25話・子爵夫人は10年前に亡くなった?
「では、さっそく拝見させて頂きます」
ノアールの宣言で、レンガで一つずつ積み重ねられてきたような塔の、まずは屋上から見ていくようだ。階段でも上っているようで、カツ、カツ、カツッと三人分の靴音が塔内に響く。
──あの頃と変わっていない。
私のつぶやきを拾った伯父が、念話で聞いてきた。
──サーラはここに来たことがあるのか?
──父と通っていたことがあるのです。
──ジグルドと?
念話している私達の先で、ノアールは子爵に色々と質問しているようだ。子爵はそれに答えていた。
「現在、ここは使われていないのですね?」
「はい」
「それにしては綺麗な気がしますが? 建て替えでもなさいましたか?」
「……10年前に火事があったので……」
初めは調子よくノアールに答えていた子爵だったが、歯切れが悪くなってきた。
「火事で一部を焼失したので、そこだけ建て直したのです」
「ああ、補修ですか。しかし、国に届け出が提出されていなかったようですが?」
「それは忘れておりました。その頃、妻を亡くして気が動転していたもので──」
「奥方さまはフィロメイラさまでしたか?」
「はい。身体が弱く静養地で過ごしていたのです」
──あれ?
──どうした?
私は二人の会話を耳にして気になったことがあった。
──おかしいな。奥さまが亡くなられたのは16年前なのに。
──そうなのか?
──母さんは出産と同時に、命を落とした奥さまの代わりに、乳母としてマリアナさまを育てることになったと言って、生まれたばかりの私を父に押し付けたって、婆ちゃんが言っていた。
──何だと?
伯父は、その話に怒りを感じたようだ。ノアールの方は、子爵の発言に不信を抱いたようだ。
「そうなるとおかしいですね? 私の記憶違いかな?」
「どうかなさいましたか?」
「乳母をされていたのは、クラリー夫人でしたか?」
「はい」
「社交界で彼女の話は有名ですよ。産後、亡くなられた子爵夫人に代わり、お嬢さまを育て上げたと評判でしたから、王都にいた私の耳までその噂は聞き及んでおりますよ」
ノアールの指摘に、子爵はしばらく黙っていた後に言った。
「それは正確には違います。妻は10年前に亡くなっております。産後、寝付いたままとなり静養させていました。社交界では彼女に妻の身代わりとして同行させていたので、そこから誤解が生じたのでしょう」
「誤解ですか?」
「はい」
「妻でもない女性を同行させる。そこからして奥さまに対し、誠意が見受けられないようにも思えますが?」
「そこは妻の体調を慮るばかりに、周囲の反応など考えておりませんでした。ご指摘されるまでもなく、浅慮でした」




