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30話・三人は人魚?



「君を飼うだなんて……。そんなことは思っていない。今まできみに理不尽な思いを強いてきたから、せめてこれからはきみに笑っていて欲しいと思って──」


「10年前の醜悪なあなたの顔を思い出した今は、あなたの言うこと全てが信じられないわ」


「済まない。私は何も知らなかった……」


 子爵が何も知らないはずはない。国王直属の捜査員クリュサオルの手前、誤魔化しているようにしか思えなかった。


「あなたが私に接触してきたのは、私が当時のことを覚えているか探る為? 側において監視していたの? 甘い言葉をかければ懐柔できると思った? あなたって最低。非道だわ」


 非難すると、子爵はあからさまにショックを受けた様な顔をして見せた。これが演技だとしたら素晴らしいものだ。名役者と言えるだろう。




「サーラ。違うの! これには訳があるの」

「兄さん。もう止めて! あの男の振りなんてしなくていいわ」




 落胆する子爵を庇うように声が上がった。声のした方を見れば、息を切らしたクラリーとマリアナがいた。二人はずぶぬれ状態で現れた。



「母さん? マリアナ? ここまでどうやって来たの?」

「二人で泳いできたの。胸騒ぎがして落ち着かないから後を追ってきたのよ」



 母さんは何事もないように言うが、着衣のまま泳ぐなんて男性でも難しいものだ。いくら平民育ちと言っても、母の泳ぎが達者だったなんて話は聞かないし、子爵家でお姫様のように大事にされて育ったマリアナの方は、泳いだこともないはず。

その二人の髪は顔に張り付き、着ているドレスからは水が滴っている。アコダは二人に向けて手を翳した。すると見る間に二人の髪やドレスが乾いた。先ほど私をハムスター姿に変えたことや、ずぶ濡れだった彼女達をすぐに乾かしたこと等から、竜人は魔法が扱えるようだ。



「ご親切にありがとう。竜人のお方」



 母はその場でドレスを摘まんで膝を折った。上流階級貴族の子女がお辞儀するそれと似ているような気がする。綺麗な所作だった。以前、それを付け焼刃程度に学んだ頃とは段違いで、上品で洗練された振る舞いに思えた。しかもアコダの正体に気が付いている所から、只者ではない雰囲気を匂わせている。アコダも何かに気が付いたようだった。



「あなた方は何者だ?」

「さすがに竜人のお方の目は誤魔化せませんわね」

「母さん!」



 子爵が思わずと言ったように母を呼ぶ。それは子供の前で妻を母と呼ぶものとは違う気がした。ノアールは訝るように三人を見た。


「ひょっとしてあなた方は、その体の持ち主とは全くの別人なのですか?」

「はい。私達三人はセイレーン族──人魚です。この体の持ち主から体を奪いました」

「……!」


──子爵と母と、マリアナの中身が別人? しかも人魚? いつから?


 母だと思っていた人からの告白に耳を疑った。以前と違う三人の態度に、もしかしたら別人ではないかと疑ったこともあった。でも、まさかそれが人間ではなかったなんて、そこまでは考えていなかった。



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