12話・やったのはあの子よ!
「おまえがボーモン子爵の屋敷を放火したと密告があった。まさかボーモン子爵とそのご令嬢の姿が見えないのは──、殺人を犯したのではあるまいな?」
──母さんが放火?! 殺人?
母はボーモン子爵と、その娘のマリアナとは真の家族のように仲が良かった。その母が二人を殺害するとは信じられなかった。愕然とする私の目の前で、憲兵に捕らえられた母が最期のあがきのように抗っていた。
「そんなの嘘よ。あたしは何もしていないわ。誤解よ。放して、放してよっ」
「その女ならやりかねない」
「迷惑だ。さっさと連れて行ってくれ」
必死に訴える母の顔色が悪かった。ここでは母の評判が悪いのもあり、この場からさっさと母を連れて行けと、皆が憲兵をけしかける。
「話は事務所で聞く」
「あたしは何もしていないって言っているでしょう」
「大人しくしろっ」
母と目があった。母の目には憎悪が宿っているような気がした。
「あたしじゃないわ。やったのはあの子よ!」
母の声に皆が一斉に私を見る。いつの間にか私の傍まで来ていたアコダやノアールは、母から私を隠すように前に進み出た。すると即座に声が上がった。
「馬鹿を言うでないよ。サーラちゃんのはずがないだろう」
「自分の罪を娘に擦り付けようだなんて、あんたの性根はどこまで腐っているんだ」
「おまえのような母親を持つサーラが可哀そうだ」
「そうだ。そうだ」
シイラ小母さんや、近所に住む小父さん、小母さんが非難すると、母は憲兵に抗い進み出て言い返した。
「そんな子、あたしの子じゃない」
「いい加減にしな」
「母親だからって言っていいことと、悪いことがあるよ」
「何よ、皆であたしを責めて。事情も何も知らないくせに……!」
皆が母と言い合いをして収集が付かなくなってきた頃、町の取締役が現れて、「煩いから連れて行ってくれ」と、言ったことで、憲兵は逆らう母に縄をかけ、引きずるようにしてその場から連行して行った。母は「最後まで自分じゃない。やったのはあいつだ」と、叫びまくっていた。
母には嫌われていたけど、まさかあんなことを言われるとは思ってもなかった。かなりショックだった。周りの小父さん、小母さんが庇ってくれなかったなら、私も事情を知らない憲兵に連れて行かれたことだろう。シイラ小母さんと、裏の家に住む小母さんが声をかけてきた。
「サーラちゃん。大丈夫かい?」
「あの女、ずうずうしいのよ。サーラちゃんが留守の間に家に入り込んでいたようだけど……」
「今朝、帰って来たの。しばらく厄介になると言って」
「嫌な思いをしなかったかい?」
「何かあったら、うちに逃げ込んできても良いからね」
「ありがとう。シイラ小母さん」
泣きそうになる私の頭を温かいものが触れていた。アコダが頭を撫でた。
「今夜は泊って行こうか?」
「平気だよ。ここにいれば皆がついているし、何かあればすぐに助けてくれる」
「無理はするなよ」
「うん」
母が騒ぎ立てるのは、ここでは初めてのことではないらしい。私が産まれる前には、何度か警備兵にお世話になったと聞かされていた。だから近所の人達は親身になって気にかけてくれる。それが有難かった。
アコダさんがいくら父の兄とは言えど、今日知り合ったばかりの人を全面的に信じるほど、私はまだ気を許してなかった。良い人だと思うけど、今日の所は大丈夫だと言うと渋々引き下がってくれた。ノアールも何か言いたそうな顔をしていたけど、二人には家まで送ってくれた礼を言って別れた。その時に、何者かがこちらを伺っていたことに、私は気が付いていなかった。




