23話・魔法をかけられた?
─おまえは今、ハムスターの姿になっている。落ちないように気を付けてくれ
頭の中に伯父の声が聞こえてきた気がした。
──ハ、ハムスター? 何で?
─ハムスターなら鳴かないからな。
私の心の声が聞こえたように、アコダが言ってきた。どうやら私は魔法をかけられたようだ。
──おまえが話せなくても大丈夫。術をかけた側の俺との会話は出来るようになっている。
──もしかしてこれって?
──念話だ。口で話す代わりに心で話していると思ってくれ。これからあの二人と行動を共にする。
あの二人とは、ノアールと子爵のことだろう。すでに玄関前には馬車が寄せられていたようだ。母やマリアナは見送りに出ていたが、母が心配したように言っていた。
「サーラが来ていないわ。あの子を呼んで来るわ」
「母さん。あたしが行く」
「あなたは駄目よ。ぼろが出そうだもの。あたくしが行くわ」
母とマリアナは何やら揉めていた。母が私を呼びに行くと言い出し、私はそのことに気が気でなかった。私がいないと知ったら騒ぎになる。伯父のポケットの中で焦っていると、アコダは言った。
「後に残されたお嬢さまのことでしたら、少し休むとお部屋に戻られていましたよ」
「そう。疲れたのかしら?」
「疲れるようなことあった?」
私を心配する母に、マリアナが不思議そうに言う。母はマリアナを非難した。
「あなたと会ったからよ。あなたのその姿をみたら委縮してしまうわ。今まであの子は色々あり過ぎたから。いきなり距離を詰めたら驚くわ」
「だって時間がないのよ。あたしはサーラと早く仲良くなりたいの。母さんはズルい」
何の話だろう? 二人が言い合いをしている中を、しれっとして、伯父は御者台に乗り込んだ。
「じゃあ、行きますか」
「ああ。出してくれ」
ノアールに声をかけて、アコダは馬車を動かし始めた。
──伯父さん、凄い。何でもできるのね?
──まあ、仕事だからな。
私の声に、アコダは照れ隠しのように言う。私はポケットの中から立ち上がって外をちょっと覗いてみた。馬車に乗ったのはこれで二回目だ。一回目は別邸に連れられて来た時。御者台の伯父のポケットから見た風景は私が予想していたものと違った。背が足りないのもあるせいか、目に映るものが頭上へと流れていく。スピードがあるせいか、外の景色をゆっくり味わう暇もなかった。それでも鼻先をかすめる風の強さは感じた。
──落ちないようにしっかり掴んでいろよ。
──はーい。
──それにしても、おまえが子爵家の別邸にいたとは。心配したぞ。
──ごめんなさい。母さんが憲兵に連れられて行った翌日に、旦那様が訪ねて来たの。それで母さんを釈放してもらったの。
私は心配してくれた伯父に感謝しながら、ここの屋敷に連れて来られたまでのことを手短に話した。アコダは驚いていた。




