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28話・10年前に起きた出来事



「サーラ。きみにとっては辛いことかもしれないが、ここで何があったのか話してくれないか。10年前に起きたことを教えて欲しい」


 ノアールに頷くと、私はここで起きた惨劇の日のことを打ち明けた。


「あれは10年前。父に連れられてここを訪れた日の事です。父はよく、私に言い聞かせていました。ここの嘆きの塔で見聞きしたことは、おばあちゃんにも下町のお友達や、仲の良い隣近所の小母さんや小父さん達にも誰にも言ってはいけないって」


 嘆きの塔には秘密があった。ここには数名の人間ではないけど、美しくも儚い存在の人達が暮らしていた。そこを管理していたのが人魚のメーラさまで、父は私を連れてそのメーラさまによく会いに行っていた。


「この塔には牢が幾つもあって、中に囚われの身となった人達がいました。あなた方の知る人魚です。囚われの身となった人魚はよく歌を歌っていました。故郷を偲ぶ歌だったのでしょう。嘆きにも悲しみにも受け取れる歌は、人魚達の涙を誘い、その涙が真珠となりました。牢は中央に向かってやや傾いているため、人魚が流した涙は中央に集まる仕組みになっていました。中央にうず高く積みあがっていく真珠は美しかったですが、もとは人魚の涙。彼らの悲しみや絶望が重なりあったものです。管理人さんはそれを見ていつも悲しそうにしていました」



 ちらりと子爵を窺うと、黙っていた。反論する気はなさそうだった。



「管理人さんとは?」

「人魚達が逃げ出さないように監視役をつけていたようです。その人のことを私はメーラさまと呼んでいました。父はそのメーラさまと、囚われの身となっている人魚達を密かに解放しようとしていたようです。私と訪れる度に一人ずつ逃がし続けていたようですが、ある日、突然子爵が乗り込んできました。人魚を逃がしていることがばれたようでした」



 あの日の子爵は激高していた。鞭を取り出してメーラを打とうとするくらいに。それを父が庇い猶更、怒りが膨らんだようだった。



「子爵は父と一緒にいるメーラさまのことが許せなかったようで、勝手なことをするなと怒鳴りつけていました。そして傍で震えていた私を捕まえて、喉元にナイフを突きつけました」

「どういった理由だろうと、幼い子に刃物を向けるとは屑だな」

「私はやっていない」


 アコダが吐き捨てるように言えば、ノアールも頷いた。子爵は往生際が悪く、認めようとしなかった。


「それで……、私は子爵から逃れようと暴れて、塔の蝋燭に当たりました。古い塔だったので燭台が倒れて来て周りに火が付き、驚いた子爵は私を突き飛ばして逃げ去ったのです。その後、父は小舟で私を桟橋まで送ると、一人で先にお家にお帰りと。一人では怖い。と嫌がる私に、おまえなら大丈夫だ。勇気が出るお守りをやるからと言って渡されたのが、これです」



私は首から下げていた逆鱗をノアールに見せた。



「あの時、私はここで父を再び、嘆きの塔に向かわせたらもう二度と会えないような気がして、一緒に帰ってほしかった。でも、嘆きの塔は大火事となり一部消失して……、父は亡骸となって戻ってきました」

「子爵。メーラとは何者だ?」


 ノアールはボーモン子爵をきつく問いただした。彼はそれまでの柔らかな態度から一転して、険しい態度に出た。子爵は観念したように打ち明けた。



「メーラとは愛称で、恐らく妻のフィロメイラの事でしょうね」

「貴殿の妻は静養していたと言っていたが、本当は嘆きの塔に監禁していたのか?」



 ──メーラさまが子爵の奥方さま?! 



「どうしてそのようなことを?」

「……妻には嘆きの塔の管理を任せていました」



私の知るメーラさまは人魚だった。ボーモン子爵の奥方であるはずはない。子爵は囚われの人魚達を蔑んでいた。好んで妻になどするだろうか? 即座に疑問が湧いた。



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