13話・きみは私の娘になる
母が留置所に連れて行かれてどうしようかと悩み、なかなか寝付かれずようやく迎えた翌朝。誰かが家のドアを叩いていた。ノアール達とは昨日のこともあり、特に会う約束はしていなかったが、心配して会いに来てくれたのだろうか? そう思いながらもドア越しに問いかけてみた。
「どなたですか?」
「私だよ。サーラ」
どこかで聞いたような声にまさかと思う。覗き穴から見た顔は現在、行方不明と思われるボーモン子爵に間違いなかった。
「きみに話がある。ここを開けてくれないかな」
用心しながらもゆっくりドアを開けると、いきなり抱き着かれた。
「きゃっ」
「良かった。無事だった」
「旦那さま?」
「あ──、済まない」
私が驚くと、ボーモン子爵は慌てて離れた。以前の子爵とは別人のように態度が違うように感じた。現れた子爵は身ぎれいな様子だった。失踪していた人物の訪問に、今までどこにいたのか気になった。
「旦那さま。お屋敷のことは──」
「ああ。知っている。全焼したそうだね」
「今までどちらに?」
「別邸にいた」
「別邸に?」
別邸と言えば、お屋敷からだいぶ離れた鬱蒼とした森の中にある。マリアナお嬢様たちが婚姻後は、ここに子爵は移り住むと聞いていたので、今後はそちらに母も一緒に行って暮すのではないかと思っていた。
「お嬢さまやフィエロ……さまは?」
「やつらのことなどどうでもいい」
「……?」
私は雇い主であるボーモン子爵とはこんなに話をしたことがない。子爵は基本、使用人と親しく話をするような人ではなく寡黙で、マリアナさまと母にしか気を許していないようなところがあった。その子爵が溺愛していた娘を切り捨てたような言い方をしたのは気になった。すると相手は、思わぬことを言い出した。
「きみは私の娘になる」
「旦那さま──?」
「さあ、行こう。サーラ。これからは私と暮らそう」
私がボーモン子爵の娘になる? 母と再婚するという意味だろうか? 子爵に腕を取られてふと、この方はいま母がいる場所を知っているのだろうか?と、思った。母はボーモン子爵とそのご令嬢殺しの件で、容疑者として憲兵に連行されている。この街の憲兵はボーモン子爵家が雇っている者達だ。子爵がこうして生きていると分かれば、母は釈放されるはずだ。
「旦那さま。私と一緒に行ってもらいたいところがあります」
「どこだね?」
「憲兵の留置所です」
「どうして?」
「母が連行されたのです。放火したと密告があったようですが、旦那さまとお嬢さまの姿が見当たらないので殺人まで疑われています。こうして旦那さまが無事だと分かれば、すぐに釈放されるでしょう。お願いします」
私には母が犯人だとは思えなかったし、死んだはずのボーモン子爵がこうして姿を現したのだから、留置所に一緒に行ってもらえば母は解放される。あんな母親でも無実の罪で囚われているとしたら、寝覚めが悪い。
「どうか旦那さま。お願いします。私と一緒に行ってください」
「分かったよ。可愛い娘の頼みだ。聞かないわけにはいかないだろう」
子爵はため息を漏らしつつ、玄関を出た。その後に続くと、ボーモン子爵家の馬車が待っていた。
「さあ、乗りなさい」
御者台には二人いて、もう一人はフードを深々と被っていた。フードを被っている者は気になったけれど、御者が御者台から降りて来て、「さあ、お手をどうぞ」と、言われた時には意識が馬車の中へと向いた。今まで孤児として屋敷では給仕仲間以外には馬鹿にされてきた。その私が御者から手を借り、馬車へ乗ることになるなんて思いもしなかったことだ。まるでお嬢さまのような扱いで、慣れないながらもその手を借りて馬車に乗り込むと、中は快適だった。
磨き上げられた窓から外を眺めているうちに、憲兵の留置所へとやってきた。留置所は街中にある。ここで待っているように言われて、馬車の中で待機していると、しばらくして母が子爵に連れられて姿を現した。母は大人しかった。子爵に黙ってついてくる。馬車に乗り込んで来ると、私の隣に腰を下ろしてきた。内心、ぎょっとした。




