26話・壁から漏れている光の先へ
子爵は自分の行動が浅はかだったと、後悔しているようだ。私としては疑わしく思えてきた。
奥さまが静養していたなんて初耳だ。誰にも聞いたことがない。私がお屋敷に引き取られた頃には、母や使用人達は皆、奥さまが亡くなった者として話していた。
──子爵か、母のどちらかが嘘をついている?!
二人が話している間、アコダは壁に寄りかかっていたようだったが、不意にトントンと叩き始めた。
「どうした?」
「ちょっとここらの壁と周辺の壁の厚みが違うように感じて」
そう言いながらトントン叩き始めた。すると微妙に音の違う場所があった。
「この中に空洞らしきものを感じる」
「……! 許可する」
「えっ? 何を──」
ノアールにアコダは何か目線で訴えたのか、彼から許可を得て壁を拳で叩いて穴を開けたようだ。それに対し、止めようとしたのだろう。子爵の焦った声がした。
「光が漏れている?」
「いや。恐らく月華真珠だ」
「止めろ。見るな!」
光と聞いて、ポケットから顔を出すと、アコダの開けた穴から輝く光が見えた。そこからこちらに訴えかけてくるような声を聞いた気がした。その声は脳裏に蘇ってきた。泣き声のようでもあり、子守歌のような儚くも澄んだ歌声。
──メーラさま!
私は光の下に駆け寄りたくなった。メーラさまが生きていた?! この目で見て確認したい。
──おい、こら。待て!
アコダの制止を無視してポケットから飛び出した。月光に輝く先へと近づく為に。ところが体に異変を感じた。急に目線が高くなる。
「サーラ!?」
「サーラ。どうしてここに?」
「すまん。俺が連れてきた」
ノアールと子爵が驚いていた。アコダが謝る。皆の態度で自分の姿が戻ったことを知った。突然、この場に姿を現した私を訝るどころか、子爵はアコダに向かって怒り出した。
「貴様、サーラとはどのような関係だ?」
「俺か? 俺はサーラの父親の兄だ」
「そんなこと聞いた覚えはないぞ」
「最近、分かったことだからな」
私の背後でそのようなやり取りがあったが、気にしていられなかった。光が漏れる拳一個分の穴に私は手を入れた。
「サーラ!」
その穴の先には何か隠されていそうだった。私は10年前の記憶を探った。父と二人でここを訪れていた私は、ここの塔の管理人を名乗るメーラさまから色々な歌を教わった。その中でもこの歌はもの悲しく、歌っているうちに皆が涙したものだ。
──皆?
何かが引っ掛かる。その想いに突き動かされるようにして、その穴へと手を入れるが何も掴めない。何かが思い出せそうなのに、出来ないようなもどかしい思いがする。
「伯父さん」
「どうした?」
「ここを壊せる?」
「壊せないこともないが……」
私の願いにちらりとアコダは、子爵やノアールを伺った。ノアールは頷く。許可が下りたようだ。ノアールは国王直属の捜査官。この場では国王の次に権威がある。子爵は黙っていた。




