22話・何が起きたの?
「はじめまして。ボーモン子爵。前触れもなく訪れたことはお許し願いたい。それが私の仕事なので。私は国王直属の捜査官クリュサオルです」
そう言いながらノアールは身分証明書となるものを子爵に差し出した。それは金で縁取られている懐中時計で、そこには二頭のペガサスに守られた十字の盾が描かれていた。この国の民なら誰でも知っているヴィジリタス国の紋章だ。その紋章を扱えるのは陛下か、王族のみとなる。つまり彼はヴィジリタス国王の代理人だと、身元を証明していることになる。
──ノアールが国王直属の捜査官クリュサオル?
私はとんでもない人とお近づきになっていたようだ。彼の素性を知り、彼に対して今まで取ってきた態度に穴があったら入りたい気分になってきた。竜人であるアコダがなぜ、その彼と一緒に行動しているのか謎が増えたけど。
彼は華麗に一礼し、皆の目を惹きつけた。そのせいで皆が秀麗なノアールに注目していて、彼の影にひっそりと立つアコダが私に送った動きには注目してなかったようだ。
「クリュサオルが、私に何の用かな?」
「我が国では古来より、歴史的建造物は全て国の遺産にあたります。ですがその土地の所有者が何らかの使用目的で手続きをすれば、それにかかる維持費などの支払いを行うことで所有を許される。嘆きの塔は古くからある歴史的建造物のように思えますが、ボーモン子爵家が所有していることであっていますか?」
「人魚伝説がこの地に残されているぐらいですからね。歴史が古いのは確かです。先祖代々、受け継がれてきたあの塔に何か問題でも?」
ノアールは子爵に質問していく。子爵はそれがどうしたと言いたげに言葉を紡いだ。
「あの塔はボーモン子爵家が所有していることに、間違いはないですね?」
「はい」
「ではあの塔の内部をご当主立会いの下、拝見したいのですが宜しいか?」
「構いませんよ」
嘆きの塔を調べたいとノアールに言われて、眉根を寄せた子爵だったが拒むことはしなかった。相手は国王直属の部下。子爵の立場にあっても、相手は国王代理の立場。逆らうことは出来なかったようだ。
「だ、駄目よ。そんなことしたら……」
「マリアナ。お黙りなさい」
「だって、母さん──」
ノアールの求めにすんなり応じた子爵を、なぜかマリアナが止めようとする。それを母が視線で止める。マリアナは押し黙った。
「心配はいらない。この方たちと一緒に出掛けてくるよ」
「気を付けてね」
「ああ」
ノアールの後をついて行く子爵を見送るために、母とマリアナが退出した。その場に残されたのは私と伯父のアコダだった。
「伯父さん。これは?」
「悪い。今は説明している暇がない」
そう言ってアコダが手を伸ばし、私の額に触れた。すると目の前が揺らいで何だか目線が低く変わったような気がする。
「しばらくはこの姿で我慢してくれ。後で事情は説明する」
そう言ってひょいと抱き上げられ──って、どういうこと? と、思う間もなくアコダの着ているポケットに入れられた。アコダは巨人になったように大きく見えた。しかも彼の服のポケットに自分が入れられた? 何が起きたの?




