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 アンドレイとのゴタゴタのあと、レオニードが決闘代理人を連れてきた。

 そこらへんにいる騎士を適当に見繕ってくるのかと思いきや……


「アンドレイ、おまえ、また問題を起こしたのか?」

「くっそ……イヴァン、なんで?」


 なんと、騎士団のエース、金髪碧眼のイヴァンが出てきちゃったよ。イヴァンは槍使いだけど、剣も相当使えたはず。剣聖と名高いヴァレリーほどでないにしても、アンドレイが勝つのは難しいかもしれない。

 イヴァンは神妙な顔でアンドレイを見据えているね。どんな顔をしていてもイケメンだ。


「名門フォルディス家の嫡男の申し出とあらば、断るわけにはいかない。我がキンスキー家とも深い関わりがあるのでね」


 なんですと!?

 つまり、レオニードのフォルディス家とキンスキー家は仲良しこよしで、決闘代理を断れなかったってこと? レオニードのやつ、そんなコネを持ってたんなら、早く言ってほしかったよ。こっそり影から見守ったり隠し撮りしなくても、堂々と会ってしゃべれたじゃん。

 わたしは未練がましい気持ちを抱えて、イヴァンを眺めた。


 やっぱり、カッコいいね。元推しだもんね。現推しと元推しの対決を見ることになるわけか。アンドレイは推しと言っていいのか、難しい存在になりつつあるけど。


 相手がイヴァンだと知って、明らかにアンドレイはひるんでいた。いくらなんでも、騎士団のトップクラスを連れてくるとは思わなかったのだろう。

 舌打ちなんかして、戦うまえから負け犬っぽい仕草をしている。


「チッ……んじゃ、表へ出ろ!」

「戦うまえに、いきさつを教えてくれないか? レオニード卿からは、婚約者を奪われたと聞いているが……」


 その婚約者ってわたしのことです。顔が熱いよ。

 アンドレイはバカ正直に答えた。


「だいたい合ってんな? でも、奪われんのが嫌なら、粗末に扱うなって話だよ。オレは好きな女の名誉のために戦うだけだ」


 “好きな女”って、今言った。やだ、もうアンドレイってば、恥ずかしいっっ!!

 わたしは顔を覆いたくなった。さっきは思いきりビンタして、ごめんね。また、ぶん殴るかもしれない。


 下を向いたわたしの耳に、イヴァンの冷たい声が届いた。


「最低だな、おまえ? 以前から問題ばかり起こして呆れていたが、今は軽蔑している」

「軽蔑でもなんでもしやがれ! オレもテメェみたいな良い子ちゃんは嫌いだからよ?」


 売り言葉に買い言葉で、どんどん険悪な空気になっていく。


「では、遠慮なしにやらせてもらうとするか? 手加減はいっさいしない。死ぬか戦闘不能になって、自身の思い上がりを後悔するがいい」

「ケッ……カッコつけんなよ? タラシが……テメェみたいな気障(きざ)なイヤミ野郎は、徹底的に叩きのめしてやる!」


 どうしよう? 騎士団内でのアンドレイの立場が危うくなってしまう。イヴァンは真顔だよ。いつも優しい顔をしてるから、激おこだよね?

 わたしのなかで、恥より心配が勝ってしまった。


「あのぅ、横からすみません……イヴァン様、アンドレイはわたしのために戦うのです。アンドレイが負けたら、わたし……騎士団を出て行かなくては……」

「おまえは黙ってろ!」


 アンドレイに遮られて、皆まで言うことができなかった。でも、イヴァンには伝わったようだ。目が点になっている。即座に切り替え、レオニードに向き直った。


「レオニード卿、どういうことです? 今やドンチッチ嬢は、我が騎士団になくてはならぬ存在。騎士団を陰で支える女性たちからは、青い角の悪魔と慕われているほどです。彼女を騎士団から奪うという話なら、お受けすることはできません」


「ドンチッチ……」


 ごめん、イヴァン。いろいろと間違ってる。ドンチッチというのはわたしの偽名だよ。アンドレイが勝手に名付けて定着しちゃったんだ。あと、“青い角のマリヤ様”だから! 悪魔じゃないから!


