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18話・子爵の異変



「旦那さま?」

「いいのよ。好きにさせてあげて」

「母さん」


 中庭には白詰草が群生している場所があり、そこにボーモン子爵と母に散歩へと連れ出された私は、ふいに子爵がその場に身を屈めて花を摘み出したことに驚いた。少年のような義父を母は微笑ましく見ている。以前の母とは大違いだ。


 あれから母は別人のように変わった。まるで生まれ変わったみたいに。私をあからさまに嫌うことはなく、言葉も穏やかでよく話しかけてくる。以前の母を知っているだけに初めは数日ですぐに元の態度に変わるだろうと思っていたのに、母は元の態度に戻ることはなかった。優しく接してくれるようになった。


 今までの母と違うのは使用人に対しての態度もそうで、使用人を見下していたのにそのような素振りもなく、皆に気遣いを見せていた。人が変わったようなその変化には驚かされた。驚いたと言えば子爵の態度もそうだ。


 今までの子爵は使用人達を物か何かのように見ていて、自分から気さくに声をかけることもしなかった。冷たく切り離し、マリアナや母以外の者には心を開く様子もなく、実弟である男爵のことや、親族たちのことは金に群がるハエのようにしか思ってないようで、「また、金を無心に来た」と、毛嫌いしていた。人嫌いのようにも思われる子爵が破顔して花を摘む。夢でも見ているようだ。



「ほうら。出来た。これはきみにあげよう」


 そう言って別人のように優しくなった子爵が手にしたのは、白詰草で編んだ花冠だった。それを持って私の前まで来ると、頭に乗せた。


「ありがとうございます」

「サーラ。よく、似合っているわ」


 母が褒める。その瞳には邪心など感じられなかった。傍から見れば夫と娘の交流を微笑ましく思っている夫人にしか見えないだろう。


 ここに来てからすぐにお暇仕様と思っていた私なのに、屋敷を出ようとすると子爵や母に見つかり、何だかんだと気を惹くような物や食べ物につられて実行できずにいた。今日も外に出たところを中庭に散歩にでも行きましょうと、母に腕を取られて出来ずに終わってしまった。

 ここに来てから数日は過ぎているはず。ノアール達と連絡の取りようがなく気ばかりが焦る。この二人を前にしていると、逃れられないような気がした。以前は冷たい態度で支配下に置かれていた自分が、今度は過度な優しさに囲い込まれているように思えてならなかった。それでも何とかしてここから出なくてはと思いつつ、子爵と話をしてその突破口を開こうとした。




「旦那さまは手先が器用なのですね?」

「サーラには何でもしてあげたいからね。実はこっそり母さんに教わっていた」




 子爵家の当主が花冠を作るなんて珍しく思うと、気恥ずかしそうにボーモン子爵は控えめに立つ母を振り返って言った。私が母のことを「母さん」と、呼んでいるせいか、子爵も母を「母さん」と、呼び始めたようだ。そこも以前の子爵とは全く違うものを感じた。



「その旦那さまはいけないな。きみは私の娘になったのだから、お父さまと呼んでくれないと駄目だ」

「すみません。今までそう呼んでいたものですからなかなか馴染めなくて……」



 母が子爵と再婚したと言っても、私の心の中では父親はたった一人だ。今までご主人として見ていた人を父として呼ぶことに抵抗があった。



「こればかりは仕方ないですわ。慣れるのに時間がかかりますもの」



 子爵が拗ねたように言えば、母がくすりと笑った。そこには何の意図もなさそうだけど、母娘で「旦那さま」呼びはおかしいのかも知れない。これは二人の意見に合わせるべきなのかもしれない。



「まあ、ゆっくりでいいよ。私達は時間をかけて家族になって行こうよ」



 子爵は一体、どうしてしまったのだろう? 私のことなど一切、気にもかけず、マリアナさまが私を虐めようが、母がヒステリックに騒ぎ立てて私を足蹴にしても、顔色一つ変えずに黙認してきただけの人が、元から好意を抱いていたかのように接してくるなんて。優しくされればされるほど、子爵の目的が分からなくて困惑する。


 母の変わりようよりも、子爵の変化が恐ろしく思われた。何を考えているのだろう?



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