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  は!? 決闘!?

 突然の申し出にわたしは困惑した。アンドレイも状況が呑み込めず、呆けている。

 だって、そうでしょう? 騎士が言うんならわかるんだけど、もやしっ子眼鏡と決闘は結びつかないよ? まったくちがう文化圏の生き物じゃん。


 それに、魔法と剣でどうやって戦うんだよ?

 アンドレイが刺し殺すことになっちゃうよ……いや、レオニードが火炎魔法でアンドレイを焼き殺すか。

 レオニードは殺傷力の高い炎属性魔法を得意とする。二人が決闘した場合、アンドレイはレオニードの魔法から逃げ回り、隙を見て刺し殺すしか生き残る方法はないだろうね。

 わたしのせいで、二人が殺し合うことになってしまう。そんなことは絶対に避けねば……


 わたしは絡ませる腕にギュッと力を入れた。この密着度は、アンドレイの鼓動や筋肉の質感をじかに感じられる。アンドレイは嫌がりもせず、されるがままになっていた。

 この人、女性なら誰でもオッケーなタイプでもなかったよな? 女を取っ替え引っ替えする騎士もめずらしくないというのに、浮いた噂がなかったんだよね。


 好きでもない女にくっつかれたら、「うぜぇ」とか言って拒否しそうだし、何も言わずに受け入れているってことは……これって両想い??

 ああっと、ときめいてる場合じゃない。アンドレイが死んじゃったら、元も子もないよ。


「よかろう、受けて立つ!」


 考えているうちにアンドレイが返答しちゃった。レオニードも引く気配はない。


「こちらは代理を立てさせてもらおう」


 当然のごとく言い放った。

 代理か。わたしは胸をなでおろしたけど、突っ込みたくはなったね。尊大な態度の割に意気地がないんだな? レオニードって、自分からは直接手を下さない三流悪役みたい。


「僕が勝ったら、マリヤを返してもらおう!」

「いいだろう。その代わり、負けたら二度とマリヤに近づくな!」


 おい、君ら……わたしの意志をまるきり無視するなよ。

 こうなると、自分では何もできない()弱いお姫様のようだ……。わたし、そんなイメージじゃないんだが。グルーピーに青い角のマリヤ様って崇められているんだが。


 代理人を連れてくると言ってレオニードたちが出て行ったあと、とたんに羞恥心が湧いてきた。

 軽い女だと思われたら、どうしよう? それに、多大なご迷惑をおかけしちゃったよ。わたしはアンドレイから離れ、うつむいた。


「ごっ、ごめん……わたしのせいで、戦うことになっちゃって」

「あん? これはオレが自分で決めたことだぜ? おまえが、あやまることじゃねぇよ」

「なんとか回避できない? 危険なことはやめてほしいの」


 あれまぁ……わたしったら、ヒロインチックなセリフを吐いちゃったよ。こういうセリフは、ルチア系腹黒女が似合うんだよね。ガラにもないことを言って、鳥肌が立ってしまった。


「そいつは無理だね」


 アンドレイは即答した。声には少し怒が含まれている。


「オレは騎士だからよぉ、売られたケンカは買うよ。逃げるなんて真似したら、名誉に傷がつくからな?」

「わたしはアンドレイに傷ついてほしくないの。くだらないことで命を懸けてほしくないんだよ」


 肉体の反応と反して、わたしは本心を吐露した。わたしにとっては名誉なんてどうでもいいよ。好きな人が、そばにいてくれるだけでいいの。


「くだらない? オレにとっちゃあ、重要なことなんだよ?……おい! ナメたこと抜かすと押し倒すぞ?」


 顎をくいと持ち上げられ、無理やり目を合わせられる。金の目はゾクッとするほど、荒々しい光を放っていた。


「おまえの言うくだらねぇことで命を懸けられたくなかったら、最初っから騎士なんか好きになるな!!」


 ごもっともだけど、好きな人に死んでほしくないのは当然じゃん。なんで、そんなに怒っているの? アンドレイが怖いよ。

 わたし、全然そんな気はなかったのに嗚咽してしまった。このシチュエーションで泣くのは、女の武器を行使しているかに見えるよね。卑怯だし、わたしらしくない。


 涙はあとから出てきた。それでも、アンドレイは視線を外してくれない。泣かれようが、彼の気持ちが揺らぐことはない。

 みっともない泣き顔をさらし続けたくなかったよ。けど、金縛りにあったかのごとく、動けなかった。


「オレがおまえのために戦うってことぐらいは、理解してんだよな?」


 わたしは答える代わりに瞳を揺らした。髪と同じ青色の瞳はアンドレイの金の目に刺されて、微動だにできなかったんだ。瞳を動かすのでさえ、つかの間の解放だった。だが、ふたたび金の目に縫い留められる。


「よし! じゃあ、オレが勝ったら、なんでも言うことを聞けよ? いいな?」


 ほとんど脅迫に近い形で、わたしは了承させられた。

 なんでも……って、なんだろう? 何をさせられるの? とんでもないことだったら、どうしよう??

 アンドレイは指でわたしの涙を拭い、犬歯を見せてニィッと笑った。いつものアンドレイだ。


「いいか? ()()()()だからな!」

「恥ずかしいこと……ではない?」

「あーー、それはあるかもな?」


 イヤだよ。四つん這いになって、犬の真似ぐらいならしてもいいけどさ、裸で街中を歩くとかは無理だから。


「エッチなことはダメだよ?」

「んなこと、求めねぇよ。その気になりゃぁ、今だってできんだからさ」


 アンドレイが通常モードに戻ったので、わたしは油断していた。急に引き寄せられるとは、考えもしなかった。

 お団子に手を伸ばしたかと思うと、アンドレイはむんずとそれをつかみ、わたしの頭を強く押してきた。自分の顔のほうにね。必然的に顔と顔が衝突することになる。


 わたしは強引にキスされちゃった。


 それからテーブルに押し倒された。話の流れから犯されるのかと思ったよ。突然、ケダモノ化したアンドレイに、わたしは成す(すべ)を持たない。


 「きひひ……」


 馴染みのある不気味な笑い声が聞こえなければ、本当にヤバかったかもね。

 アンドレイは動きを止め、わたしは現実に引き戻された。次に鳴り響くのは甲高い破裂音だ。

 パァンッ!!


 わたしは思いっきり、アンドレイの頬を叩いてやった。

 おいたが過ぎたんだから当たり前でしょ? 股間を蹴り上げられないだけ、ありがたく思え。


 オリガぁーーー……戻ってきてくれて、ありがとう!!

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