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 いや、アンドレイは総受けでしょ? 攻めはあり得ない……んで、イヴァン×アンドレイの鉄板カップリングより、ジェリコ×アンドレイですか?……やりますなぁ!! オリガ女史!


 わたしはオリガの背中を叩こうとしてバランスを崩し、机に突っ伏した。叩いた先の手応えがなく、勢い余って倒れ込んでしまったのだ。

 念のため、頭にくっついた二つのお団子が無事か確認し、起き上がる。一応、女子ですから。青い髪は邪悪だと怖がられたりもするけど、自分では結構気に入っている。

 

 バランスを崩したのはオリガのせい。だって、オリガってば、霊体状態なんだもん。黒いローブの下は空っぽ。そのうえ「きひひ……」と、魔女の婆さんじみた笑い声を立てるもんだから、クラス中から不気味がられている。わたし? わたしは推し活つながりで、この変人と仲良くなった。

 

 わたしたちが今、夢中になっているのは騎士団!

 騎士団って、魔法学校とちがってイケメンだらけなんだもんね。しかも、男の園。空想がはかどるってもんよ。

 それで、自作した騎士団BL漫画を見せ合いっこして、妄想を膨らませているところだった。放課後、憩いのひとときよ。


 でも、校内に生息する腐仲間がそろそろ集まってくるはずなのに、全然来ない。代わりに蛛の巣のようなネガティブな空気がまとわりついてきた。


 発信源はすぐ近くから。「君はダメだ」とか、「どうしてちゃんと頑張れないんだ?」とか、「そんなんだから落ちこぼれるんだ」とか……ブツブツ言っている。


 あーーー、よーく知っている声だ。婚約者のレオニードだよ。丁寧に編み込まれた栗毛と金縁の眼鏡。イヤミな秀才というのが、しっくりくる。

 いつの間にか、レオニードはわたしの隣に座っていた。生徒会はどうしたんだろう?……今日はない日だったか?

 生徒会で遅くなることが多いレオニードを、わたしはいつも待っていた。待ち時間は、こうやって友達と遊んでいたんだけど……


 長机でつながった向こうには生徒会仲間、わたしの妹のルチアもいるよ。レオニードが会長でルチアが副会長。黒髪ストレートにカチューシャの妹は、絵に描いたような清楚系。しかも、学年トップの成績を誇る才女。魔法学校の人気No.1美少女だよ。


 で、レオニードは魔法学校一の秀才で女生徒の憧れの的ときている。眼鏡のつるを押さえ、責めるような茶色の目で見てきた。


 ああ、そうかと、わたしは察した。腐仲間たちが集まってこないのは、コイツらが原因だ。

 お堅い生徒会のトップ二人がいたんじゃ、闇に属する彼女たちが近寄って来られないのよ。


 しかもね、こいつら、わたしに説教しやがるんだよ。


「ちゃんと、課題は出したのか?」

「お姉様、期末テストを生ゴミと一緒に捨てていたでしょう? 再テストは受けたのですか?」

「君、また赤点だったのか?」

「使える魔法が一つだけだから、実技で点が取れないのは仕方ないとしても、筆記くらいはちゃんと勉強してほしいものですわ」

「ほんとに君という人は……。ただでさえ能力が低いのに、どうして努力しようとしないんだ?」


 ……ウザい。毎度のことながら、おまえらはガミガミうるさい小姑かっての! わたしは耳を覆いたくなった。オリガにとっても鬱陶(うっとう)しかったのだろう。ローブを残して、完全消滅している。中身を失ったローブはズルリ、机から椅子に落ちた。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」


 わたしは声で威嚇する作戦を敢行した。魔法ではこの二人に負けるけど、態度は大きいもんね。青いお団子二つも角みたいに見えるでしょ?


「人が楽しく友達と話しているのに、保護者みたいに邪魔してくんな!!」


 はっきり、意思表示してやった。声を荒げたせいで、パラパラ残っていた生徒や別の教室からも野次馬がやって来ちゃったよ。……ええい、かまうものか! わたしはわたしの好きなように生きるんだ。

 この不良じみた行為のおかげで、優等生の妹は静かになった。チミは世間体が大事ですものね?

