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9話〜13話まで加筆修正しました。初投稿時から、内容が少し変わっております。

 広報誌の作成は着々と進んだ……わたしだけでやってるんだけどね。

 というのも、アンドレイってば、記事を書かせても絵を書かせても、どれもヒドい出来なんだもの。任せられるのは校正と組版の作成、あとは意見を聞くぐらいかな。執筆も編集も全部一人でやった。


 一人でやるのには限度がある。わたしはモジャ様の許可を取って、オリガの協力を仰ぐことにした。

 廃屋敷に帰って早速、オリガに提案してみたよ。


「学校もあるし、毎日は通えないかもしれないけど、どうかなぁ?」

「誘ってくれて、嬉しいんだな! 近くでジェリコ様を見れるんだな!」


 二つ返事で承諾してくれた。やったーー!!

 気持ちに呼応するかのように、暖炉の薪がパチッと()ぜる。スツールに座るわたしはテーブルに手を伸ばし、ミントキャンディを手に取った。届くところにほしいものがあるって幸せよね。たまに間違えると、大惨事が起こるけど……。

 わたしはミントキャンディの中に虫が入ってないか、媚薬の甘い香りがしないか、確認してから口に入れた。

 それにしても、オリガ……見たことがないほどハイテンションになってるね。揺り椅子をメッチャ揺らしているし、黒いローブが現れたり、消えたりを繰り返している。この子、極度の人見知りなんだけど、大丈夫だろうか……


 ……で、このハイテンションは翌朝になっても続いていた。

 出かけるまえにオリガは鏡の前で念入りにコーディネイトをしていたよ。


 てか、それ、いつもと同じ黒いローブじゃん!

 ……ううん、見た目はいつもと同じでも、よーく見ると少しちがうかも? 生地の素材が高級、なのかな? 留め具が金になっている? 傍目からは区別できない小さな違いだ。こういうのって、女の子にとっては大きな意味があるんだよね。けど、自分が透明なのに洒落込む必要ってあるのだろうか……。

 心のなかで突っ込みつつ、わたしも誘発されてお団子にカラフルなビーズチェーンを巻き付けちゃった。

 

 女の子らしくお洒落したわたしたちは、足取りも軽く廃屋敷を出た。

 騎士団に入り込むのも、気後れしなくなったよ。騎士たちにインタビューしてからは、不法侵入者を見る目ではなくなったの。


「あ、ドンチッチだ!」


 と、向こうから挨拶してきたり、しゃべりかけてくれるようになったんだ。その呼び方はやめてほしいけど。

 

 わたしとオリガは平然と正門をくぐり抜け、本部の正面玄関を通って、モジャ様の待つ執務室へと向かった。顔パス最高〜! 当然、アンドレイからもらった腕章は付けているよ。ふふふ、一回忘れたことがあるんだが、大丈夫だった。わたし、内部の関係者として完全に認知されたみたい。 


 オリガの件は事前に話しておいたから、顔合わせだけすればオッケーでしょ――わたしは高をくくっていた。

 ルンルン気分でモジャ様の前に立つ。男所帯の中では女子は優しくされるの。特にオジサマは甘々なんだよ。わたしは笑顔で挨拶した。


「で、新たに友人を広報活動に加えたいということだったが……」


 ん? モジャ様の表情が険しいぞ。デスクを挟んで腰掛けるモジャ様はしかめつらをしている。横に立つジェリコも困り顔だ。

 オリガ、見て見て! クールなジェリコが目を泳がせてるよ? これって、レアじゃない?――なんて、はしゃいでる場合じゃなかった。なんか、冷ややかな空気だよ。ひっ捕らえられて、ここに初めて連れて来られた時のことを思い出しちゃう。


 モジャ様がご機嫌斜めなのは、どうしてだろう? 昨日、オリガのことを話した時は了承してくれたのに……。わたし、何かやらかしちゃった?


 強面のモジャ様はアンドレイには「ゴラァ!」って怒るんだけど、わたしと話す時は基本クマさんなのよね。だから、今みたいに怒った顔をしていることは、めずらしいの。

 ビクついても仕方がないので、わたしはオリガを紹介することにした。


「先日、お話ししたオリガ・ヴァレリア・ブロンスキー・フォン・ケルスカーを連れてきました! なんと、あのケルスカー家の生き残りなんですよ!」

「ふざけているのか? 隣には誰もいないではないか?」

「ふふ……オリガってば、恥ずかしがり屋さんなんです。いっつも、透明なんですよ」


 わたしは笑って隣を見た。そして、固まった。

 ……ハッ!! おっしゃるとおり、隣には誰もいなかった。わざわざ着替えたオシャレなローブはいずこへ!? 屹立するローブすら消えているではないか! オリガの奴、緊張し過ぎてローブまで透明化しちゃったってこと?? それとも、完全にフェードアウトした!? 誰もいないのに紹介とかして、これじゃわたしがお馬鹿さんみたいじゃない!


「こ、こ、これはですね……」


 汗ダラダラだよ。んもぅ……オリガ、戻って来てよぅ! こうなったら、実在しようがしていまいが、いることにしてやる!!


「部屋に入る直前までローブは見えていました。緊張すると、周りの物まで透明化してしまうんです。見えないだけで、おりますのでっっ!!」

「では、そこにいるという確証は?」


 ジェリコ、鋭いこと言うのやめて……。銀の目で冷ややかに見られると、ゾクッとするよ。お怒りモードのモジャ様より怖い。どうか、お手柔らかにお願いします。


「えっと……その……」

「裸の人の寓話はご存じかい?」

「は?」


 何の話だろう? わたしを見据えるジェリコの目は怖いままだ。


「あるところに高慢な領主がいた。そこに詐欺師が現れ、賢い人にしか見えないというケルビムの羽根を織り込んだ生地を見せる。これで服を作りましょうと。馬鹿だと思われたくない領主は見えない布を見えると言い張り……」

「知ってますよ! 見えない服を着て、裸で歩く話でしょ?」

「事象だけを述べるとそうなる。だが、この話が伝えたいことは、そういうことじゃない」

「何をおっしゃりたいんです?」

「寓話の教訓とは異なるが、わたしは何の裏付けも根拠もない話は信じるに足らないと思っている」

「わたしが嘘をついているとおっしゃるんですか?」


 嘘はついてないもん! ほんとにさっきまで、オリガはここにいたんだから! ひどいよ、ジェリコ……。わたしは女の武器、“涙”を使おうとしてやめた。裸の人の寓話で、もっといい方法を思いついたのだ。覚悟しなさいよ、ジェリコ!


「わかりました。ならば、証拠を見せますよ。もし、ご納得できないようでしたら、わたしのことは解雇していただいても構いません。ですが、うまく証明できた場合はジェリコ様にも、わたしを疑ったことの埋め合わせをしていただきとう存じます」

「フッ……生意気な……いいだろう。何を埋め合わせすればいいのかな?」


 ジェリコは不敵な笑みを浮かべている。わたしのがハッタリだと思ってるな? 笑ってられるのも今のうちよ! 華麗に疑惑を晴らして、スカッとしてやるんだから。

 怒り気味だったモジャ様がわたしとジェリコの顔を交互に見て、困惑している。クマさんモードになっているね。

 ご安心ください。モジャ様。これしきの障害はたやすく乗り越えてやりますよ。広報誌は必ずや成功させてみせます!!

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