24話・嘆きの塔の由来
──あいつらと一緒にいて何もなかったのか?
──うん。びっくりするぐらい、大事にしてもらっている。
──そうか。良かった。あんまりこんなことは言いたくないが、おまえの母さんはおまえのことをあまりよく思っていないようだったからな。それにしても……、随分変わったな。別人のようだ。まともに見える。
伯父は、母が憲兵を前に騒いでいた姿を覚えている。母は憲兵から逃れる為に私を犯人にしようとしていた。その態度から母は私のことをよく思っていないことをアコダは見抜いていたようだ。
──そうでしょう? わたしも驚いた。
──いつからあんな感じだ?
──留置所に入れられていた母さんを子爵と迎えに行った時には、あのしおらしい母親になっていたの。深く反省したって。
──ふ~ん。
アコダと念話していたら、目的地に着いたようだ。馬車からが勢いよく降りたようで、その振動が伝わってきた。小さい体のせいかひっくり返ってしまった。
──伯父さんっ。
抗議すると、「すまん、すまん」と、返事が返ってくるが、体を起こしてもらうことはなかった。
──しばらく船で移動になるからそのまま寝ていてくれ。
──分かった。
不貞腐れてそのままでいると、体が揺すられて上下に行ったり来たりする。気持ち悪くなりそうな気がして、何とか体を横向きにし、体を縮めて身近な布にしがみ付けば、体の揺さぶりからは逃れられた。
アコダは小舟の櫂を漕いでいるようだ。風に乗ってノアールと子爵の会話が聞こえて来た。
「巨大ですね。まるで監獄のようだ」
「外から来る方は皆、驚かれます」
「嘆きの塔には人魚伝説があるらしいとか?」
「この辺りで古くから伝わる昔話ですよ」
「どのような話ですか?」
「人魚が地上に憧れを持っていて、月夜の晩に一人の美しい人間の娘と出会い恋に落ちた。娘はこの領地を治める領主の娘だったとも、単なる村娘だったとも言われています。この話に着色を付けて、人魚はこの国のお姫様を見初めて振られるという悲しいお話もあるそうですが、ここではお互いがそれぞれの家族から交際を反対されていて、人魚は監禁され、娘の方は幼馴染との結婚を余儀なくされた。二人は味方となってくれた海鳥を介して連絡を取り合い、娘の婚儀の前日の晩に、二人はそれぞれ抜け出してこの嘆きの塔で落ちあい、ナイフで胸を突き亡くなったという悲恋話です」
私もその話は知っている。ここの領民たちは大概知っていると思う。嘆きの塔では今でも亡くなった娘が亡霊となって、彷徨っていると言われており、月夜の晩には泣き声がすると言われている。そしてその声を聞いたものは不幸になると信じられていて、子供たちは日が暮れたら不用意に嘆きの塔に近づかないようにと、大人達から注意されていた。
でも、実際は違うことを私は知っている。あの嘆きの塔にいたのは幽霊なんかじゃない。月の光を浴びたような銀髪に菫色の瞳をした、綺麗で儚い姿の女性だった。華奢で青黒いドレスを着ていたが、足が悪いのか歩みはたどたどしく感じられた。その彼女は自らをここの管理人と説明していた。
「もの悲しい話ですね。その話とこの監獄のような塔とはイメージが結びつかない」
「所詮、御伽噺ですから、信憑性は薄いですよ」
ノアールの感想に、子爵は昔話なんて事実とは無関係だと言わんばかりだった。ようやく着いたようだ。アコダの上下揺れから解放されて私はそろそろと体を起こした。
──おい、大丈夫か?
──平気。
アコダから心配するような声がかかる。頭を指で撫でられた。
──着いたから、しばらく大人しくしていてくれ。
──はーい。
今も大人しくしているけど。そう思いながらもこのような小さな体では何もできないので、されるがままだ。返事だけしておいた。
どうやら一行は嘆きの塔内部に入ったようだ。私の小さな姿では天井しか伺えないけど、潮の匂いが染みついた塔の壁の匂いは記憶していたものと同じだった。




