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31話・10年前に起こった悲劇



「あなた方の本当の名前は?」

「わたくしはカルラ。娘はシエンと申します」

「どうしてそのようなことに?」


「きっかけは私です。10年前、私は興味本位で仲間の声が誘うこの塔に近づき牢に入ってしまい、抜け出せなくなりました。今思えばそれは人魚を呼び寄せる笛の音だったのでしょう。その私を捜しにきた母までもこの塔に囚われてしまいました」


 マリアナだった者──シエンが、ノアールに問われて話し出した。正体を明かしたせいか、一人称の「あたし」は止めたようだ。カルラも「あたくし」とは言わなかった。


「そこへあの男がやってきて悲劇が起こりました。囚われの人魚達を密かに逃がしていたフィロメイラさまを非難し、乱暴しようとしたあの男は、ジグルドさまにそれを阻止されると、逆上してサーラにナイフを突きつけました。サーラが暴れて塔内に火が付くと、人魚達はパニックに陥り、我先にと逃げ出そうとして出口に密集し、数名はなんとか逃れましたが、残りの者達は圧死しました。逃げ遅れた母と私をフィロメイラさまは助けようとして、天井から落ちてきた柱の下敷きとなり、その後駆けつけたジグルドさまと共に命を落としてしまいました」


 彼女の言うあの男とは、ボーモン子爵に違いなかった。彼女は子爵のことを忌々しそうに口にした。私が思い出した10年前のあの出来事に彼女達は関係していた。彼女達も被害者だったのだ。


「ではその後、あなた方はそのままこの塔に残されて?」


「火事が起きたので、あの男は塔をそのまま放置するわけにもいかなくなったのでしょう。様子を見に来た時、水底に隠れていた私達は助けてくれるのだと信じていました。ところが救いを求めて水面に顔を出した私達に、あの男は言いました。『家畜ごときの分際で』と。あざ笑われ、『おまえらは死ぬまでここから出られない。諦めろ』とも言われました。あの男は──鬼畜でした」


 シエンは淡々と語った。彼女の語った真実は残酷だった。ずっと彼女達は、この塔で密かに飼われていたのだ。



「でも、兄が助けに来てくれたのです。兄は婚礼の晩にあの男に連れられてここに来ました。その時、マリアナも同行していました。あの男は兄にここの秘密を明かしたのです」


シエンは一度、話を切った。ちらりと子爵を見てから話し出した。


「囚われの身となっていた私達を見て兄は激高しました。母や妹に対してどうしてそのようなことが出来るのかと。非難した兄の様子からあの男はようやく私達が何者か察したようでした。そして証拠隠滅を図ろうとしたのでしょう。海王家から持ち出した魂替(たまが)えの小刀で兄を刺そうとしました。そこで二人は揉み合いになり、兄は意図せずあの男の中に入り込むことになってしまいました」


 彼女は不本意にも兄は、あの男の体に入ってしまうことになってしまったと言った。魂替えの小刀の効果をノアールは知っていたようだ。


「海王家に伝わる魂替(たまが)えの小刀について以前、聞いた覚えがあります。確かそれで相手を刺すと、刺された相手は亡くなり、代わりにその体に自分の魂が入り込むという邪法の道具だと。現在は禁忌の秘宝として海王家で保管されていると聞いた覚えがあります。それをあなた方の言う『あの男』が盗み出したということですか?」


「はい。あの男は厳重に保管されていた秘宝を盗み出し、地上へ上がったようでした」

「そしてあなたもマリアナ嬢となり替わることになった? どうしてそんなことに?」


 彼女の兄がボーモン子爵になり替わってしまったのは不可抗力だったとしても、あなたまで他人になり替わる必要はなかったのではないかと、ノアールは言いたげだった。



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