 だが、油断したが運の尽き。オリガの置いていった薄い本を、レオニードが手に取ってしまったのだ。


「なんだ、これは?? なんて破廉恥なものを読んでいるんだ、君たちは!?」


 おい、それはわたしが描いたものだよ。興味ないのに勝手に読んで、文句を言うな!!

 ……心のなかでは強気でも、やっぱり恥ずかしかったわたしは、レオニードから薄い本をもぎ取った。


「ひ、人の趣味に口出しするなっっ!!」

「君のひどい成績を()の当たりにしたら、口出ししたくもなるだろう?」

「バカなんだから、しょうがないの! これでも、ギリ卒業するために頑張ってるんだから!」

「いや、僕には君が頑張っているようには見えない。いつも怠けて遊んでばかりいるじゃないか? この間だって、勉強を教えると言ったのにすっぽかして馬上槍試合を見に行っていたし……」


 ああ、この間の馬上槍試合か。推しのアンドレイがケガしちゃったのよね……残念だったなぁ。……てか、レオニードと勉強の約束なんかしたっけ? 全然記憶にないんですけど?

 そこでコホンと小さく咳払いして、妹のルチアが参戦してきた。


「わたくしはお姉様にちゃんとお伝えしましたわ。でも、お姉様ったら、例の印画の整理に夢中で全然聞いてくださらなかったの」


 いや、おまえ、絶対伝えてないだろ? いくら、アンドレイのフォトにハァハァしていようとも、横から話しかけられたら気づくわ!! わたしがアイビームを浴びせたところ、妹は目をそらした。


「まったく、君って人は……いい加減にしろ!!」

「レオニードたちこそ、過干渉してこないでよ! 保護者か!」

「婚約者なんだから、仕方ないだろう?」

「うっとうしいなぁ。なんで、こんな人がわたしの婚約者なんだろう……」


 ちょっと言い過ぎたかな、とは思った。レオニードはしばらく土偶みたいに目を丸く見開いたまま、固まっていたよ。わたしだって、こんなこと言いたくない。けど、いつも出来のいい妹とつるんで、わたしのことをなじってくるじゃん。もう、うんざりなんだよ。


 わたしたちの周りには人だかりができていた。

 そりゃそうよね。魔法学校随一の秀才、美男美女と家柄だけいい落ちこぼれがケンカしてたら、おもしろいもんね? 人目を気にするルチアはレオニードの腕を引っ張って、退出しようとしているよ。なんだか、この二人のほうが婚約者同士みたい。

 ややあって、レオニードは陰険な顔つきになった。


「わかった。じゃあ、こうしよう」


 わざわざ前置きするのは優等生っぽい。イケメン秀才は眼鏡の位置を直し、にらんできた。


「婚約破棄させてもらおう」


 え!? 婚約破棄!? 今、婚約破棄っつったの!?

 さすがに動揺するよ。急にこんなことを言われたら……。周囲のギャラリーも、どよめいてるじゃん。反応はさまざまだ。

 「かわいそう」「自業自得」「やりすぎじゃない?」「バカだな」――私に対する同情七割、レオニード支持が三割ってとこ。ま、イヤミな秀才って嫌われるもんね。この結果は当然よ。

 騒然とするなか、ルチアは勝ち誇った笑みを浮かべていた。ああ、そういやこいつ、レオニードのことが好きだったんだっけ? 別れたのが嬉しいのか。


 小憎たらしい妹に手刀を振り下ろしてやりたかったが、大勢の前でフラれるという赤っ恥をさらしたことで、わたしの中の乙女が目覚めてしまった。目の奥がカッと熱くなり、涙がボロボロ出てきた。


「う、ううう……レオニードのばかぁ!!」


 こんなダサい捨てゼリフを吐いて、床に落とした薄い本二冊を回収する。それをオリガのローブにくるんで、負け犬さながらに、わたしは逃走した。

 教室を出る時、「待て!」とか「続きがある!」とか、まだ言ってたけど知るかっての。これ以上の羞恥プレイに耐えられるものか! おまえみたいなエラそうな奴、こっちから願いさげだっての!

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