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10話・頼もしい伯父さんができました



「俺はジグルドの兄だ。きみは俺の姪に当たる。ぜひ伯父さんと呼んでくれ」

「えっ? そうなのですか?」



 突然、アコダが伯父だと言い出して驚いた。ノアールを見れば頷かれる。アコダの言葉には嘘がないと言うことだろう。信じることにした。


「まさかこんな形でジグルドの娘に出会えるとは……」

「私も驚きました。父は他所の国から来たと言っていて、一度も家族の話をしたことがなかったので、祖母は天涯孤独の身ではないかと思っていたようです。父は祖国ではどのような感じだったのですか?」


「ジグルドは武芸に秀でていて優秀だった。ノアールの父親の下で護衛として働いていたんだが、ある日突然、出奔してしまった。後から知るところによると、恋人がいなくなってしまい、それを捜しに出たようだ」


「そうだったのですね」


 アコダから聞いた父の話は意外だった。私の知る父はお人よしで面倒見が良かった。人に好かれやすい体質で、争いごととは無縁の生活を送って来た。その父が剣を握っているところなんて一度も見たことがない。とても想像がつかなかった。


「ジグルドの失踪後は、家族皆総出であいつの行方を捜したが、なかなか見つからなかった。まさか人間界にいたとは。盲点だった。俺とあいつは腹違いの兄弟で、俺の母が病で亡くなりその後、親父が再婚して生まれたのがジグルドだ」


  

 アコダは父とは腹違いの兄弟だったらしい。どうりで初対面からして懐かしい気がしたわけだ。アコダは父とは外見は似ていないが、雰囲気が似ている。



「ジグルドがこんなに可愛い娘を……」


 アコダの目元は潤んでいた。彼を前にして言いにくいが、父のことを伝えなくてはと思った。



「父はその……、10年前に亡くなりました」

「亡くなった?」

「はい」


 アコダは、私の言葉に声を失ったようだった。失踪した弟の娘に会えて良かったと思ったら、弟は亡くなったと聞かされて、心が追い付いていないのだろう。何か言いたそうでありながら、飲み込んだように思えた。



「あの、伯父さんは人間社会でと言いましたが、それって……?」

「俺は、きみの父親もそうだが人間ではない」


「……!」


「竜人だよ。竜人は普段人の姿で暮らしているが、緊急時や何かあった時には竜の姿を取ることがある」

「うそ……。竜人?」

「きみからはジグルドの匂いがしていた。生前、彼から何か託されてなかったか?」



 そう言われて私は、首から下げている革紐の存在を思い出した。それには10年前のあの日、父から貰った黒い石の破片がついている。それを外してアコダに見せた。



「これはジグルドの逆鱗だ」

「逆鱗?」

「竜人には逆鱗と言って心臓部に近い部分に一枚だけ、鱗の並びが逆さになっているものが出来る。本来は伴侶に渡す物だがジグルドの場合、自分の死を覚悟して娘のきみに託したのだろうな」

「父さん……」



 ふいに父の姿が思い浮かび、アコダが返してきた革紐をぎゅっと握りしめた。父から渡されたときは、守り石のようなものと思っていたが鱗だったとは。これは父の体の一部だったのだ。私は父の素性を知り、父が力持ちなのは竜人だったせいかと納得した。でも、アコダは父の死に納得がいかないようだった。


「しかし、ジグルドの奴はどうして亡くなった? あいつは頑丈で病にもかからないし、滅多なことで命を落とすとは思えないが?」


「10年前、父は嘆きの塔で起きた火事に巻き込まれて亡くなりました」

「嘆きの塔とは?」

「海の上に建っている塔です。ボーモン子爵家が所有していて、普段は関係者以外の立ち入りは禁止されています」


「立ち入りを禁止されている場所なのに、どうしてそこにジグルドが? それと火事とはそこで何が起きた?」

「……父はそこにいた管理人さんと親しくしていて、その管理人さんが火事に巻き込まれたと知り助けに向かったのです」


「管理人?」

「当時は塔の管理を任されている人がいたのです。今はもういませんが……」

 


 私の話を聞いて二人は何やら考え込んでいた。疑問を呈したのはアコダだった。



「ジグルドは恋人がいた。その相手を追って姿を眩ましたのだから、てっきり一緒になったのかと思えば違ったみたいだな」


「サーラの母親は人間だ」


「どういうことだ? この子には人魚の血も流れている。恋人との間に生まれた子ではないかと思うのに……?」



 二人は真剣に悩んでいた。私も父はジグルドと証明されて嬉しいが、その上、人魚の血を引くなんて言われて困惑している。アコダの話を聞く限りでは、父には人魚の恋人がいたようだし、私はその恋人が産んだ娘ではないのかと疑われている。もし、そうならば父は恋人とその後どうなったのだろう? 思案する私を前にアコダが言った。



「ノアール。今日はもうこれで十分だろう?」

「ああ」

「じゃあ、サーラは俺が送って行こう」


「待て。私が送っていく」

「何故?」


「何故って、お前は私の護衛だろうが。その任務も果たさないでどうする?」

「いや、だってお前はひつ──」

「これは主人命令だ」

「はいはい。分かりましたよ」



 アコダが私を家まで送ると言ったのに対し、ノアールは良い顔をしなかった。彼の言う通り、自分の護衛のいくら血縁者が現れたからと言っても、主人よりもそちらを優先するのはおかしいかもしれない。でも、父の兄であるアコダと出会えて私は嬉しかった。自分に頼もしい伯父さんが出来たのだ。


「さあ、帰ろう」

「はい」


 冴え冴えとした月明かりのなか、二人と帰る時間は楽しかった。


「今日は泣きたくもないのに泣かせて悪かった。今夜はゆっくり休んで」

「また、明日な」


 あっという間に家にたどり着き、名残惜しい気持ちにさせられながら二人を見送ると、ベッドに潜り込んだ。今日は色々なことがあり過ぎた。


──父が竜人で、母が人魚?


 私が母の子でないとするなら、私は誰から生まれたのだろう? 重くなる瞼に誘われて眠りにつくと懐かしい人が夢に出てきたような気がした。




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