表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

第四話 ライバル女の恋人の恋心を奪った私の話2

第四話です

フェテリシアのターンです。


四話で本編終了の予定だったのですが、もう一話増やして終了とします。


それではお楽しみください。




魔女の薬を使ったその日から私の生活は薔薇色に変わった。魔獣討伐の英雄、強くて優しくて顔もいい王子様♡そんな男を恋人として連れ歩くのは気分がいい。


みんなの視線が気持ちいい。ブライアン様は私にとって最高のアクセサリーだわ♡


「おめでたいわね~。羨ましい?そんなわけないじゃない?呆れてんのよ。貴女の面の厚さに。北の辺境に喧嘩売るなんてね。」


私の幸せにケチを付けるのは隣の席のアガサ。何で学年上がってもこの女が私の隣なのよ?


「恋人だったってだけでしょ?奪われる隙があったってことじゃない。奪われて困るならサッサと婚約でもすればよかったのよ。」


「まぁ、そんな命知らずな真似をするような女がいるとは思わなかったのでしょうね~。魔女の薬を使ってまで。」


なっ?何で魔女の薬のことを知ってんのよ?!


「えっ?何で驚くの?今まで全く相手にされなかったのに急に恋人同士になるなんて、それこそ魔女の薬でも使わないと無理じゃない。みんなそう思っているわよ?逆に何でバレないと思うわけ?」


みんな私が魔女の薬を使ったことを知っている?じゃあ、あの女にも知られているってこと…?


「大事にならない内に解毒薬渡して降参した方がいいんじゃない?」


「解毒薬…」


「魔女の薬を買ったのなら解毒薬ももらっているでしょ?まさか処分したの?」


解毒薬はもうない。

あの日私が踏みつぶした…。

もう解除はできない…。


もしかして何か報復とかされる?

背中を嫌な汗が伝っていく…。


大丈夫よ。辺境の田舎貴族が何しようと問題ないわ。


だって、彼とは卒業までのお遊びなんだし。

結婚はもっと条件のいい男でなきゃ。


卒業と同時に別れる予定だし。

欲しけりゃその後でよりを戻せばいいじゃない。


あっでも、まだその時まで恋心が消えていなかったら?私と別れても、恋心が入れ替わっているせいで全く相手にされなかったりして。


あはっ、それはそれで面白いわ。

卒業後もあの女の惨めな様子が見れるなんて、私にとってはご褒美だわ。アガサは呆れていたが、私はその後もブライアンとの逢瀬を楽しんだ。あの女に勝ったと思っていた…。


なのに何であの女がフリーになったとたんに男どもが押し寄せてんのよ?


「何でって辺境伯の伴侶になれる千載一遇のチャンスよ?逃すわけないじゃない?」


相変わらず小ばかにしたようなアガサの物言いにイラッとするも、何故か最近アガサ以外からは距離を置かれているから話し相手がいない。


最終的にあの女の新しい恋人に収まったのがエミリオ第二王子殿下。何でよっ!何であんな女が本物の王子様をゲットするわけ?これじゃあ何のために魔女の薬まで使ってブライアンを奪ったかわからないじゃない?!


あれっ?もしかして結婚したい条件のいい男に魔女の薬を使えば良かったんじゃない?やだっ、薬の無駄打ちしちゃった?


魔女の薬は一生に一度、私はもう使えない。

この国にエミリオ王子第二王子以上に身分の高い独身男はいない。悔しいっ!


こうなったら、せめて爵位だけでも上の男と結婚しなきゃ。お父様に打診しようと学期末の休みに実家に帰ってみれば、卒業と同時にブライアンとの結婚が決まったと言われ呆然となった。


「何で?どうして?私に相談なく勝手に決めるなんて、酷いっ!」


「何を言っている。結婚したかったのだろう?ブライアン殿と。魔女の薬まで使って奪った相手なのだから。」


ひゅっ、と息がつまりそうになる。

どうしてそのこと(魔女の薬)を知っているの?お父様、どうして娘の私にそんな冷たい目を向けるの?


「ちがっ、違う、ブライアンとは、お友達として親しくしているだけよっ!私、ブライアンとは結婚しないわっ!騎士爵の男なんて平民と変わりないじゃない!一体どこからそんな話が出てくるのよっ!」


「北の辺境伯自らこの家に足を運ばれて提案してくださったよ。ガッシュ子爵家とも話が進んでいる。お前の意思など関係ない。」


お父様より冷たい目で私を睨みながらお兄様が答える。どうしてそんな憎々し気な目で私を見るの?


