなかった事故のようなもので、それを目撃しショックのあまり兄を化け物呼ばわりされて、衝動的に相手を刺してなり替わったシエン。カルラは母を刺したことについてその理由を語らなかったけど、家族二人が人間になり替わってしまったことで、人魚としてこれから生きていくのを諦めてしまったようにも思えた。


それでも──と、思ってしまう。


 シエンやカルラは、長いこと囚われの身となっていた生活から逃れて国元へ帰れたかもしれないのに、何故その道を選ばなかったのかと。


「どうして逃げなかったの?」


心無い言葉をかけてしまったと気が付いたのは、シエンと目が合った時だった。彼女は辛そうな顔をしていた。



──彼女達は逃げなかったのではない。逃げられなかったのだ。



 シエンの兄が助けに来てくれた時まで、彼女達は逃げることを考えてはいたと思う。それが意図せずに兄が「あの男」を刺し、憎き「あの男」の姿になってしまった。それを見た二人は兄を残して自分達だけ逃げることは考えられなかったのだと思う。

 別邸での彼らは大層、仲が良かった。相手のことを思いやっていた。ごめんなさいと言いかけた時、シエラから思いがけない言葉が返ってきた。




「サーラ。あなたに会いたかったからよ」

「わたしに?」


 彼女は頷き、問いかけてきた。


「私のこと忘れてしまった? 今はマリアナの姿をしているから想像もつかないかも知れないけど、10年前、あなたと私はここでよく会っていたのよ」



 ここでと言うのは、この嘆きの塔のことだと言うのは分かる。10年前、ここに私は父と一緒に来ていた。ここに当時いたのは、塔の管理人であるフィロメイラさまと、囚われの人魚達。そのなかには──。

頭の中に子供の人魚が思い浮かんだ。彼女は大人の人魚に交じってたった一人だけいた。小さな人魚。



──わたしのたった一人のお友達……。たしか私は彼女のことを──。



「あなた、チイちゃんなの?」


「そうだよ。私はあなたのことをずっと待っていた」



 泣き笑いの表情で伝えてきた彼女。マリアナの顔をした彼女に、あどけない表情をしていた当時の彼女の面影が重なって見えた。



「チイちゃん。ごめんなさい。私、あなたのこと──」

「その先は言わないで。分かっている。あなたもこの10年間、辛い思いをしていたこと」



 何も言えなくなった。今更、彼女に何を言っても言い訳にしかならないような気がする。10年前、父を喪ってからその悲しみで、他のことを考える気持ちの余裕がなかった。謝っても意味がない気がした。ただ、自分のなかの罪悪感を晴らす為だけの謝罪なんて。彼女達に失礼だ。




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