 レオニードは困惑しているよ。隣にいるルチアと顔を見合わせている。あっ、腕を組んでない? アンドレイに言われて、少しは気にしたのか。今さら、手遅れだけどね。


「ドンチッチっつーのは偽名だ。本当の名前はマリヤ・ヴィシンスキー。由緒正しきヴィシンスキー家のお嬢様さ」


 アンドレイが補足してくれた。これでやっと、ドンチッチから解放される。イヴァンは青い目を見開いた。


「あの、ヴィシンスキー家の……」


 あーー、ごめんなさい、こんなんで……一応、名家の令嬢なんですよね。ほとんど魔術を使えないポンコツですけど。そこにいる、いかにも令嬢っぽい妹をご覧になれば、納得できるかと。


 わたしが騎士団で重用されていることを、レオニードは知らなかったらしい。辞めさせる気満々で来たから、困り顔になっている。


「イヴァン様、マリヤは家出をして学校へも行かず、家族の許可もなしに騎士団で働いていたのです。そのうえ、結婚前というのに悪い虫までくっつけて……。どうか、ご理解いただきたい」


 このあと、イヴァンとレオニードは押し問答を繰り返した。イヴァンはわたしを騎士団に留めたい。レオニードはきれいさっぱり、縁を切ってほしい。


 やり取りを見ていると、この二人、家同士のつながりだけで仲は良くないみたい。格式ばった敬語だし、お互い距離を保つようにしているよね。

 イヴァンはアンドレイより、レオニードに不信感を抱き始めている。わたしが家出に至った経緯や、隣にいるルチアは何者なのか――質問しては首をかしげていた。


 レオニードはいつもどおり一方的にわたしを非難して、それにルチアが加勢する。賢いイヴァンが疑問に思うのも当然だよね。魔法学校の時から、わたしへの同情票が多かったもの。

 すべてを見透かすオリガの「きひひ」という笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。


 わたしを騎士団から出て行かせる話なら、絶対に受けられないとイヴァンは言い張った。この信念を曲げないところ、素敵。


「第一、自分の婚約者を悪く言うような人は信用できません。アンドレイがドンチ……マリヤ殿の名誉を守るために戦うのも、わかる気がする」


 イヴァン様ぁーー! ありがとうございます!! さすが!

 イヤミ眼鏡レオニード、劣勢。けど、自分の蒔いた種だからね?


「しっ、しかし……家同士のつながりを無視されるおつもりですか? 今後、フォルディスとキンスキー家の付き合いは絶たれるかもしれませんよ?」


 ゲスい……。家のことを持ち出してきた。フォルディス家のほうが格上だから、親に言いつけてやる!……ってことね。卑劣〜。

 それに対し、元推し王子は、


「そうなっても、仕方のないことです。騎士には矜持がある。強きに巻かれ、弱きを助けぬようでは騎士の名がすたる」


 なにこれ? まぶしすぎだろ? こういうセリフを自然と言えちゃうイヴァンって、ヤバくない?? 見た目どおりのヒーローじゃん!

 ちょっとそこ! アンドレイ、隣で舌打ちしない!


「きひひ……」


 まあね、自分が問題の中心にいなかったら、オリガみたいにおもしろがっていたと思うよ。

 キラキラ主人公タイプのイヴァンに対し、三流悪役のレオニードは妥協せざるを得なかった。

 広報活動を辞めさせるか否かは保留にされ、ひとまずアンドレイからわたしを取り戻すという要求に変わった。


 それでも、イヴァンは気乗りしなさそうだったけど、家同士の関係云々でしぶしぶ代理の依頼を受けることになった。

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