「辺境伯?あの女の家が何で?そうか、嫌がらせね。お兄様、あんな田舎貴族の戯言、真に受けることはないわ。田舎貴族の分際でなんて失れ…きゃっ!」


一瞬何が起こったのかわからなかった。

ずぶ濡れになった自分と向かいで空のグラスを持っているお兄様を見て、お兄様に水をかけられたのだと理解した。


「お、お兄様!何を、きゃあ!何っ!」


食堂の椅子から立ち上がろうとした私の肩を、弟が掴んで押さえつけた。


「水かけられたぐらいで騒ぐなよ、バカ女。」


ゾッとするような弟の声。何で?可愛がっていた弟にまでこんな仕打ち受けなきゃいけないの?


「バカだバカだと思ってはいたが、ここまでとは…。一体どんな教育を施せばこんなバカになるんだろうな?」


お兄様の冷たい目が私から両親へと移る。

お父様は何も答えない。お母様は「ごめんなさい…。」と消え去るような声で謝っていた。


お兄様から伯爵と辺境伯の違いについて説明された。

知らなかった…。国の三分の一の兵力を保有していることも、魔道具を動かす為の魔石の大半が北の辺境伯領の倒した魔獣からの物であることも。国境を守るにあたって公爵並みの権力を有していることも。


「北の辺境伯からみれば、うちの家など吹けば飛ぶような塵芥(ちりあくた)だ。今すぐにでも貴族籍を抜いて娼館にでも叩き売りたいところだが、辺境伯の命でそれもできない。父上、母上はいいですよね。引退して引きこもれるのだから。私と妻はこれから恥をさらして社交界を生きなければならない。生まれてくる我が子もです。この頭が空っぽの恥さらしのせいで…。」


お兄様が頭を抱える…。


「俺さ、エミリオ第二王子殿下に顔と名前を覚えてもらえたんだ。言葉もかけてもらえたんだ。殿下にはね「辺境伯の提案に逆らうな。もし逆らったら私自ら手を下す。」って言われたよ。殿下から見れば辺境伯の提案はとてもお優しいんだとさ。それを蹴るなんて有り得ないよな?ははっ初めてかけてもらえた言葉がこれなんてな。俺、お前になんかしたか?バカなお前のせいで何で俺まで白い目で見られなきゃならないんだよっ!」


弟の手が肩に食い込む。い、痛い、痛いっ!


「やめておけ。嫁入り前に傷がつくといろいろと面倒だ。」


お兄様がそう言うと、弟は肩から手を離した。

お父様とお母様はお兄様たち夫婦と弟にひたすら謝っている。お兄様の妻である義姉は死んだ魚のような目になっていた。


我が家は私のせいで王族と公爵並みに権力を持つ辺境伯の不興をかってしまったらしい。辺境伯がそんなに権力を持っているなんて知らなかったのだからしようがないじゃない。


でも、それを口にしようものなら今度は本当に暴力を受けるかもしれない。それぐらい実家は居心地が悪かった。


居心地が悪すぎて学園寮に逃げ帰った私。

伯爵令嬢の私が、実家よりも狭い寮の方が居心地がいいなんて…。


新学期が始まると、私たちが卒業と同時に結婚するという噂が広がっていた。誰が広めたなんて一目瞭然だ。ちょっと家が権力を持っているからって…やり方が陰湿よっ!


当てつけにあの女が通る所にわざと行ったりしてやった。ブライアンはあの女を見ても何の反応も示さない。ふんっ、ざまぁ見なさい。


そうこうしているうちに、あっという間に最終学年が過ぎていき、卒業まで後わずかとなった…。


届いた卒業パーティーで着るドレスを見てため息をつく。見事にブライアンの色で作られている。こんなのを着れば、もう婚約したものと思われてしまう…。


でも、着ないという選択肢はわたしにはない。憂鬱な気分でドレスに袖を通してブライアンのエスコートでパーティー会場に入る。


パーティー会場で一番注目されていたのはあの女だった。贅沢にもエミリオ王子第二王子殿下にエスコートされての会場入り。王子殿下の独占欲丸出しのドレスと宝飾品を身につけて…。


