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1話・彼と彼女の結婚式

 

 バァン!バァン!バァン!



「きれい──」

「凄い! なんて、見事な」

「さすがは真珠王。我が国ヴィジリタスが誇るボーモン子爵家だな」


「花婿殿はサバント国のゴダード伯爵家のご令息だとか?」


「ゴダート伯爵家は国一番の大きな商会を持っていて、子供たちにそれぞれ商船を持たせているらしい。花婿殿はボーモン子爵家に婿入りするから、ますますボーモン子爵家は発展するだろうよ」





 夜空に祝砲が上がる。夜空を彩る花々は、ヴィジリタス国を代表する月華真珠で身を起こした富豪ボーモン子爵の、一人娘の結婚を祝うもの。大広間では結婚披露パーティーが行われていた。天井にまで届く高窓に近づいた老若男女の着飾った人々からは、ところどころ歓声の声が上がっている。 


 その中を私、サーラは、数十名の使用人仲間と共に給仕していた。



「面白くないな。あいつはケチだ。儲かっているなら少しはこちらに便宜を図ってくれても良さそうなものなのに」


「そうよね。義兄さんは当主の仕事と、貿易の仕事と忙しいだろうから、協力するとあなたが申し出たのに、これは代々、長男が引き継いできたものだから、次男のお前には任せられない。だなんて、失礼な物言いよねぇ」


「貿易の仕事と言っても、伯父さんは亡くなった爺さんから継いだだけだろう? それなのに偉そうに。父さんが長男だったら良かったのに」




  称賛の声が上がる一方で、なかにはそれを嫉む者もいる。その代表者の筆頭はボーモン子爵の従弟であるレチノ男爵と、その家族らだ。細身で神経質そうな男爵は、男爵の体の二倍はありそうなふくよかな奥方と、奥方と似たような体系の息子を連れていた。彼らはボーモン子爵の前では嫌らしいほど媚びてくるくせに、その裏では過去の話を持ち出しグチグチ言っては、私達使用人たちにきつく当たるので嫌われていた。


 料理が並ぶテーブルの前の席を陣取った彼らとは、なるべく関わらないように避けていたというのに、考え事をしていた私は、夫人に目を付けられてしまった。


「ああ、ちょっとそこのあなた、ワインを頂戴」


「お待たせいたしました」


「ここの使用人は気が利かないわね」

「お前でいい。こちらにきて酌をしろよ」


「申し訳ありませんが、他にも仕事があるので……」

「大した仕事じゃないだろう? 俺らの機嫌を損ねない方がいいんじゃないか?」


「放してください」





 嫌な客人を前にして不快に思う気持ちはあるが、仮にも貴族家の使用人だ。顔に出るようではいけない。手にしたトレイの上のグラスはちょうど3人分。彼らに渡してさっさとその場を去ろうとしたら、レチノ男爵の息子であるラッドに腕を掴まれた。ニヤニヤと気色悪い視線を向けてくる。助けを求めようにも皆が花火を見ていてこちらには気が付く様子はない。どうしようかと思っていたら、背後から声をかけられた。



「そこのきみ。ボーモン子爵に挨拶がしたい。案内を頼めるか?」

「は、はい」



 振り返ると濃紺の髪に琥珀色の瞳を持つ若者が立っていた。見事な金糸で刺しゅうされた紺色のジュストコールを着ている。そこにいるだけで威厳を感じさせる態度から高位貴族に思われた。ボーモン子爵の名前を出すということは、子爵の仕事の関係者だろうか? ラッドは慌てて私の腕を放した。



「別に俺はお前の仕事の邪魔をする気はなかったからな」

「そうよ。飲み物がなかなかこないからいけないのよ」

「さっさと行け」


 レチノ男爵達は、私から関心が失せたようにシッシと手を振った。若者の身なりからして自分達よりも身分が上の者に違いないと判断したのだろう。そこは見極めの早い一家で少し笑えた。



「ご案内致します。こちらです」



 先に立って歩き会場から出たところで、「もういいよ」と、声がかかる。レチノ男爵達の前でかけられた声よりもそれは優しく感じられた。


「あれは口実だ。きみがやつらに絡まれていたから見かねてね」

「ありがとうございます」


 

 彼は私がレチノ男爵達に絡まれているのを見て助けてくれたようだ。その気遣いに感謝した。


──見ず知らずの私の為に……? こんな人もいるんだ。


 お貴族さまが、たかが使用人の為にこのような気遣いを見せてくれるなんて。思わず涙ぐみそうになった。私がじっと見つめてしまったせいか、疑っているように思われてしまったみたいだ。彼は苦笑しながら頭を搔いた。



「私は新郎の伯父と仕事上の付き合いがあってね、彼の甥がこの地で結婚すると聞いて祝いに駆け付けた。でも、一足遅かったみたいだ」



 新郎、新婦は初夜を迎えるため、祝いの席から外れていた。祝宴は終焉に向かっている。新郎に挨拶できなかったと言いたいのだろう。


──初夜。これからあの二人は……。


そのことを考えないようにしていたというのに無理だった。胸が疼く。まだ、傷口は塞ぎ切ってないようだ。


「きみは……」

「サーラ! ここで何をしているの」

「母さ……、クラリーさま」

 

 彼は何かを言いかけたようだが、私は気にしてなかった。それよりも背後から冷や水を浴びせたような言葉に気を取られた。振り返ると不機嫌そうな顔をした母のクラリーがいた。母は私が人前で「母さん」と、呼びかけるのを嫌がる。私と母娘と思われるのを露骨に嫌っているのだ。



「お客さま。この子が何かご迷惑でもおかけしたのでしょうか?」

「いいや。ただ、案内を頼んだだけだ」


 母のいかにも私が何かしたような言い方が嫌だ。母は私のことを出来の悪い娘のように言うものだから、お嬢さまや、お嬢さまの周辺にいる侍女達は私が出来損ないだと馬鹿にしている。

 でも、食堂で働く者たちは、馬鹿だろうが、何だろうが動ければ問題ないという雰囲気で、特に何か言われるでもなく、普通に接してくれているのが救いだ。


「ではあたくしが代わりに承りましょう。この子は給仕係なので」

「いや、ボーモン子爵夫人に案内させるまでもないよ。今日は遅くなってしまったし、また後日、伺うこととしよう」

「あたくしは、マリアナさまの乳母で、別にボーモン子爵夫人などでは……」

「失礼。違いましたか? 挙式の間も子爵の隣におられたので、てっきりそうなのかと」



 ボーモン子爵夫人と呼ばれ、母はまんざらでもない笑みを浮かべた。そこに母のあざとさのようなものを感じて身震いする。若者は言った。



「きみ、忙しいなか呼び止めてしまって済まなかったね。案内はもういいから仕事に戻って良いよ」

「はい。失礼いたします」

「お目汚しをして申し訳ありません。あの子は気が利かず……」


 若者に戻って良いと言われる。軽く会釈をして母を見れば、さっさと立ち去れと睨まれた。その場に背を向けると、母が何やら若者へ私のことを悪く言っているような気がした。


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