「あの二人、婚約するのですって。文字通り国の盾となっているシールド家との婚姻、王家にとっても喜ばしい限りよね。」


訊ねてもいない情報を教えてくるのは、同級だったアガサ。アンタって、最後の最後まで私をイラつかせるのね。


私は爵位の劣る相手と無理やり結婚させられるというのに、向こうは最高級の男を捕まえたなんて…。悔しい、家の力はあっちが上でも、一言ぐらい何か言ってやらなきゃ気が済まない。あの女が一人になる隙を狙って声をかけた。


あの女はブライアンを奪われてから特に私には何もしてこなかった。所詮、家の力が無ければ何もできないお姫様だ。1対1なら上手く丸め込んでブライアンとの結婚回避ができるかも…などと甘い考えも持っていた。


それなのに…。


聞いてないっ!あの女が爵位持ちの貴族だなんてっ!私だって爵位持ちとそうでないものの差ぐらい知っている。知っていれば手を出そうなんて思わなかったのに!


…終わった。もう、ブライアンと結婚するしか道はない。逆らえば実家ごと潰される。家族は助けてはくれない。両親は私の結婚と同時に爵位を兄に譲って田舎に隠居が決まったと聞いたから。もう帰れる実家もない…。


パーティー会場からどうやって帰ったのかも分からない。気付けば結婚式当日。私は意地で笑顔を貼り付けていた。


新居はブライアンの実家の近くに建てられていた。むかつくことにあの女の結婚祝いだと言う。駆け出しの騎士が住むには贅沢な家だと言うけど、私からしたら真新しいだけのちっぽけな家だ。


最低限の下男下女が付くだけで、身の回りのことは自分でしなければならないなんて。私は伯爵令嬢だったのよっ!


ブライアンに辺境伯の伴侶は荷が重いからちょうどよかった、と結婚式にブライアンの家族の人から言われたけど、お義父様お義母様以下顔は笑顔でも目は笑っていなかった。


慣れるまではブライアンの実家から使用人が来てくれることになった。でも、いつまで経っても上達しない私を馬鹿にしたような目で見る。


私は上位貴族の令嬢なのよ!

出来なくて当たり前なのよっ!


憂さ晴らしに街に行っても、気は晴れなかった。辺境の平騎士の手当では買えるものなど知れているから。


あの女とブライアンの実家は寄り親寄り子の関係。ブライアンはいくら頑張っても辺境にいる限りあの女よりも上になることはない。これじゃあ、あの女に見下されながら生きているのと同じじゃない!


陛下から爵位を賜る程なんでしょ?王城で近衛騎士にでもなってくれたら、たくさんの手当ももらえるし、自慢だってできる。そう考えてブライアンに言ってみても取り合ってくれない。


何が「俺は辺境に生き辺境に死す。」よ。ふざけんじゃないわよっ!


ある日、先触れ無しにブライアンのお姉さんが訪ねて来た。


あの子(ブライアン)は昔から魔獣を狩る生活が好きなの。騎士でなかったら冒険者にでもなっていたでしょうね。」


そう言って自ら持ってきたお茶を淹れ優雅に飲む。


辺境(ここ)から出ることは許されない。今以下の生活に落ちたいと言うなら止めないけど?辺境ではね、貴族だろうと身の回りのことは自分でするものよ?有事には常に備えていないといけないから。貴女がどうなろうと構わないけど、あの子(ブライアン)の意に沿わないことはしないでね。急な病や不慮の事故で儚くなりたくないでしょう?」


「私、お菓子作りが趣味なの。」とお茶請けに出されたマドレーヌを、私は食べることが出来なかった…。


辺境(ここ)に私の味方はいない。

ブライアンとは奪った恋心が消えるまでは離婚もできない。


結婚して1年2年、恋心は消える気配がない。

子どもができて5年6年、恋心はまだ消えない。子育てに追われ9年10年、恋心はまだ消えてくれない…。


気付けば20年の歳月が経っていた…。






次話の五話は、グレイシアとフェテリシア、二人の視点のお話を半分ずつ書きます。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「無知は罪」。これ略奪馬鹿女だけじゃなく、脳筋男にも掛かっているよね。しっかり警戒していれば、略奪馬鹿女のトラップを口にすることもなかっただろうし。
[一言] 辺境伯の力で外堀を埋めたけど 外堀を埋めなくても自滅したよなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